表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/88

俺の幽体離脱はどこか間違っている。


 ―― このベッドふかふかであったけぇ。なんかお日様の香りもするし。てかもう朝かぁ。昨日は頑張ったから今日はふかふかベッドで二度寝…… ん? 俺の部屋にベッドなんかあったか?


 違和感に気付き、瞼を開ける。


 「…… どこだここ」


 俺の目に映ったのは見慣れない部屋の様子だった。どこか病院の個室を感じさせる部屋には窓があり、そこから雲に浮かぶ石造りの街が見える。


 俺は記憶を辿った。


 ―― キングマルメドリさんが『所用を済ませてくる』とか言ってどっか行った後、俺はそのまま屋敷に戻ったよな。で、案の定スヤスヤ寝てたバカ二人のとこに赤ちゃんステラ放り込んで…… 寝た? いや、違うな。確か仰向けになったら横っ腹んとこの内臓が焼かれるみてえに熱くなって寝れなかったんだ。それから…… どうしたんだっけ。


 俺はそこまで考えて、一つの答えを導き出した。


 「これ俺死んでね?」


 俺はガバッと起き上がって、窓へ近づく。


 「雲に浮かぶ街なんて普通ありえねえよな。でも天界とか天国ってあんなイメージ…… ってなるとあの横っ腹がクソ熱かったのって肋骨が内臓に突き刺さってたとか? え? マジ?」


 俺は絶望した。


 ―― 嫌だ嫌だ嫌だ! せっかく異世界人らしいことできたってのに! これから俺の冒険が始まるとこだったのに! デケぇゴキブリの体当たりで死ぬなんて嘘だろ!? こんなのおかしい! 絶対に間違ってる!!


 コンコンコン


 絶望する俺の耳に音が転がり込んできた。

 俺は音のした方へ振り返り、身構える。


 「お目覚めのようですね。カケル様」

 「うぇ」


 扉から入ってきたヤツの顔が無い。首から下はメイド服で、背中には真っ白な翼が生えている。ブロンドの長い髪は結い上げられていて、控えめだが胸の膨らみも確認できた。でも顔が無い。のっぺらぼうみたいなソイツを見て、理解した。


 ―― 死神だ。


 俺は死神から離れるように部屋の隅へ移動して、更に警戒を強める。


 「どうして離れるのでしょう?」


 死神が首を傾げながら言った。


 「俺を連れて行くつもりだろ!」

 「その為に私は参りましたので」


 ―― やっぱりだ!


 俺はカーテンを引っ掴んで、


 「絶対に俺は行かねえぞ! 俺はあの世界に帰る!! ドラゴンと契約できたんだぞ! これからだったんだぞ! そんな時に召されてたまるか! さっさとどっか行きやがれ死神野郎!!」


 叫んだ。

 死神は首を傾げたまま、答える。


 「カケル様は死んでなどおりません」

 「…… 死んでねえの?」

 「はい。ただ魂が肉体を離れているだけでございます」


 俺は掴んでいたカーテンを手放して、


 「なーんだ。ただ魂が肉体を離れてるだけかぁ。ちょっと焦ったぜ。…… ってソレが死んでるって状態じゃあねえか!!」


 もう一度カーテンを引っ掴んだ。


 「……」


 死神から言葉による返答は無い。代わりに、ブゥンッという音と共に死神の手元に光の本が現れた。

 俺は反射的にカーテンの裏側に身を隠す。


 ―― なんだ? ついに実力行使ってやつか?


 顔だけを出して死神を見ていると、光の本が物凄いスピードでパラパラとめくられている。


 ―― 本がひとりでにパラパラしてるって事はアレは魔導書か! 死神め。お前が何しようがぜっっったいにココから動かねえぞ。


 光の本の動きが止まり、死神は頭を下げてきた。


 「申し訳ございません。誤解を招く言い方をしてしまいました」

 「……???」

 「カケル様は現在、ERSI―― 幽体離脱をしております」


 ほえ~。


 「それでは共に参りましょう。サリエル様がお待ちです」



 SFチックな光の通路を、顔の無い天使の背中を追って歩く。

 俺はその背中に向けて、言葉を投げ続けている。


 「あの、さっきは死神とか言ってすみませんでした。天使だったんですね」

 「謝罪する必要はございません」

 「「……」」


 「光る本みたいなのって、アレなんですか?」

 「魂情報の記録媒体です」

 「「……」」


 「俺たちがいるココってどこなんですか?」

 「魂を管理する塔でございます。私とカケル様は第1階層『魂の安息所』というフロアに存在しております」

 「第1階層って事は他にもあるんですね」

 「その通りでございます。魂の管理塔は全7階層で構成されております」

 「「……」」


 「あなたのお名前は?」

 「私は『リピカ』とサリエル様より呼称されております」


 リピカは聞いた事には答えてくれるが、自発的な発言は無い。


 ―― 機械みてえ。


 そう思ったのは意思あるモノと会話してる感覚が無かったからだ。ソレがリピカの不気味さをより増大させる。


 それからしばらく歩いていると、先の方にエレベーターの扉みたいなのが見えてきた。

 リピカが手をかざすと扉が開き、俺は彼女に続いてエレベーターへ乗り込んだ。中は四方が壁に囲まれた箱みたいになっていて、扉の横には一から七のボタンが付いている。


 「エレベーターみたいですね」

 「サリエル様の趣味でございます」

 「「……」」


 訪れた静寂をかき消すように、プシューとエレベーターの扉が閉まる。


 「サリエルは第何階層にいるんですか?」

 「サリエル様は第6階層の外にいらっしゃいます」

 「外?」

 「言葉の通りでございます」

 「「……」」


 ―― 階層の外ってどういうこった。


 リピカは『6』のボタンに手を伸ばし、表情の分からない顔をこちらに向けた。

 

 「…… なんです?」

 「その、別フロアもご覧になられますか?」


 それは初めてリピカが自発的にした発言だった。

 俺はなんだか嬉しくなって、


 「もちろんお願いします」


 と返した。

 俺の返答を聞いたリピカの天使の羽がぴくりと動く。俺はすかさず言葉を投げた。


 「第2階層はどんな所なんですか?」

 「第2階層は『魂の記録室』というフロアでございます。私たちがサリエル様より与えられた使命を全うする為の場所と認識してください」


 そう言いながら、彼女の指先は『2』のボタンを押した。


 「到着致しました」

 「早くね?」


 リピカがボタンを押してから数秒も経っていない。


 「空間という概念が存在しておりませんので」

 「あぁ、そうですか」


 ―― わけわかんねえ。


 プシューとエレベーターの扉が開き、


 「…… え?」


 リピカの言った『魂の記録室』というフロアの光景は、俺の予想を軽く超えてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