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俺の脱出計画はどこか間違っている。 3


 いよいよヤバい。


 タマ取られて女の子になっちゃう、なんてふざけてる場合じゃあない。おそらくタマ取られたショックとか痛みで普通に死ぬ。

 ここで心を折るわけにはいかない。希望が失われたわけではない。俺たちには希望の星アリアちゃんが残っている。こいつらと同じように古城に興味を示して駆けつけるかもしれない。ステラやトウカがやらかしたんだから、逆にアリアが有能になる時なのかもしれない。そういう奇跡が起きる時なのかもしれない。


 よし、とりあえずアリアが何をやっていたのか聞いてみよう。


 「トウカが古城に来る前、アリアは何やってたんだ? もし――」

 「カケルの財布を見つけた、と言ってどこかに出掛けてから行方が分からなくなった」

 「「……」」


 さて、現実を見ようか。

 今は金より命の心配をしようじゃないか。

 まずは敵の再確認だ。


 「バルカンに関する情報は他にねえのか? ってかただの冒険者が古城をアジトにするなんて国が許さねえだろ」

 「国や騎士団が手を出せない程の力を持っていると見るべきであろうな」

 「街の人や他の冒険者たちもバルカンには関わりたくないような感じだったな。…… これは噂に過ぎないがバルカンを捕まえれば賞金が出るらしい」

 「国が金を出すって事はサルミエントファミリーってヤツの影響もありそうだな」

 「そう考えていいだろうな。私は詳しくないが」

 「ジャポンティ出身だから仕方ねえな。ステラは知ってるだろ?」

 「妾も知らぬという事は普通に生きておれば関わる事の無い組織であろうな。サルミエント公爵家は妾でも知っておるが」

 「……」


 国が賞金を出さないといけないような悪人で、騎士団は手が出せない。

 つまりステラの言う通り強力な魔法かスキルを使える危険人物ってことだ。もしくはサルミエントファミリーってのが余程強大な組織か。

 そんな相手に、俺みたいな人間の知恵だけじゃいくら考えても太刀打ちできないだろう。

 三人寄れば文殊の知恵、という。ここは三人で脱出案を考えてみようか。 


 「さて問題です。ステラは魔法が使えず、トウカは刀が無いから力が出せない。俺は鎖に縛られて唯一の取り柄が封じられている。ここから逃げ出す方法はあるでしょうか? 回答は一人一回までとします」

 「ハイッ!」

 「はいステラさん」

 「妾たちと同じようにアリアが古城を見学――」

 「ぶっぶー。不正解です。希望的観測を回答とするのは論点のすり替えになります。現に俺が考案した脱出計画はお前らの捕縛によって無に帰しました」

 「「……」」

 「トウカさんは何かないですか?」

 「……」

 「おい何か考えろよ。このままだと本当にヤバいから」


 沈黙するトウカ。どうやら何も思い浮かばないようだ。

 そもそもトウカに期待なんてするもんじゃなかった。こいつは自分のドジを敵の攻撃と認識することに何の躊躇いも恥じらいもない人間だった。アホの子だった。そんな奴に作戦を練ってもらおうなんてのが間違いだったのだ。


 ならどうするか。

 このままタマを取るとかいう恐ろしい道具を買ったバルカンの帰りを待つなんてのは絶対ダメだ。何か行動を起こさないと本気でまずい。

 しかし、手が無いというのも事実。さて…… 見張りの男たちを脅して脱出ってのは、無いな。俺よりバルカンの方が恐ろしいみたいだし期待できないだろう。

 何かないかと思考を巡らせていると、扉の向こう側から声が聞こえて来た。


 「この刀かなり良いヤツじゃあねえか?」

 「ぐへへっ、売れば結構な金になりそうだよなあ」

 「ちょっと試し切りしてみるか。一回ジャポンティの刀ってのを使ってみたかったんだ」

 「そうだよなあ! いつも得物はバルカン様が持って行っちまうもんなあ。そうだ、あの使ってない牢屋の扉切ってみようぜ」


 見張りの男たちがトウカの刀に目を付けたようだ。

 会話を聞いたトウカはプルプルと震えている。


 ―― もどかしいんだろうな。大切にしていた刀を他人に使われるってのは。…… ん?


