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俺の現実はどこか間違っている。


 街一つなら軽々滅ぼせそうなドラゴンに乗っていく。

 もちろん、そんなバカな事はしない。ラーヴェインには四人が乗れるぐらいの大きさまで縮んでもらった。


 王都までそのドラゴンに乗っていく。

 もちろん、そんなバカな事もしない。屋敷から王都までの間にあるちょっとした森の中でラーヴェインには小さくなってもらった。アリアに抱かれた白竜はぬいぐるみみたいに見える。


 森を抜け、丘を登ると立派な城壁が見えてくる。


 王都に向かって歩いていると、騎士の一団とすれ違った。


 その際、「この先で何か変わった事はなかったか?」と聞かれたが、「なかった」と答えた。


 どうやら王都南西部に古代種が現れたらしい。しかも、同時期にウィルディ山脈とやらの一部が消失したようだ。


 アリアが「あれ」とか言い出したので咄嗟に財布をチラつかせる事で難を逃れた。

 

 城壁の前にはたくさんの人がいた。

 ピカピカに磨かれた鎧を着込み立ち話をする騎士。忙しそうに荷物を運ぶ商人。地面に座り込んで駄弁る荒くれ。


 先程すれ違った騎士の一団は先遣隊みたいなモノで、こっちが本隊なんだろう、と推測できた。



 そうやって王都に来た。

 実に一週間ぶりの人ごみだ。


 ラーヴェインを連れ込めるか不安だったが、人類と契約したモンスターは特に問題ないらしい。それでも契約したモンスターというのは珍しいようで、


 「むぅ。なんで見られてるんですか」


 小さな白竜を抱いたアリアは好奇の視線に晒されている。


 「ウザかったら魔法でどうにかしたらいいじゃあねえか」


 俺は不機嫌そうなアリアに解決策を提案してやる。


 「神の力はそう簡単に使っていいモノでは無いのです」

 「さいで」


 ―― 普段めっちゃ使ってるじゃねえか。


 そんなこんなで目的地であるギルドにやってきた。人はまばらでどのテーブルでも選び放題だ。


 「じゃあトウカ、クエスト選んで来いよ。俺たちは適当なとこで座ってるから」


 俺はトウカとの約束を忘れてなんかいなかった。


 本当はエドラム城を見た時に思い出しただけだが、そんな些細な事はどうでもいい。女の子との約束を忘れていない、その事実が大事なのだ。


 トウカは瞳を輝かせて、「任せてくれ!」とクエスト用紙が貼り出されている掲示板の方へ駆け足で去っていった。


 「一体どのようなクエストじゃろうな」

 「どうせ硬いヤツだろ」

 「ですね」

 『グォー』


 念の為だがラーヴェインには人の言葉を話すな、と伝えてある。このドラゴンはもうペット枠だ。アリアとステラに「お手」とか言われてるのを見ると、王様って事なんて忘れてしまいそうになる。


 適当なテーブルに腰を落とし、しばらく待っていると、


 「あんたがカケルね! 探したわよっ!!」


 肩をぐいっと掴まれて、強制的に体勢を変えられた。

 そうしてきたのはピンク髪のおしゃれ美人さんだ。白いワンピース姿で腰には太めのベルトが巻かれている。だからか、胸がデカく見えた。


 「……」


 俺は必死に思考する。


 ―― このツンデレ属性…… バルカンにぼこぼこにされてたヤツだよな。騎士みてえな鎧は着てねえけど。この子の名前…… 名前……


 「……」

 「―― っっ!」


 女の子の顔が耳まで赤に染まった。


 「ちょっとこっち来なさいっ!」


 俺は恥ずかしがってる美人に連れられてギルドの裏口から外に出た。


 そこは人気の無い路地裏になっていた。

 目の前にいるのはもじもじしている女の子。何か言いたそうにしているが上手く言葉にできないようだ。


 俺は悟った。


 ―― これは…… 告白タイムっ!!


 場所は違うが、ココが校舎裏だと考えればこの状況の説明がつく。

 この子がボコボコにされてた時にその相手をぶっ飛ばしたのは俺だ。俺の名前もなんでか知ってるし、「助けてくれてありがとう。あなたの事が……」みたいなセリフをツンデレ属性持ちが素直に言えるはずがない。惚れられていると確信できる。


 これが俺の脳内に導き出された結論だ。


 ―― いやまてよ。ここ最近俺にとって良い事ばかり起きている気がする。ゴキカブリを倒した事で索敵スキルは強化されたし、ドラゴンと契約もした。カッコいい変身アイテムも見つけることが出来た。一応俺をハメようとしていないか魂の色でも見てみるか。


