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俺の聖剣イベントはどこか間違っている。 完


 「さてさてクエストは、っと」


 荒くれ達がロタとバルカンの決闘を見物する為に外へ出て行った後、俺とアリアはクエスト掲示板の前に来ていた。ステラとトウカには昼飯を食べる時の為にテーブルを確保してもらっている。


 張り出された紙をざっと見ていると、


 「意外です。カケルは野次馬になると思ってました」


 隣に立つアリアが不思議そうな顔でそんな事を言った。


 ―― こいつに俺はどんな奴だと思われてんだ。ロタのピンチになったら颯爽と救出をする、みたいな理想的な展開があればあっちに行ってるかもしれないが。


 「俺が何かすれば面倒な事に巻き込まれるだろうからな。大人しく今日やるクエストを探しているほうが安全だろ。それに、予想外の出費のせいで金が必要になったからな」

 「なるほど。カケルはお金にうるさいですからね」

 「お前が無頓着すぎるんだ。ってかアリアの魔法で止めてこいよ」

 「嫌ですよ。あの場を収めたとしてもあの二人は別の所でまたやるじゃないですか。そんな無駄な事したくないです」

 「……」


 こ、こいつ。

 そんな後の事まで考えられるように……。


 「何ですか?」

 「なんでもないです」


 さて、


 「ゲイルドラゴンの討伐…… 一角獣の捕獲…… パリパリ鮫の討伐……。何だよパリパリ鮫って」

 「常に帯電している鮫ですね。水中でもパリパリ鳴ってるらしいですよ」

 「どこのドジっ子だ」

 「トウカに怒られますよ?」

 「俺は別にトウカだとは一言も言ってないけど」

 「あ」

 「…… それにしても高難度のクエストしかないな。こう、もっとこう、平和な――」


 楽そうなクエストをアリアと探していると、背後で何かがぶっ壊れる音がした。

 まるで扉が攻撃に耐えきれず、木材が粉砕されるような、そんな音。

 振り返ると、


 「卑怯よ! 決闘でスキルを使うなんて!」


 ピンク髪の美少女騎士がボロボロになって膝を突いていた。

 壊れた扉の向こう側から、彼女をそんな状態にした男が現れる。


 「はあ? おいおいロタ。俺たちは騎士じゃねえ、冒険者なんだぞ? 卑怯もクソもあるかよ」

 「くっ!!」


 ごもっとも。


 どうやらロタはぼこぼこにされているらしい。

 掠り傷一つないバルカンを見れば一目瞭然だ。


 「カケル?」

 「……」


 やめろ俺! 流されるな俺! 俺は主人公じゃない、俺は主人公じゃない。

 絶対に面倒なことになる。何より、あのバルカンとかいうおっさんと関わりを持ちたくない!

 だって魂が黒いんだもの! あのおっさん悪人なんだもの!


 「お前にはうんざりしてたんだ。毎日毎日、騎士道がどうとか、正義がどうとか言いやがってよお」

 「…… あんな事をしておいて何で平気な顔してられるのよ! あんな、あんな事っ! あたしが許さないんだから!」


 知らない知らない。こんなシリアス知らない!


 「そういう所がなあ……」


 バルカンは手にしていた斧を振りかぶった。

 

