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俺の同居生活はどこか間違っている。 2


 俺は縁側でお茶に口をつけながら、


 「空が、泣いている」


 ぽつりと言った。

 今日は雨。というより、真理に気付いたあの夜からずーっと雨だ。梅雨ってやつなのだろう。

 空は表情を曇らせて泣き喚き、大地はそれを受け止める皿と化す季節だ。

 ちなみに、鹿威しは機能しないように止めている。

 雨の日はカコンカコンと絶え間なく鳴り響いて、風情もクソもないからだ。


 「何か言いましたか? よく聞こえなかったのでもう一度お願いします」


 背後からの声に不意を突かれた俺は身体を少し跳ねさせて、振り返って言った。


 「な、何も言ってねえよ。今日も雨だなって……」


 勝手に入ってきやがって。


 「確かにここの所、ずっと…… 空が泣いてますね」

 「おお、おまっ! 聞こえてんじゃあねえか!!」

 「ぷぷぷ! 私がカケルの面白い発言を聞き逃すはずありません!」

 「面白くねえよ! んな事より何の用だ」


 アリアはクスクスと笑いながら、


 「ステラが呼んでますよ」

 「ステラが?」

 「はい、大事な話とか言ってましたけど」


 まさか…… いやいや、あの事はまだ誰にもバレてはいないはずだ。

 俺は一抹の不安を抱いて、リビングへ向かった。



 リビングでは、冷房魔道具の側でステラとトウカが困ったような表情をしていた。


 「どうしたんだ?」

 「このままでは冷房魔道具が使えそうにないと、ステラが」


 クーラーが使えない? んなアホな。この世界の夏の暑さなんて知らんが、クソ暑い日にクーラー無しとか考えられねえ。


 「なんで使えそうにないって分かったんだ? 起動してみたのか?」

 「いや、起動云々の話ではない。そもそも、この魔道具には魔石が付いておらん。前の持ち主が魔石は取り外して持って行ったようじゃな」

 「付いてないなら付けりゃいいじゃねえか。魔石なんてダンジョンにゴロゴロ落ちてるだろうし、落ちてないなら店で買えばいいだろうしで、そんな真剣に悩むような事じゃあねえだろ?」

 「「「……」」」


 ふむ。

 こいつ何言ってんだ、とでも言いたそうな視線だな。

 アリアとステラはともかく、トウカまでダンジョン怖いって事はないだろうし…… って事はつまり。


 「おいまさか。魔石は魔力量の多い危険なモンスターの体内でのみ生成されるモノって展開じゃあねえだろうな」

 「「「おぉ」」」

 「……」

 

 感心してる場合じゃねえよ。だがしかし、どうするか。危険なモンスターからしか取れないって事は安くはないだろうし、まさか俺たちで倒すってわけにもいかねえだろうし…… 冷房魔道具は諦めるしかない、か。


 いや、諦めてなるものか。となると、やっぱ金稼いで魔石を買うってのが安全かつ確実か。急がば回れって言うしな。


 頭の中で方向性を決めた時、


 「ふふ、私に良い案があるんだが、き―― いっっ!?」


 トウカはしたり顔で一歩踏み出して、足の小指を冷房魔道具のカドにぶつけた。

 何故その場で話し始めなかったのか、と突っ込むのはやめておいた。めちゃくちゃ痛そうにしてるから。


 「…… 大丈夫か?」

 「くっ! この魔道具、意思を持っていたと――」

 「違うから」

 「カケルはどっちの味方なんだ!?」

 「どっちもこっちもねえよ。で、良い案ってなんだ?」


 未だ足の小指をさするトウカは、


 「ふぅ…… 私がその危険なモンスターとやらを斬ってしまえばいいのだろう?」


 どや顔で言い切った。

 ついさっき小指を痛めたヤツとは思えない表情だ。どこからその自信が湧いてくるんだろうか。

 パンプゴブリンの時や、腕力だけで牢屋をぶっ壊したトウカの戦闘力は凄まじいと思うが、ドジっ子のせいでガルウルフ程度に命を奪われる可能性もあったってのに。


 俺は小さく息を吐いて、


 「あのなぁ」

 「よい提案やもしれぬな」

 「え?」


 困惑する俺とは対照的に、トウカの瞳は輝き始めた。


 「いやちょっと待て。確かにトウカは強い。強いがまだ駆け出しに毛が生えた程度だろ。そんなヤツでも倒せるようなモンスターなのか?」

 「くはは! 妾の天体魔法とトウカの剣術が駆け出しのソレと本気で思っておるのか?」

 「そりゃあ二人は――」

 「ふふ」

 「くはは」

 「「任せろ」」


 不安しかねえ。



 とりあえず、明日はギルドでクエストを探す事になった。

 明日もし雨が止めばあいつらがまだ気付いていない事実を知ることになるだろうが、もう気にするのはやめた。


 夕食を終え、もう真夜中とも言える時間だ。

 明日は朝早い為、そろそろ寝ようかとしていたところで、


 「きゃああああああああああっっ!!」


 アリアの叫び声が屋敷全体に響き渡った。

 俺は飛び起きて、アリアのいるであろうリビングへ向かう。

 扉を開けると、キッチンの横でプルプル震えているアリアがいた。


 「ど、どうした!? 何があった!? 強盗か!?」

 「あ、ああっ! あれれあれっ!!」


 アリアは震える腕を持ち上げて、キッチンの奥を指差した。

 俺はリビングの扉を完全に開け放って、アリアが示した場所に視線を向けた。


 「ぎゃあああああああああああああああっっ!!」

 「きゃあああああああああああああああっっ!!」


 俺はソレを見た瞬間、腰を抜かしたアリアを拾い上げ、トウカの部屋へ駈け出す。


 ―― ナニアレ!? ナニアレ!? 俺が知ってるのと全然違う!! ナニアレ!?


 トウカの部屋に辿り着いた俺とアリアは、協力して部屋の扉をドンドンと叩く。


 「トウカさん!! トウカ様!! タスケテ! タスケテ!!」

 「トウカぁ! トウカぁ!!」


 数秒後、扉の向こうから声が聞こえた。


 「どうしたこんな夜遅くに。明日は早いと言ったのはカケルだろう。そろそろ寝ないと――」

 「んなことええからはよ! 刀持ってはよ!! 開けるぞ? もう無理開ける!!」

 「今はまず――」


 俺は部屋の主の了承を得ず、扉を強引に開けた。


 「…… お」

 「……っ!?」


 部屋の主は浴衣を着ているのだが、胸の部分が少しだけ(はだ)けていた。

 狼狽える俺と赤面するトウカなんてお構いなしに、アリアはおっぱいにダイブした。

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