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俺の脱出計画はどこか間違っている。 2


 頼みのステラちゃんが捕まって小一時間。

 ステラの話では、俺の姿が消えてからほぼ一日が経過しているそうだ。

 手分けして俺を捜索していたのだが、古城があると聞いたステラは捜索を投げ出して見物しに来たらしい。

 投げ出したのは頂けないが、結果として俺が捕まっている場所へ辿り着いたので不問とした。

 これで天体魔法を使って脱出することが可能になったわけだ。

 俺は見張りの男たちやバルカンの話をしてやった。

 

 「くははははははっ! カ、カケルが時間魔法を使う上に魔眼持ちじゃと? 妾をここに放り込んだ事で薄々勘付いてはおったが、あやつらもバルカンも相当頭が悪いな!」

 「それな! あいつらステラが俺の拘束解いたらどんな反応するんだろうな!」

 「くはは! まあその鎖を解くのは無理じゃが!」

 「それな! あいつらステラが魔法をぶっ放したらどんな反応するんだろうな!」

 「くはは! まあこの場で天体魔法は使えぬが!」

 「……んえ?」

 「ん?」

 「おい天体魔法が使えないってどういうことだ」

 「見てわからぬか?」


 ステラは天井を指差した。


 「いや、だから?」

 「ふむ。言っておらんかったか。…… 屋内で天体魔法は使えぬ、という事を」

 「え、何でそんな顔出来るの? ねえ教えて? ここから脱出する方法教えてよ」

 「くはは! 助けを待つという選択肢しか妾たちには残っておらん!」


 つ、使えねえ!

 唯一使える奴だと思ってたのに屋内じゃ全く使えねえ! あのポンコツより使えねえ!


 「つまりトウカが助けに来るのを待つしかない、と?」

 「なぜアリアが入っておらぬのだ」

 「お前それ本気で言ってんのか?」

 「…… そういえばバルカンについて分かった事があってな。王国内でも悪名高いサルミエントファミリーの幹部のようじゃ。何かの商売で荒稼ぎをしておるらしい」

 「……」

 「な、なんじゃ」

 「なんでもない。それにしても時間魔法は『アクセル』を使ったからで分かるけど、魔眼っておかしいよな」

 「もしや今まで気付いておらんかったのか。カケルが魔力を行使する時、カケルの瞳は紅くなっておるのだ。何も知らぬ奴が見れば魔眼と間違える事もあるやもしれぬな」


 ふむ。


 「ん、どうしたのだ?」

 「ふっ。…… 我が名はカケル。緋色の魔眼を宿し、魔を打ち滅ぼす者。瞳が紅く染まる時、大地は震え、(そら)は鳴く。ふっ」

 「……」

 「……」



 さてどうしたものか。

 ただふざけただけなのにステラが口を利いてくれない。

 部屋の隅でぶつぶつ言っていてちょっと怖い。


 「なあ」

 「……」


 返事が無い。ただの痴呆のようだ。

 何かに気付いたように、ステラが顔を上げた。

 トコトコと近付いてきて、何だか訳の分からんポーズを取ったと思えば、


 「我が名はステラ! 星の息吹を宿し、放つ者。我が身が光輝けば、魔は絶え星は嘆く。原初の傀儡(かいらい)となりてこの地に破滅を顕現す。烈火の如き奔流を。日輪の如き煌めきを――」

