表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/88

俺の契約はどこか間違っている。 3


 『Conversion completed. Magic path creation completed. Ends support.』


 俺を包んでいた青白い光が泡のように消えた。

 現れたのは白い包帯が巻かれた両腕両足と、左手首に装着された銀色のリング。身体を見下ろすとボロボロの黒衣を着ているのが分かった。俺が元々着ていたのがフーディーだった影響か、黒衣にはフードが付いている。


 ―― 恰好はヒーローってよりヴィランみてえだが…… これは。


 「変身……!」


 俺は湧き上がる感情を抑えるように拳を握りしめる。かなり力を込めて握ったのに、包帯のおかげか全く痛くない。


 「と、とりあえず解除方法を調べねえと」


 ―― 英語で解除ってなんて言うんだっけ。キャンセル?…… 反応ねえな。アクセプトって頭ん中で言ったら変身したんだよな…… 多分。だったらその反対の言葉か? アクセプト、イクセプト、ウクセプト…… リクセプト。そうだ! Reを頭に付けたら反対の意味になるって習った気がする。なら、リアクセプト…… ダメだ。


 俺は思考を重ね、変身解除方法を探す。


 ―― そういやゲームでメインメニューに戻る時の英単語があったな。確か、エグジット。…… これもダメか。じゃあポーズ、ストップ…… クウィット。


 思い付く限りの英単語を羅列していくが、リングはうんともすんとも言わない。万策尽きかけたところで、ふいにとある漫画のルビ付きセリフを思い出した。


 ―― 解放番号(リリースナンバー)


 『Accept release code. Shifts to standby mode.』


 その言葉で、俺は黒衣と両腕両足の包帯から解放される。


 「てことは、だ。魔力を腕輪に流したら――」

 『Accept to enter the conversion mode?』

 「って頭ん中で聞こえて。アクセプトって言うと――」


 俺を青白い光の泡が包み込んで、黒衣と包帯が現れる。


 『Conversion completed.』

 「変身する、と。んでリリースナ――」

 『Accept release code. Shifts to standby mode.』


 黒衣と包帯が青白い粒子になって霧散する。


 「リリースで変身解除って事か! …… ふぅぉぉぉおおおおっっ!!」


 俺は喜びを爆発させて、スキップで屋敷へ戻った。



 リビングの扉を軽く開いて中を観察すると、約一名は両の掌で顔を覆っているが、ちゃんと全員いた。アリアはトウカにぴったりとくっついていて、トウカは気にしない様子で刀の手入れをしている。


 ―― ステラの様子からすると赤ちゃんの時の記憶もあるみてえだな。


 俺はすっと息を吸い込んで、


 「……」


 神妙な面持ちでリビングへ入った。


 「その様子だと何も見つからなかったようだな」


 最初に反応したのはトウカだった。

 俺は茶色い腕輪を指先でくるくると回して答える。


 「…… 何ですかそのゴミ。そんなのよりお金になる物を見つけて来て下さい」


 次に反応したのはクソガキだ。

 若干イラついたが、俺は鼻で笑って答え、ポーズを決める。


 「何してるんです?」

 「…… ま、よぉーく見とけ。ステラもな。すげぇもん見せてやる」


 俺は微動だにしないステラに声をかけて、腕輪に魔力を流し込んだ。


 『Accept to enter the conversion mode?』

 「変身っっっっ!!!」


 アクセプト!


 『Conversion completed.』


 俺はヒーローのように変身を決めた。


 「「「……」」」


 三人は口をぽかんと開けて、ただただ俺を見ている。


 「どぉーよ? かっけぇだろ?」

 「「「……」」」


 あれ、思ってた反応と違うな。なんか間違ったか? …… よし、もう一回だ。リリース。


 『Accept release code. Shifts to standby mode.』


 俺はポーズを決めなおして、


 『Accept to enter the conversion mode?』

 「変………… 身っっ!!!」


 アクセプト!


