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俺の害虫駆除はどこか間違っている。 3 (イラスト有)


 視線の先にいるモンスターが少し小さくなった。反動をつける為に本体を門の外へ引いたのだろう。その力はかなり強いのか、ミチミチという音が聞こえてくる。

 そして俺の脳内にとある可能性が浮かび上がった。


 「なぁステラ。聖域魔法って契約魔法の一種って言ってたよな」

 「そうじゃな」

 「俺ってこの屋敷買った時そんな契約結んでたか?」


 聖域魔法はモンスターの侵入を阻む為の魔法。聖域魔法が機能しているというのなら、今頃ヤツの本体と触手は分断されているはず。本体は敷地の外、四本の触手は門柱へ巻き付いたまま離れる様子が無いというのは明らかに変だ。


 「………… くはは」

 「『アクセル』――っ!!」


 俺は加速した。

 黒光りするモンスターが反動をつけ終わるまでに門まで辿り着かなくてはならない。もしあの弾丸が発射されてしまえば玄関か俺の拳かどちらかが破壊されてしまう。だが、発射される前ならゴムボールを蹴るのと大して変わらないはずだ。

 俺は走った勢いそのままに、モンスターの顔面に渾身の前蹴りを繰り出す。ペキっと飴細工を踏むような感触がして、直後にブニュブニュとした感覚が靴裏を通じて足へと伝わってきた。


 「きめぇっっ!!」


 咄嗟に足を引く。

 月光に照らされ黒光りする外骨格が割れた隙間から、細い小さな触手たちが蠢くのが見える。そしてゴキカブリの姿に違和感を覚えた。


 ―― コイツ足6本ちゃんと揃って…… 


 俺はステラのいる玄関へ振り返る。


 「クソっ!!!」


 玄関の明かりの奥に黒い物体があるのが見えた。


 ―― やっぱりもう一匹いやがった!


 俺は玄関前で楽しそうに微笑むステラの元へ駆け出した。


 ステラに手が届きそうな所で、彼女の背後にゴキカブリが触手を展開しながら迫るのを確認する。


 「間にっ―― クソがあああっっ!!」


 俺はスキルを解除しながらステラを押し倒し、背中から地面に落ちた。直後、頭上をモンスターの影が通過する。

 ほっと息を吐きたかったが、飛び込んだ勢いはソレを許してくれなかった。


 ズザザザッと音を立てながら俺の身体は地面を滑り、屋敷の壁に背中から激突した。


 「―― かはっっっ」


 ―― 息がっ!