 「……」

 「……」

 「魔法使えねえクセに」

 「……」


 そんな時だった。

 やけに外が騒がしくなったのは。

 喧騒はだんだんと近付いてきて、


 「は、離せと言っているだろう!」

 「バルカン様が帰ってくるまでここで大人しくしていろ! おっかねえヤツがいるからなあ! 暴れたら心臓を止められるかもしれないぞ!」

 「くっ! そんな危険人物と同部屋にするというのなら私の刀を返せ!」

 「頭がおかしいのかお前は! 捕らえた女に武器を持たせるヤツがどこにいるんだ!」

 「私の刀だぞ!」


 ガチャン、と扉が乱暴に閉められた音が響く。


 「くっ。ただ古城を見物し―― ん? カケルとステラじゃないか。こんな所で何をやって――」

 「「……」」

 「そ、そんな目で見るな。一体どうしたんだ。二人とも様子が変だぞ」

 「「我が名はカケル(ステラ)」」

 「「「……」」」


 石壁に囲まれた部屋は静寂に包まれた。



 トウカが捕らえられてからちょっとして。


 「で? 何やってんのお前」

 「古城があると――」

 「何なの!? お前らそんなに古城好きだったの!? ふざけんなよ! 俺の捜索はどうしたんだよ!」

 「王都のどこにもいなかったのでな。諦めた」

 「広いからって諦めてんじゃねえええええ!」

 「ふふ、まさかこんな所で隠れていたと―― っ!?」


 歩いてもいないのにトウカはバナナの皮を踏んだような勢いで尻餅をついた。


 「「……」」

 「…… くっ。まさか牢屋に罠が仕掛けられているとは」

 「さすがに無理があるだろ」

 「そういえばあの男はおっかない奴がいると言ってたな。どんな奴かと思えばステラの事だったのか」


 ステラは首を横に振り、俺を指差した。


 「は? 何をどう間違えばカケルがおっかない奴になるんだ? …… いや、確かにカケルの視線はいつも…… あぁ。これなら十分おっかない奴になるな」

 「おい何を納得してやがる。何だよ視線って。こっち向いて言ってみろ」

 

 それから俺がおっかない奴と思われている理由をステラが話した。


 「なるほど。あいつらドジだな」

 「お前にだけは言われたくねえと思う」

 「…… そういえば王都でバルカンの話を聞いたんだった。あいつは――」

 「サルミエントファミリーの幹部でその組織は何かの商売してんだろ?」

 「ふむ、カケルは千里眼のスキルを持っていたか。それはおっかない」

 「ステラに聞いたんだよ。ってかふざけてる場合じゃねえだろ。さっさとこの鎖引き千切ってくれよ」

 「こ、これでも女だからな……。私にそんな力は無い」

 「何でこんな時に恥じらいを持ってんだ! パンプゴブリンと打ち合えるんだから筋力あるだろうが!」

 「の、脳筋と言ったか!? 女の子だぞ私は! さすがに傷つくぞ!」

 「言ってねえ!!」

 「くはは! 愉快愉快!」


 どこの武将?


 「しかしカケル。本当に今は無理だ」

 「なんで?」

 「刀を取り上げられてしまったからな。私は刀が無いと力が出せないんだ」

 「「……」」


 どうなってんだ? ここにきて戦闘だけは有能だと思ってた奴らが途端に無能になったんだけど。


 「そもそも何でこんなとこに連れてこられたんだ? ステラは詠唱があるから抵抗する暇は無かったとしても、お前は刀を持ってる時に抵抗できただろ?」

 「……」

 「おい」

 「今日は良い天気――」

 「話を逸らすな」

 「…… し、仕方ないだろう! 刀は持ち込み禁止だと言われたんだから!」

 「そっかそっか! 持ち込み禁止なら仕方―― ってなるかよ! 力が出せなくなるような大事なもん普通渡さねえだろ!?」

 「くはははは! そもそもトウカは何故この古城へ来たのだ? 妾のようにただ見に来ただけではなかろう」

 「ふふ、さすがステラだな。何でもお見通しというわけか」

 「……」


 俺の誘拐は見通せてなかったけどな。俺が捕まってる場所も見通せてなかったけどな。


 「古城を見物というのは建前でな。玉座の間にある石碑が世界一硬いと噂を耳にしたんだ。私はソレを斬りに――」

 「ちょっといいか?」

 「なんだカケル?」

 「刀は持ち込み禁止だって言われて預けてたならさ、どうやって斬るつもりだったんだ? その世界一硬いって噂の石碑」

 「…… くっ! 罠だったか!」


 ダメだこいつ。

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