 「刀って鉄なんて斬れたっけ」

 「素人では斬れぬのではないか? トウカが硬いモノを斬る時は帯電しておったし」

 「だよな。普通の奴が鉄に刀を打ち込むって事は、つまり……」

 「単純に考えれば折――」


 ステラの口から『折れる』という単語が出るより速く、トウカは動いた。

 鉄の錠を破壊する音が響く。

 か弱い女の子を演じていたおっぱいはもういない。


 「私の刀に触れるなあああああああっ!!」


 怒号と共に稲妻が走り、牢屋から解き放たれた怒れるおっぱい。

 響き渡る雷鳴と男たちの短い悲鳴を耳にしながら、


 「あいつ刀が無ければどうとか言ってたよな」

 「触れてやるな。トウカなりに気にしているのであろう」

 「…… うん」


 激昂したか弱い女の子の帰りを待つことにした。

 怒ったら白く発光して帯電するなんてまるで某ハンターゲームのゴリラみたい、って思ったけれど口に出したら命が消失しそうなので胸の内に秘めておくことにした。



 数分後。


 「はうぁ~」


 トウカは恍惚とした表情で、刀に頬ずりしながら戻ってきた。

 怒りの余韻が彼女の周りで鳴っている。


 「「……」」

 「ふぅぁ」

 「おい」

 「っ!? なぜこんな所にカケルとステラが!?」

 「捕まってんだよ俺たちは!!」

 「……?」


 ―― こ、こいつう。…… もういいや。


 自由の利かない体を揺らして、


 「とりあえずこの鎖壊してくれ」

 「すまない。無理だ」

 「は?」

 「乙女な私に鉄の鎖を――」

 「色々と手遅れなんだよ!!」


 渋るトウカに鎖を斬ってもらった。

 背筋を伸ばし、一日ぶりの解放感を味わう。

 ふう、と息を吐いて、


 「さて、い」

 「「行くか」」


 俺が仕切りたかったのに。

 どこか堂々とした、どこか決意を固めたような彼女たちの背を追った。



 俺たちは地下牢に捕らえられていたらしい。

 牢屋を出ると少し先に階段があり、見張りの男たちが倒れていた。

 地下に他の人間はおらず、見張りもあの二人だけだったようだ。

 俺は恐る恐る、


 「あの、トウカさん? あそこで倒れてるのは」

 「ん、あぁ見張りの奴らか。安心しろ、峰打ちだ」


 ―― え、ナニソレ。俺も言いたい。


 階段を昇り終え、二人に続いて城内を歩く。

 そして、異変に気付いた。


 「なあおい。本当にこっちで合ってんのか?」

 「「……」」


 二人から返事は無い。

 ただ黙々と、目的地に向かって歩みを進める。

 ステラは周囲を観察しているし、トウカは何やらソワソワしているような気がする。

 廊下を右に曲がると、前方に装飾の施された大きい扉が現れた。


 「お前らまさか目的」


 と、言った所で二人の身体がビクついた。

 歩みが止まり、


 「そ、そんな事あるはずないであろう? 妾は分かっておるぞ?」

 「あ、ああ。ステラの言う通りだ。私たちに付いて来ればちゃんと辿り着ける」


 振り返らずに言葉を紡ぐ姿を見て、察した。


 「出口は逆なんだな?」

 「「……」」

 「あのデカい扉の向こうは出口じゃないんだな?」

 「「……」」


 やっぱりだ。こいつら自分の欲望に忠実に動いてやがった。

 ステラは古城の見物を、トウカはこの先にあるであろう石碑の元に辿り着こうと歩いてやがった。

 踵を返し、


 「ど、どこへ行くのだ!?」

 「そうだぞ! 女の子を置き去りにするとはそれでも男か!」

 「ふざけんじゃねえ! さっさとこんな城から出ねえとバルカンが帰ってくるかもしれねえだろうが!」

 「くはは! バルカンが何だと言うのだ。妾が――」


 強がるステラに対し、俺は天井を指した。


 「屋内なんだが?」

 「し、しかしトウカがおるではないか! なっ! じゃからちょこっとだけ、ちょこっとだけでいいんじゃ頼む!」

 「なっ! じゃねえ! 変なおっちゃんみたいになってるだろうが! そもそもここは国が賞金を出しても捕まえられず自由に行動してる男の根城なんだぞ!? トウカが勝てなかったらもう手は無いんだぞ!?」

 「ふふ、心配するなカケル。刀を手にした私は誰にも負け―― あっ」


 取り戻した刀が大理石のような床に落ちた。


 「力が出せなくなる刀が落ちたぞ」

 「…… くっ」


 相変わらずのタイミングでドジっ子を発動させたトウカ。

 危険人物と対峙してこんな事になったなら目も当てられない。


 「ほら早く出るぞ」

 「だ、だが目的地はもうすぐそこ――」

 

 トウカの声を遮るように、背後から声がした。


 「おいおい、何で地下牢にいるはずのお前がこんな場所にいるんだ? それに、女が二人…… どこかで見た顔だがこりゃあ良い値が付きそうだ」

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