 背中を強打した事で呼吸が上手くできなくなる。この現象は以前も経験した事があった。中学の休み時間にノリでオーバーヘッドキックを繰り出し、背中から落下した時だ。


 意図しない涙で視界がぼやける。

 それでも、モンスターが門の外へ飛んで行くのは確認できた。


 「―― っっ! げほっ…… かほっ…… クソっ!」


 呼吸は復活したが、胸が軋むように痛む。


 「辛そうじゃな」


 腕の中のステラが言った。


 「ケホッ。いや、全然」

 「はぁ、仕方のない奴じゃ。ほれ」


 ステラは起き上がり、手を差し伸べてくる。


 「…… 助かる」


 その手を取り立ち上がると、ステラが言った。


 「何を言っておる。助けられたのは妾の方ではないか。感謝を述べるのは妾の役目じゃ」

 「……」


 さっきまで腕の中で楽しそうに笑ってたくせに。


 「魔力はどれほど残っておる」

 「分からねえ」

 「自分の事なんじゃからなんとなく分かるであろう? …… いや、よい。妾の魔力を分けてやろう」


 ステラと繋いだ掌から熱が伝わって、


 「お、おい! なんかおかしいぞ!」


 全身がぷるぷるし始めた。


 「くはは! どうやらカケルの魔力量を超えてしまったようじゃな」

 「笑い事じゃねえって! どうすりゃ止まるんだ」

 「丁度よいやもしれん。その状態で探知スキルを使ってみよ。普段通りではなく、もっと広い範囲、そうじゃな…… 屋敷の敷地全体をイメージしてみるんじゃ」

 「もしかして今の状態なら限界以上のスキルが使えるかもって事か?」

 「まあそんな感じじゃな」

 「了解。『ソウルサーチ』――」


 俺の脳内に屋敷の全体図が浮かび上がる。アリアとトウカの魂反応は茶室にある。


 ―― あいつらは無事。次にやるのは……


 俺は敷地全体をイメージし、同時にモンスターの魂反応を探す。

 すると徐々に全身の震えが無くなっていった。


 「敷地内にもうモンスターはいねえな」

 「ふむ、それならば――」


 ステラは俺に背を向けて、門の方へ一歩踏み出す。


 「待てって」

 「なんじゃ。聖域魔法が無いと分かっておるのじゃからあの虫どもを殲滅するのが次の一手に決まっておろう」

 「そうだが、俺に考えがある」


 俺は自分のひらめきをステラに伝える。

 これは俺にとって渾身のアイデアだった。

 ステラの弱点は天体魔法を発動する為に詠唱を必要とする事だ。だが、それを克服できる手段を俺は持っている。

 『アクセル』を使用中にステラが詠唱を済ましてしまえば、そんな弱点無いにも等しいだろう。


 「俺って天才なのかもしれねえ」

 「それは無理じゃな」

 「…… なんで」

 「妾も同じ事を考え、屋敷内で試してみたんじゃよ。じゃが、オドを巡らせる事はできたんじゃがオドをマナに干渉させる事は無理じゃった」


 なんてこった。


 「つまり、また俺は時間稼ぎって事か?」

 「そうなるであろうな」


 俺は大きく息を吐き、ステラと共に門をくぐった。



 星が霞むような月明りの下。


 「なんかより気持ち悪くなってんな」


 草が生い茂る平原に佇むのは二つが一つになったゴキカブリ。しかも前後ろが別々で合体している。


 「アレは元々個の集合体じゃからな。前後左右は特に無いのであろう」

 「うへえ」


 ゴキカブリの本体は黒い殻ではなかった。口の中に見えたうじゃうじゃキモいのもゴキカブリ。うねうね飛び出してる触手もゴキカブリ。この場所へと地面を這いずっていた四本の触手もゴキカブリ。


 ―― やっぱ寄生虫って俺無理だ。


 「さて、久しぶりの魔法じゃな」


 隣に立つステラは嬉しそうな顔をして、そう言った。


 「…… 仕方ねえな。時間は稼いでやるから撃ち漏らすんじゃあねえぞ」

 「そう時間はかからぬがな。魔力は充分、後は詠唱だけじゃ」

 「そりゃあ助かる」

 「何やら自信あり気な顔をしておるな」

 「まあ見てろって。『アクセル』――っ!」


 俺はゴキカブリとの距離を瞬時に詰めて、


 「食らいやがれっ!『ファイアーボール』――!」


 ほぼゼロ距離で初級魔法を放った。

 掌から野球ボールサイズの火の玉が出現し、ソレはモンスターにぶつかり、儚く消えた。


 ―― やっぱ無理か!


 「クソっ!」

 『ギィギィギィギィギィギィ』

 「なんだなんだ? クソ虫のくせに怒ったのか?」


 言葉は通じないと分かっているが、コイツの注意をステラから逸らすのが俺の役目。俺の打撃も魔法も効果が無い現状では害虫を駆除できるのはステラの魔法だけなんだから仕方がない。


 『ギィギィ…… ギィィィィィィィ!!』


 ゴキカブリから八本の触手が伸びてくる。


 「遅え!! 『アクセル』――っ!」


 ゴキカブリの脅威だったあのスピードは触手には無い。いくら手数が増えたところで、『アクセル』を使っている俺には止まって見えた。


 「もう触りたくはなかったがっっ!」


 俺は加速したまま触手に手を伸ばし、ソレを本体へ巻き付けた。


 「まあ初めてにしちゃあ上出来だろ」


 完成した自分の作品を見て、ステラの元へ帰ると、


 「アレが自信あり気だった理由か?」


 意味深な視線をぶつけられた。


 「…… アレで動けねえだろ」


 ゼロ距離で撃てば意外と効くのでは、とか考えてたなんて言えるはずがなかった。


 挿絵(By みてみん)

イラスト作成はAiです

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