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俺の脱出計画はどこか間違っている。


 気が付くと、俺は見慣れない場所にいた。

 陽の光も、月の光も差し込まない、石壁に四方を囲まれたそんな部屋。

 手を動かそうとしたが、柱に縛り付けられていて無理そうだ。


 「……」


 よし、一旦落ち着こうか。

 まずは何でこうなったのか思い出そう。

 確か、ギルドでみんなと酒を飲んでたんだ。それで気が付くとここにいた。

 …… 何で酒を飲んでたんだっけ。


 思考していると、扉の向こうから声が聞こえて来た。


 「あいつはまだ起きねえのか? バルカン様が出掛ける前に起きねえと俺たち今夜ずっと見張りだぞ」

 「お、俺は確認したくねえよぉ。だってあいつ時間の魔法使うんだろ? しかも魔眼持ちらしいじゃあねえかよお」

 「バルカン様はそう言ってたな。だが、お前がバルカン様に命令されたんだろ? 起きたら知らせろって」

 「そ、そりゃあそうだけどよお。せめて魔力封じの枷がありゃあなぁ」

 「聖女さんに使っちまったんだから仕方ねえだろ」


 バルカン…… あ、金玉蹴り上げたあの悪人か。つまり俺はバルカンの手下に捕まっている、と。

 いや、まずくないかこの状況。『アクセル』使っても逃げられねえじゃねえか。

 そういやあいつら時間魔法やら魔眼やら言ってたな。そんなすげえヤツならこんな所さっさと抜け出してそうなはずだが。出来ることならそいつに頼んで俺も逃がしてもらいたいんだが。


 「お、おぉい。起きてんのかあ?」

 「……」


 怯えたその問いに答える声は無い。


 「ま、まだ起きてないみたいだ」

 「バカかお前。自分の目で見て確認しねえと分かんねえだろうがよ」

 「え、ま、まさか直接見て――」

 「はやく行って来いって」


 怯えた声の主が歩く音が響いている。

 石畳の上をかつかつ鳴るその音は俺がいる部屋の前で止まった。


 ―― 止まった!? おい待ってくれ。俺は時間魔法も魔眼も持ってねえぞ!


 扉が音を立てて開き、誰かが入ってくる。


 「……」


 まずいまずいまずいまずい。

 意識が戻ってるってバレたら恐ろしい展開が待ってるやつじゃん。これピンチじゃん。

 落ち着け落ち着け。バレたら終わる。俺の二度目の人生終わっちまう。


 「……」

 「……」


 ―― 早くどっか行ってくれ。頼むから。まじで。


 心臓が張り裂けそうになる程の緊張感。

 男は眠ったフリをする俺を観察し、扉を閉めた。

 ドタドタと荒っぽい足音が遠退いていく。

 難を逃れた俺は安堵して、ほっと息を吐いた。

 

 「や、やっぱりまだ起きてねえよ」

 「そうか。無理やり起こしてもいいが、バルカン様にキズ一つ付けるなって言われてるからな。それに、起きたら起きたで何かやるかもしんねえしな」


 お? もしかして俺が思ってるような――


 「しかし楽しみだな」

 「な、何がだ?」

 「何でも、バルカン様の出掛ける用事ってのはタマを取る道具をある商人から買う為って話だぜ」

 「タ、タマって」

 「バカお前。決まってんだろ? あいつがやらかした落とし前をあいつ自身に取らせんだよ」

 「バ、バルカン様おっかねえなあ」

 「俺たちはそんな人に雇われてんだ。ありがたく思わねえとなあ?」

 「だなあ」


 あっかーん!

 タマ取られる!? タマ取られちゃう!



 俺が目を覚ましてどれぐらい経っただろうか。

 バルカンは出掛けたらしく、しばらく帰ってこないらしい。

 見張りの奴らは俺に手を出せないと知っているし、何故か俺が物凄い奴と思われているみたいなので、少し試してみたことがある。

 ちょっと大声で叫んでみたり、


 「わあっ!!」

 「っ!? ひぃええええ」


 床を足で叩いてリズムを刻んでみたり、


 「ふんっふんっふーん」

 「っ!? やめろおおお!」


 ソーラン節を口ずさんでみたり、


 「ソーラン! ソーラン!」

 「っ!? もうやめてくれえええ」


 俺が何かをする度に、見張りの男から反応があった。

 それは恐怖を示す反応。

 どうやら俺が本当に時間魔法やら魔眼やらを使えると思っているらしい。


 自分でも不思議な程に冷静だ。

 その自信の根源は言うまでもないが、俺より強い仲間たちの存在。

 あっちには頭の切れるステラがいる。ポンコツとアホを引き連れて助けにくるはずだ。しかも、アリアがいれば人間相手なんて怖くもなんともない。

 そう考えた俺は楽観的になり、今に至るというわけだ。

 しかし、


 「……」


 ―― おかしいな。そろそろ助けに来てもいい頃合いだと思うんだが。


 そんな事を考えている時だった。


 「離さぬか!」

 「こら、暴れるな! アジトの前でちょろちょろしやがって!」

 「妾に触れるなと言っておるのだ!」

 「こ、こいつ! お前みたいな怪しい奴はあの男と同部屋にしてやるからな!」


 聴き慣れた一人称だ。

 俺が閉じ込められている部屋の扉が開き、その人物が放り込まれるのが分かった。


 「……」

 「この妾に対してなんという態度―― ん? あ、カケル。こんな所で何をしておるのだ?」

 「いやお前の方こそ何してんだよ」


 不思議な最強魔法使いのステラ。そいつが俺の目の前にいる。


 「何を驚いて――」

 「驚くわ! 俺の救出作戦はどうしたよ?」

 「救出作戦? 一体何の話をしておる。妾は古城が王都の近くにあると聞き、見物し――」

 「おいちょっと待て。お前まさか一人なのか?」

 「そうじゃが」


 俺は大きく息を吐いて、


 「今の状況、分かるよな?」

 「バカにしておるのか? 分かるに決まっておろうが」

 「よし、なら言ってみろ」

 「ふむ。四方を壁に塞がれた牢屋…… カケルは柱に縛り付けられて…… 何のプレイじゃ?」

 「ふざけてる場合じゃねえええっ!」

 「くはははっ!」

 「笑ってる場合でもねええええっ!」 


 ちくしょう。どうしていつもいつも俺の理想通りにならないんだ。

 異世界人ってんならご都合展開があるはずだろ。何で異世界に来てタマ取られそうな危険な状況に身を置かないといけねえんだ。

 そもそも、俺に恨みがあるなら仲間を人質に取ったり、あの女騎士を人質に取ったりするのが悪役ってやつだろ。それを救出するのが俺の役目だろ。

 何で俺が…… いや、これは当たり前か。やったやつに仕返しするのは当たり前か。

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