 「カケル、あそこ」


 アリアがある場所を指し示す。

 その先は昼飯を食べるはずだったテーブル。

 俺はその光景を捉えた瞬間、考えるよりも先に身体が動いていた。

 『アクセル』、と呟いて、


 「うざ――」

 「おい待ちやがれおっさん」


 バルカンの喉元にダガーを突き付ける。


 「―― っ!? こいつぁ一体何の真似だあ?」

 「……」

 「その手をどけろ。お前に用はねえ。俺様はそこの女に用が――」

 「そんなことよりも先にやることがあるだろうが」


 俺は空いている方の手で、テーブルを指した。

 そこには扉の木片が頭部にアタり血を流して気を失っているステラと、左腕に木片が突き刺さったトウカがいる。

 バルカンはソレを一瞥してほくそ笑む。


 「くくっ。はあ? だからなんだ? 俺様に何の関係があるってんだ。あんな場所に座ってたあいつらが悪いんだろうが」

 「この状況で謝罪もしねえのか?」

 「俺様が頭を下げるぅ? お前は俺様を知らねえよぅだから教え――」

 「―― 『アクセル』」


 俺は加速して、


 「治療費払いやがれクソ野郎っ!」


 男の急所に目掛けて右足を振り上げた。

 金的。対男最強の物理攻撃。

 どれ程鍛え抜かれた強靭な肉体でも、その場所にだけは絶大な効果を発揮する。


 「――― っ!?!?」


 声にならない声を上げて、バルカンは膝を突く。

 これは痛い。やった本人である俺も、見ているだけで何だか痛い。

 周囲に静寂が訪れて、


 「トウカ腕は平気か? ステラの状態は?」

 「あ、あぁ。私は大丈夫だ。ステラは…… 気を失っているだけみたいだな。それより、足は大丈夫なのか?」


 俺は右足の状態を確認して、


 「当たる直前に『アクセル』は解除したから大丈夫だ。ガルウルフ相手に試しててよかったぜ」

 「なるほど。あれがアクセルストラ――」

 「違う」


 俺は小さく息を吐いて、大事な所を押さえながらプルプルしているおっさんの懐に手を伸ばす。


 「…… なんだよ5万しか入ってねえのかよ。足りんのかな、寄付金」

 「話の途中で…… ひ、卑怯だぞ……」

 「何言ってやがる。俺たちは冒険者だぞ? 卑怯もクソもあるかよ」




 バルカン一味が「覚えてやがれ!」とテンプレ発言をして去った後、冒険者ギルドの中は活気で満ちていた。

 どうやら俺たちが来た時の空気はあいつらのせいだったようで、今では俺のよく知るギルドの雰囲気だ。


 「お前すげえな! よくバルカンに立ち向かったよ!」

 「バルカンみてえなヤツに手を出すなんて怖いモノ知らずな兄ちゃんだ!」

 「お前のおかげで今日は美味い酒が飲めそうだぜ! がっはっは!」

 「男の急所を狙うなんてお前悪魔だな!」

 「バルカンのセリフをそのまま返すとはな! ありゃあヤツも堪えただろうなあ! だっはっは!」


 そんな声を荒くれ達からかけられて、


 「だははははっ! 酒だ! 酒を持ってこぉーい!」

 「おいお前らぁぁ! カケルに酒だぁあ!」

 「「「うぉぉぉぉ!!」」」


 調子に乗っていた。

 なみなみと注がれたアルコールを飲み干して、


 「ぷはぁ! 苦いっ!! もっと持ってこーいっ!」

 「「「うぉぉぉぉ!!」」」

 「ところで、何で急所なんですか?」


 アリアがアイスクリンを舐めながら小首を傾げる。


 ―― こいつ本気で言ってるのか? 今それを疑問に思うのか?


 「何だ嬢ちゃん知らねえのか? 男にはな、ちん――」


 その男の言葉はトウカの抜刀によって止められた。


 「トウカは知っているんですか?」

 「わ、私も詳しくは知らないが急所は急所らしいぞ。何故かは知らないが」


 こいつもこいつで。

 アリアは不思議そうな顔で悩んだ後、何かを閃いた様子で口を開いた。


 「あっ! もしかしてカケルが夜中に――」

 「ちょぉぉっと黙ろうかあ! なっ? コレやるから、なっ?」


 俺は隣に座るアリアの口を塞ぎながら、500サリーを握らせた。

 トタトタと走り去るポンコツの背を見送って、俺はほっと息を吐く。

 アリアのとんでもないカミングアウトを防ぐことには成功したが、荒くれ達は変な目で俺から遠ざかって行った。


 ―― おかしくない? さっきまでもてはやしてただろうがよ。男なら仕方ないだろうがよ。こちとら十五歳なんだぞ。思春期なんだぞ。


 「何やら騒がしいな。一体何があったのじゃ」


 戻ってきたステラに、トウカが事の経緯を説明した。

 説明を聞き終えた彼女は、


 「その、なんじゃ、カケル…… 妾の為に怒ってくれ――」

 「やめろよ恥ずかしい」


 頬を赤らめて感謝を伝えようとしてくる彼女の言葉を、俺は遮った。


 「私が言うのも何だが、男らしかったぞ。まあ、その方法とその後の行いについては何も言わないが」

 「うるせえ!! 仕方なかっ――」

 「では行こうか」


 ステラが突然立ち上がった。


 「行くって、どこにだよ。俺はもう飲み始めてるし、そもそも今日のクエストはまだ決めてねえぞ?」


 俺の問いに、ステラはきょとん、として


 「バルカンとやらと根城に決まっておろうが。妾の天体魔法でその一切を消し飛ばしてくれる」

 「やめろ! 王都を壊す気か!」

 「じゃ、じゃって!」

 「じゃってじゃない!」


 街中で魔法をぶっ放そうとする不思議ちゃんを宥めて、この日は昼前から酒に溺れた。


 今日一日の出来事を忘れるように。

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