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俺の新居はどこか間違っている。 2


 俺は屋敷を購入した。

 下見をしてからでもよいのでは、というステラを無視して俺は三百五十万サリーという大金を支払った。

 前の所有者が残していった家具や魔道具は全て俺たちが貰えるし、庭も広く大浴場もあると聞いた俺の判断は早かった。


 だがしかし、


 「…… 思ってたんと違う」


 王都から馬車で一時間半程離れた場所にあったのは一軒の屋敷。じゃなくて武家屋敷。

 想像していた西洋造りの建造物なんかじゃなく、戦国時代にでも建てられたかのような造りだ。敷地内には蔵まである。

 異世界の屋敷と聞いて一体どこの誰が武家屋敷を想像するだろうか。


 「珍しい建物ですね。ちょっと楽しみです」

 「ジャポン式で造られた屋敷だからな。この国で生まれ育ったアリアが知らないのも無理はない」

 「ジャポン式、ですか?」

 「あぁ、ジャポンティに伝わる由緒正しい建造方法でな。私の実家も全く同じ造りをしている」

 

 少しだけ落ち込む俺とは違い、他の連中は興奮しているようだ。

 俺は三人の後に続いて、屋敷に入っていった。



 引き戸を開けて、


 「『魂捜索(ソウルサーチ)』――」


 俺は探知スキルを使う。


 「どうじゃ?」

 「大丈夫そうだ。それらしき魂はないぞ」

 「ふむ。どうやらただの噂でしかなかった、ということか」

 「……」


 俺とステラは屋敷内の把握も兼ねて、敷地内の安全確認を完了させた。


 「何やら残念そうに見えるのは妾の気のせいか?」

 「いや、妖精さんってやつと会ってみたかったなって」

 「くはは! 妖精は姿を見せることは無いと言われておる。この屋敷にいたとしても見ることは叶わなかったであろうな」

 「え、なら何で妖精が出るなんて噂があるんだ?」

 「妖精はイタズラを好むらしい」


 この世界の妖精さんはお約束通りイタズラが好きだそうです。



 俺たちは各自の部屋を決めた。正面からでは分からなかったが、この屋敷は庭を取り囲むようにL字型に造られている。

 トウカは茶室のような部屋。ステラは本棚が置いてあった書斎のような部屋。アリアはキッチンや洗面所など家事がスムーズに行えるリビング横の部屋。俺は一番広い部屋。

 それぞれの部屋は外廊下で繋がっており、縁側で庭の光景を眺めてくつろぐことができる。

 あいつらは荷解きや自室のレイアウト決めにバタバタしているが、俺の荷物はフーディーとスウェット、後は服が何着かと軽装備ぐらいなので屋敷内の調査を終えてからはこうして畳の上で寝転がっていた。


 屋敷を一目見た時は異世界で『和』って感じの建物なんて、と思ったがこうしてゴロゴロしていると案外悪くない。

 というよりゴロゴロするならフローリングじゃなくて畳の方が断然良い。


 カコーン、と音が鳴る。

 庭に設置された『ししおどし』が機能した証だ。

 これも悪くない。風情があって日本庭園らしくて良い。トウカの話では日本庭園ではなくジャポン庭園というらしいが些細な問題だ。


 晩ご飯も食べ終わり、一人で入るには広すぎる風呂に入り、後は寝るだけという時間帯。

 そろそろ持ってきた服をクローゼットに入れて寝ようかと考えていたところで、縁側の襖が勢いよく開き、


 「カケルカケル! すごい物を発見しました!!」


 テンションの高いロリっ子が現れた。


 「なんだよすごい物って」

 「とりあえず来てください! 本当にすごいですよ!!」


 どうやら本当にすごいらしい。

 俺はアリアに連れられて、庭にある蔵へとやってきた。

 中に入るとトウカとステラがいて、二人の間に真っ白で大きな正方形の箱がある。


 「なんだそれ」

 「魔道具です! こんな物があるなんてこの屋敷の持ち主はとんでもないお金持ちだったのかもしれません!」


 魔道具、と言われても困る。


 「便利なのか?」

 「コレは冷房魔道具で暑い日でも快適に過ごせる高級品です!!」


 つまりこの四角くて大きな箱はクーラーという訳か。…… クーラー?


 「すげえじゃあねえか!」

 「ふふん! 探検してたら見つけたんです! 褒めても良いですよ?」

 「よくやったぞアリア。お前が見つけなくても明日には俺が見つけてただろうけどな」

 「むっ、一言余計です」


 冷房装置。

 現代日本では生活必需品とも言える機械が異世界にあった。厳密に言えば機械ではなく、氷結魔法と風魔法の複合魔道具だ。起動させる為には埋め込まれた魔石に魔力を流すだけいいらしい。魔法陣を起動さえしてしまえば大気中の魔力を吸収しながら動くそうだ。電気代がいらないってのは素晴らしいと思う。魔法陣が展開されるとかすごいファンタジーだと思う。



 冷房魔道具はリビングに置く事になった。

 俺は自室に戻り、クローゼットを開ける。


 「……」


 中に肌の白いリーゼントおじさんがいた。

 目が合ったような気がするが、とりあえず服を入れてクローゼットを閉める。

 そのまま布団に潜って、


 ―― え、何アレ。誰アレ。クローゼットの中におじさんなんて入れたっけ。ハードボイルドっぽいおじさんなんて持ってたっけ。妖精さんじゃないだろうし、何だろうアレ。…… よし、見なかったことにしよう。慣れない異世界生活で疲れてるんだ。きっと。


 俺は寝た。

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