俺の王都生活はどこか間違っている。
小切手を受け取った後、俺とステラはギルドに来た。
ギルド内に併設された酒場の一角に歩み寄り、
「待たせたな」
「別に待ってないぞ」
「……」
この野郎。
「そんなことより賞金とやらはどうだった? それほど期待はできないだろうが多少は貰えたんだろう?」
「ふっふっふ。これを見るがいい」
俺は一枚の紙切れをトウカの前に広げて見せた。
書かれた額を見たトウカの目は丸くなり、
「偽物か?」
「本物だ!! 国の紋章が印字されてるだろうが!」
「…… ふむ。カケルが偽造した物ではなさそうだが」
「俺にそんな技術も知識もねえ」
「くはは! トウカよ、妾も驚いたがバルカンの賞金は500万サリーで間違いないようだぞ」
「ステラが言うんだったらそうなんだろうな」
俺って一応リーダーだよな?
リーダーってなんだっけ。信用ってなんだっけ。
「…… そういえばアリアはいたのか? あいつ俺の財布握りしめてどっか行ったっきりなんだろ?」
「あぁ、アリアならあそこでお菓子を食べているぞ」
トウカの指差した方を見ると、茶色いものをテーブルに並べてご満悦な様子のアリアがいた。
「あいつ何食べてんだ?」
「北の方にある国の名産品らしいが、何と言ってたか…… そうだ、思い出した。チョコレートだ」
ほうチョコレート。…… ん?
「チョコレート!?」
俺はアリアのテーブルに駆け寄る。
うんこみたいな茶色い物は近くで見ると、卵型のチョコレートっぽい物だった。
チョコを割ると中からおもちゃが出てくるようなやつだった。
「おいチョコレートってまじか!?」
「ひっ! 何か必死でちょっと怖いです」
「わ、わるい」
「あ、これ拾っておきましたよ」
アリアは俺と目を合わせず、財布を手渡してきた。
「わ、私の名前が書いてあった所のお金しか使ってません」
「いいよいいよそんなこと! それよりチョコレート一個くれ!」
「え、嫌です」
「なんで」
「だってだって私のお金で買ったんです!」
「あとで買ってやるから! な? 一個だけ味見させてくれ!!」
「むう、約束ですよ? 欲しい時に買ってくださいよ?」
「わかったわかった」
俺はアリアから卵型チョコレートを一つ受け取り、
「あ、中のおもちゃは私の物ですよ? あげませんから! 絶対あげません!」
「いいよやるよそんなもん。いただっきまーす」
俺は異世界のチョコレートとやらを半分に割り、口にした。
…… チョコだった。
気品高く、奥深い。
口の中に入れた瞬間、酸味が広がり、ミルクの甘さが調和をもたらす。
俺の知ってるチョコレートだった。
「うめええええええ!!」
「ふふん! カケルもようやく甘いものの素晴らしさが分かったようですね! あ、中に何が入ってました?」
「ほおおおおおおお!!」
「ちょっとカケル!! おいしいのは分かってますから早く中のおもちゃが何だったのか教えてください!!」
アリアの言葉で、右手にある固いモノ、フィギュアのようなモノを見た。
「え、なにこれ」
「あーっ!! 当たりですよカケル! 大当たりです!!」
「これ当たっても全然嬉しくないんだけど」
手の中にあったのはクリスタルのような、水色のナメクジみたいなフィギュアだ。
この色、どこかで見たような……。
「何言ってるんです! ネルスクリーマは子供たちの間で大人気なんです! このおもちゃなんておもちゃ屋さんで買い取ってもらえば10万サリーもするんです!」
「……」
こんなのが十万?
これがネルスクリーマ?
これがアイスクリンの原料?
「ネルスクリーマってキモくね?」
「キモくないです! 可愛いじゃないですか!」
可愛いとは何だろう。女の子の可愛いとは何だろう。
「よくわからん。…… ほい」
俺はネルスクリーマを模したおもちゃをアリアに渡し、残りのチョコレートを頬張った。
チョコレートを食べ終え、テーブルの上を見ると、他にもモンスターを模したおもちゃがいくつもあった。
その中に真っ白で丸々とした体型の、アザラシのようなおもちゃがあるのを見つけた。
俺はソレを手に取り、
「こいつ可愛いな」
「えぇ……。ポヨザラシはキモいです。カケルの感性疑います」
「おい名前からして可愛いだろうが。ぽよぽよなんだろ? 柔らかそうで可愛いじゃねえか」
「キモいです! キモいです!」
こいつ。
「気に入ったんならあげますよソレ。何体も出てるので」
「…… お前この卵型チョコレート何個買ったんだ?」
「四十個ぐらいです」
俺は財布の中身を確認し、
「明日からアイスクリン無しの生活でも大丈夫なんだろうな?」
「無理に決まってるじゃないですか」
「アリアの分の金残ってねえけど」
「…… ふふん」
どうやら異世界のチョコレートは高いらしい。おもちゃが中に入ってるからなのかもしれないが高いらしい。
アリア用として財布に入れておいた五万サリーが無くなっている。
―― まあいいか。500万入ったし。
「ほう、妾はこのモンスターが気になるな。アリア、一つ食べてもよいか?」
「いいですよ。これどうぞ」
「わ、私も一つもらってもいいだろうか?」
「いいですよ、はい」
アリアは後からやってきたステラとトウカにいとも容易くチョコレートを渡した。
二人はそれぞれ口に含み、
「ほう、これは中々」
「だな。これはクセになるうまさだ」
「ふふん」
なんでこいつが偉そうなんだろう。
「して、アリアよ。なぜチョコレートという名前なんじゃ? 聞き慣れない言葉じゃが」
「えーと、確か北の国にしか生息しないチョコラットというモンスターの――」
「「「その先は言わなくていい」」」
「え?」