表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/88

俺の王都生活はどこか間違っている。 完


 大富豪、大貧民。

 呼び名は地方や集団によって様々だが、最下位になった奴は大貧民と呼ばれマジギレするゲームだ。

 手札が弱すぎて配り直しを求めたが案の定却下された。

 そうしてダイヤの3を持っていた俺からステラ、トウカ、アリアの順でゲームは始まった。


 「10捨てじゃ」

 「丁度いい。イレブンバックだ」

 「あ、じゃあ8切りして…… 10捨てします」

 「…… パス」

 「何じゃカケル。出せぬのか?」

 「出さないって戦略」

 「ほう。そういう事も考えるのか」

 「カケルが勝負師の顔してます。ちょっと怖いです」

 「風呂当番なんて嫌だからな。本気でいかせてもらう」


 ―― 出せねえんだけどな。


 『3』が4枚、『4』が3枚。『6』が4枚、『9』が3枚という天文学的確率の手札で始まった今回の大富豪。

 役無しばかりだと思っていたが、一番端っこに一発逆転のカギとなるカードがあった。そう、スペードの『3』である。ジョーカーという大富豪最強カードに唯一勝てるカードだ。

 ジョーカーを絡めたペアやスリーカードを出された瞬間に儚く消える作戦だが、それ以外に大貧民を回避する道はない。

 何としてもスペ3返しを繰り出し、『6』の革命を成就させなければならないのだ。


 「7のペアじゃ。ほれトウカ、受け取るがよい」

 「ふふ、助かったぞステラ。11のペアだ」

 「ふふん、5飛びです! あ、一人ずつ飛ぶので私の番ですね。じゃあもう一回5飛びです!」

 「……」


 俺が教えたローカルルールは割とメジャーなヤツばかりだ。

 スペ3返し、5飛び、7渡し、8切り、10捨て、イレブンバック。

 その他は革命や革命返し、反則上がり等だ。


 「ふむ、5か。…… 大富豪になるにはここの選択が重要になりそうじゃな。さて…… うむ。8で切り、クイーンのスリーカードじゃ!」

 「くっ! やるなステラ。だが私も負けてはいないぞ。キングのスリーカード!」

 「ふふん、中々やりますね二人とも。ですが甘いです!! エースのスリーカード!」


 あれれー? おかしいぞお?

 強い弱いとかそんな次元じゃないぞお?


 「…… パス」

 「ぷぷぷ! また出せないんですか?」

 「うるさい。戦略だ」

 「くはは! アリアも場を流せるという考えは甘いのではないか?」

 「なっ!? まさか私の上を――」

 「見るがよい! ジョーカーを絡めた2のスリーカードじゃ!」

 「な、中々やりますね」

 「くははは! これで妾が大富豪確定じゃな! キングで上がりじゃ!」


 ステラが抜けた。

 現在の手札残数は俺が13枚、トウカが9枚、アリアが4枚だ。

 すでにジョーカーは一枚出たからトウカかアリアのどちらかがもう一枚を持っているという事になる。


 「初めてでカケルに勝つとは、ステラやるな」

 「くはは! 当然じゃ!」

 「むう、私のお金持ちになる夢が絶たれてしまいました」


 だからなれねえよ。


 「ふむ、キングか。ならエースを出そう」

 「ふふん、パスです」

 「出さねえのかよ」

 「神の頭脳を持つ私は素晴らしい計画を思い付いたので。戦略です」

 「へえ。神の頭脳、ねえ」

 「何です? バカにしてるんですか? 一枚も出せてない大貧民候補のカケルが? 悔しいなら2でもジョーカーでも出して流せばいいじゃないですか。ぷぷぷ」

 「…… パス」


 ちくしょう。どや顔が腹立つ。

 何だか煽り性能高くなってないかこいつ。


 「ふふ、なら私は10のペアで、二枚捨てるぞ。これでアリアと同数だな」

 「むう、パスで」

 「…… パス」

 「二人ともパスでいいのか? ならば私も上がりだ」


 トウカは『7』のペアを場に出して、微笑んだ。


 「まあいいでしょう。大貧民にさえならなければ良いだけですからね」


 アリアはトウカから二枚受け取りながら悔しそうな表情を浮かべ、俺を見てにやっと笑った。


 「じゃあ私の番ですね! 2のペアです!」

 「…… っ、パスで」

 「ぷぷぷ! 負けちゃいますよ? 私に負けちゃいますよ?」

 「…… っ」


 アリアは憎たらしい笑顔で、『8』を出し、


 「あっ、8切りしたら私の番でしたねえ。困りました、どうしましょう」


 と、言いながら『5』を出し、


 「ぷぷぷ! またカケルの番飛ばしちゃいました! 一枚も出せずにここまで来ちゃいましたねえ。ふふん、見てください! 私はもう残り二枚しか――」


 と、言いながら手元に残った二枚のカードを見て、使用済みカードの墓場を漁り始めた。


 「どうした? 早く出せよ」

 「…… 待った、とか」

 「そんなもんはねえ」


 俺はにやりとして、


 「ほらほらどうした。早く出せよ。出してみろよ。ジョーカー出して11出して上がるんだろ? ほらはやく。一応言っとくがジョーカーを絡めた上りは反則だからな? まあ、神の頭脳とやらを持ってるアリアちゃんはそんな事覚えてるだろうけどなあ!! そ・お・だ。優しい俺は可哀そうなアリアちゃんに教えてやろうかなあ。スペードの3って俺が持ってんだわ。誰も10捨ての時に捨ててないんだわ。そんな所いくら探しても無駄なんだわ」


 煽ってみた。

 アリアはふるふると震えて、


 「うわあああああああっっ!!」

 「お、おい! 離しやがれ! お前の負けは決まってんだよ諦めろ!」

 「認めません認めません! うわああああっっ」


 泣きついてきた。

 このクソガキは一枚一枚手札を減らして、勝利の美酒に酔いしれようとしていたんだろう。

 こいつがそんな事を考えず、マウント症候群を発症させず、ジョーカーを絡めた『8』か『5』のペアを出していたら俺の負けは確定していただろう。

 大富豪と富豪も、大貧民に哀れな視線を向けている。


 「離れろって! いくら泣いてもお前の負けは変わらねえ! アリアが大貧民になる事は変わらねえ!!」


 アリアを引き剥がすと、ポンコツは「トウカぁ、トウカぁ」と言いながらおっぱいに顔を埋めた。


 ―― あいつ負けた分際で何ご褒美受け取ってんだ。


 トウカはアリアの頭を撫でながら、


 「カケル、スペ3返しをしないという手も――」

 「あるわけねえだろ」

 「…… 鬼め」


 ―― どっちが?


 こうして、一週間の風呂当番を賭けた大勝負はアリアの負けという形で幕を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