 俺は眼に魔力を集めて、


 ―― ふむ、白か。


 心の中で呟いた。

 理由はもちろん、この子の下着が白だった場合あらぬ誤解を受けるからだ。頭の回る俺はそんなヘマはしない。


 「…… あたしの名前、言ってなかったみたいね」

 「あぁ、そうだな」

 「あたしの名前はロタ。冒険者としての名前だけどね」

 「俺の名前はカケル。冒険者としての名前だけどな」

 「…… カケルに言わないといけない事があるのよ」


 来たか。


 「なんだ?」

 「あんた、バルカンを捕まえたわよね? アレ、あたしの獲物だったの」


 求めてた言葉じゃあないんだが。


 「…… そりゃあ悪かったな。横取りしちまって」

 「謝る必要は無いわ。あたしの力じゃ犯罪の証拠を集める事は出来ても、捕まえる事はたぶん出来なかった。あいつのスキルは姿だけじゃなくて触れているモノと自分の魔力の存在も消せたから」


 ほえ~。


 「ここからが本題よ」


 こっちか。


 「なんだ?」

 「…… あんた自分の状況分かってないでしょ?」


 違う。


 「その顔だとやっぱり分かってないようね」

 「何の話だよ」

 「あいつが何をしたかは知ってる?」

 「詳しくは知らねえな」


 俺の返答に、ロタは大きく息を吐いた。


 「あいつは3年前、『王族惨殺事件』の現場にいた男なのよ。現場には他にも4人いた。あたしは顔を視ただけだから名前は分からないけど、きっと裏社会の人間ね。カケルはそいつらから狙われてる」

 「…… ふっ」


 俺は踵を返した。


 ―― 裏社会の人間に狙われている、それは別に怖くない。だって人間相手ならアリアがいるし、俺を護ってくれるペットもいる。それに、俺のスピードにはどうせ付いてこれない。バルカンがめちゃくちゃ弱かったんだからそうに決まってる。

 問題は物騒な事件の方だ。闇深そうだしそっちは関わりたくない。


 しかし、「ちょっと待ちなさい」と肩を掴まれる。


 「離してくれ。俺は何も聞かなかったことにするから」

 「あたしの忠告は聞いておくべきよ。あたしの眼は特別でね。その場で起きた過去の出来事を視る事ができるの」

 「そりゃあすげえや」

 「バルカンのアジトがあった古城にあたし行ったの。そこでこの眼を使った。そしたら黒づくめの男二人の会話に、『カケル』の名前が出てきたのよ」

 「ふーん」

 「…… あんた怖くないの? 命が狙われてるって言ってるのよ?」


 俺は顔だけ後ろに向けた。

 ロタの顔は俺の事を本気で心配しているように見える。


 ―― これは、チャンスだ。ここで男として余裕を見せる事ができればこの美人をオトせるに違いない。


 俺は小さく息を吸って、言ってやった。


 「だって俺、強いもん」


 ロタの目が丸くなる。


 俺はこの表情を知っていた。


 ―― ときめいている。明らかに。


 少女漫画でトゥンクしてる時の表情を彼女はしていた。

 俺は心の中でガッツポーズを決め、ふと思った事を訊いてみた。


 「ロタ、お前何者だよ」


 ここまで話を聞いていると、普通の冒険者には思えなかった。


 「……」


 ロタは肩を掴む力をちっとも緩めず、トゥンクしたまま動かない。


 「おい」

 「…… そ、そうよね。あたしの正体を知ってた方が信用してもらえるわよね」


 ロタはなんか勝手に「うんうん」と納得しながら言葉を続け、


 「あたしはロベルタ・ナルズ・サルミエント。サルミエント家の人間よ」


 俺に正体を打ち明けた。


 「ほう」


 ―― サルミエント家って、ステラが言ってた『サルミエントこうしゃく家』の事だよな。貴族の中で『こうしゃく』ってのがどれだけ偉いかなんて知らねえが犯罪組織を生み出した貴族なんだからロクでもねえ貴族って事か。こいつは自分たちの家系の汚点を消す為に動いてた、そんなとこだろう。


 俺はこほん、と咳ばらいをして、


 「ロベルタの正体は分かった。貴族だったんだな。で?」

 「で? ってなによ。忠告はしてあげたわよ」


 さあ、言え。


 「それは聞いた。が、他に言う事あるだろ?」

 「そ、それは……」


 さぁ、あのセリフを言うんだ。


 「俺に言う事は他にあるんだろ? じゃなかったらこんなとこに連れ出してこねえもんなぁ」


 ロベルタは次に、「あんたの事が好きになっちゃったのよ! 心配してあげてるのが分からないの!? ばか!」、的な事を言う。


 そうなるはずだった。


 でも実際は、


 「分かったわよ! 謝ればいいんでしょ! 巻き込んじゃってごめんなさい!! あたしの力不足が原因でした!」


 ロベルタはそう言い残して走り去っていった。


 どこで間違った。

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