 『Conversion completed.』


 もう一度変身して見せた。

 すると、座って見ていただけのステラが言った。


 「わ、妾も、その…… ソレやってみてもよいか?」


 ふっふっふ。やはり真っ先に食いついたのはステラだったか。


 「やりてえのか? 変身」

 「妾は知的好奇心というヤツをじゃな……」

 「正直に言えば貸してやる」

 「妾も変身したい」

 「よく言った」


 俺は変身を解除して、近付いてきたステラに腕輪を渡す。

 彼女はまじまじと腕輪を見つめ、手首に通した。


 「どうやればよいのじゃ?」

 「ソレに魔力流して、変な音が頭ん中で響いたらアクセプトって言うだけだ。心の中でアクセプトって言って、口に出すのは変身でもいいぞ」


 ステラは頷いてから目を瞑り、わけの分からんポーズを取って、


 「…… 変身」


 恥ずかしそうに呟いた。

 だが、ステラの容姿に変化は見られない。腕輪も茶色いままだ。


 「…… カケル。どうなっておる」

 「恥は捨てねえとな」

 「変な音というのは喚き散らすような音で合っておるのか?」

 「いや、そんな音じゃあねえけど。ぇあくせぷとぁえんたきょんば、みてえな音は聞こえねえのか?」


 ステラは少し考えるように口元に手を当てた後、


 「アリアよ、ちと来てくれ」


 ポンコツを手招きした。

 アリアは心底嫌そうな顔でトウカから離れ、とぼとぼ近寄ってくる。


 「何ですかステラ。誰かさんが聖域魔法の契約してないのであんまりトウカから離れたくないんですけど」

 「まぁそう言うでない。神の力の出番なのじゃからな」

 「っ!」


 ステラはアリアの手首に腕輪を通しながらそんな事を言った。


 「どういう意味だ?」


 俺はどや顔になりつつあるアリアをスルーして、ステラに尋ねる。


 「アリアの『言語の加護』の出番、という事じゃ。恐らくカケルが言っておる音とは帝国語の事じゃからな。さ、アリアよ。その腕輪に魔力を流してみよ」

 「ふふん、任せてください」


 アリアは無い胸を張って、


 「何か…… エラー、所有者の変更は現在実行不可能、って言ってますね」

 「え、お前何言ってるか理解できるのか?」

 「ふふん、当たり前じゃないですか。神に不可能はありません。カケルがさっき言ってた変な言葉は理解できませんでしたが」


 英語、いやこの世界では帝国語を翻訳してみせたアリアに対し、ステラが頭を撫でる。


 「さすがアリアじゃ。もう一つ頼んでもよいか?」

 「もちろんです!」


 ステラはアリアの手首から腕輪を取り、俺に渡してきた。


 「もう一度変身し、腕輪の内側をアリアに読ませてみてはくれんか?」

 「…… いいけど。ちょっと待ってろ」

 「もうポーズは決めなくてもよいのじゃが」

 「それは無理だ。コレはすげえ大事なことだからな。…… 変っっっ身っっ!!」


 俺はカッコよく変身して、左腕を「ほれ」とアリアに預けた。

 アリアは腕輪の内側を覗き込みながら、言った。


 「えーと、『エム、シー、1586』って彫られてますね」

 「ふむ。やはりか」

 「何か分かったのか?」

 「これは魔装具じゃな。まだ存在しておったとは驚きじゃ」

 「魔装具? 魔道具じゃなくて?」

 「そうじゃ。カケルも聖戦の事は知っておろう? 魔装具とは聖戦の際、帝国側が用いておったとされる武装の事じゃ」

 「へぇ、これそんな昔の物なのか。よく分かったな」

 「帝国製の物には造られた年が帝国文字で刻まれておるんじゃよ」


 俺はステラに促され、リングの内側を確認する。


 ―― 確かに、『M.C 1586』って彫られてんな。


 「しかし、帝国の魔装具と言えば鋼鉄で全身を覆い、火器を装備していると文献に記載があったのだが、カケルの風貌はソレとかなり違っておるな」

 「……」

 「どこかの暗殺者みたいな見た目してますね」


 うるせえな。


 「まぁ、魔装具を持っている事は妾たち以外に知られぬようにな。なにせ聖戦の遺物じゃからな。当時を知っておる種族はもちろん、帝国を忌み嫌っておる連中は多い。そやつらに見つかれば終わりじゃ」

 「終わりって、そんな大袈裟な」

 「くはは! 大袈裟でも何でもないぞ? 実際、聖戦後に行われた機械狩りでは魔装具を所持しておるだけで処刑された人々がおるからな」


 やっぱこの国おかしくね? すぐ死刑にするじゃん。


 「ステラの言う通りだ。帝国の遺物を所持しているという事は知られない方が良い」


 いつの間にか近づいていたトウカが口を挟んできた。

 

 「聖戦に関わりの無かったジャポンティでもグランマキナ帝国の侵略については学ぶからな。その対象になっていたこの国の人たちの帝国、皇帝ゼノンに対する憎悪は計り知れない」

 「…… そんなデカい戦争だったのか?」

 「世界地図が書き換わる程にな」

 「じゃあ金に困った時に高値で売るって事もできねえの?」

 「「死にたいのか?」」

 「死にたくないです」


 ちょっと楽しんでから売ればいい。

 その考えは消えてなくなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