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俺の聖剣イベントはどこか間違っている。 2


 男なら誰もが憧れるイベントが目の前にある。

 石の台座に突き刺さった剣。選ばれし者だけが引き抜けると言われる剣。


 そう、聖剣イベントってやつだ。


 俺たちはアヴァロニア王国を統べる王様に連れられ、城の地下にある聖剣の間という厳かな場所に来ていた。

 ちなみに、王様はゼルトラ・グラン・アヴァロニウスと何だか凄そうな名前だが、普通の茶髪のおじさんだった。命令を無視しただけで死刑にするような悪い人ではなく人の好さそうな人物だった。


 「アレが……」

 「そう、アレが我が国に伝わる聖剣、エクスカリバーだ」


 エクスカリバー。アーサー王伝説に出てくる剣だ。

 アーサー王が持っていた伝説の剣が目の前にある。


 「でもなんで俺たちなんですか?」

 「この国には『竜を屠る者が現れし時、聖剣はその者に力を与え、魔を滅す』という伝承があってな」


 なるほど。

 それでドラゴンハンターと呼ばれる冒険者を探していたわけか。

 これはお約束イベントってやつだ。普通の、ごく普通の展開なら俺があの剣を引き抜いて勇者としての第一歩を踏み出すことになるんだろう。

 だが、恐らく、ではなく絶対に俺はあの剣を引き抜くことなんて出来ない。

 だって、ドラゴンって言ってもコモモドラゴン討伐しただけなんだもの。

 しかも、俺自身が倒したことなんて一度も無い。ステラの魔法で一網打尽にしてアリアに死体を運ばせていただけだ。俺は戦闘なんてしていない。あの草原にはお散歩に行ってただけだ。

 そんな俺が聖剣を引き抜くなんてありえるわけがない。

 

 「さあカケル君。時は来た。あの聖剣を使い、魔王を倒す勇者となる時がっ!」

 「……」


 一人で盛り上がっている王様には悪いが、思い通りにはいかないと思う。


 「行かないんですか?」


 アリアが背中をつついてくる。

 俺は振り返ることはせず、言った。


 「お前行って来いよ」

 「私は神なのであんなの必要ないですけど」

 「おいやめろ。王様の目の前だぞ。あんなのとか言うんじゃねえ」

 「事実ですけど」

 「…… ステラは?」

 「妾に剣は必要ない」

 「だろうな。ならトウ――」

 「私は刀があるからな」

 「……」


 さて困った。結果の分かっているイベントをわざわざやる必要があるのだろうか。

 でも、やらないとおじさんが納得しなさそうだしな。もしかしたら奇跡が起きるかもしれないし。


 「冒険者カケル。今こそ勇者になる時だ! さあ!」

 「……」


 王様に促され、俺は聖剣の前に立つ。

 剣の柄を掴み、力を込めて、


 「……」


 ほらやっぱりだ。


 「何をしているんだ! もっと本気で! 力を込めて引き抜くんだ!」


 ―― いや、やってんだよ。やってるけどビクともしねえんだよ。


 分かり切っていた事なのだが、実際に抜けなかったとなると少し悲しい。


 ―― 異世界特典どこいった? …… そんなモノ無かったわ。あのクソ天使め。魔王倒せってんなら聖剣ぐらい使えるようにするのが常識だろ。


 俺は聖剣から手を離す。


 「ダメですね」

 「ダメじゃない!」

 「いやダメでしょう」

 「諦めるんじゃない! 諦めたらそこで終わってしまう! カケル君の勇者への想いはその程度だったのか!?」


 先生?

 というか、俺は別に勇者になりたいわけじゃないし…… まあせっかくだし一つ試してみるか。


 「ならもう一度」

 「その意気だ! 全力でやるんだぞ!」

 「……」


 俺は聖剣をもう一度握り、『アクセル』を使った。引き抜く速度を上げて力任せにやってみるという試みだ。


 だが、


 「やっぱダメですね」

 「はああああああ」


 ―― そんな落ち込まなくてもよくね? 初めの一回で分かってたことだろ。


 俺は聖剣が突き刺さった台座から離れた。

 とりあえず俺は王都に呼び出された理由が危険なクエストでは無かった事に安堵する。


 「何で安心してるんですか?」

 「うるさいぞアリア。人の気持ちを読み取るんじゃあねえ」

 「え、だってだって」

 「だってじゃない」


 ―― 誰のせいで肝を冷やしたと思ってやがるんだこいつは。


 そうして、俺の聖剣イベントは奇跡が起こることなく、ある意味お約束展開のまま終わりを迎えた…… はずだった。


 それは肩を落とす王様の後に続いて地上に繋がる階段を昇っている時の事だ。


 俺が王様を慰める背後でヒソヒソクスクスしている。

 振り返ると、


 「「「……」」」


 真顔になった三人がいた。


 ―― こいつらなんでこんな所でだるまさんがころんだ始めてんだ。


 王様を慰めるのも飽きて来たし、階段も長かったから俺は付き合ってやる事にした。


 何度か繰り返した事でこいつらは振り返るタイミングを学んだようだ。俺はフェイントを取り入れる事にした。


 ヒソヒソ…… クスクス……


 「「……」」


 今までだったら振り返ってるところだがここは我慢だ。


 ヒソヒ――


 俺は勢いよく振り返り、


 「あれ、トウカは?」

 「「……」」


 真顔三人衆の一人、トウカがいなくなっている事に気付いた。


 ―― なぁんか嫌な予感しかしねえ。


 俺は階段を駆け下りた。

 王様の「もっと慰めて」みたいな視線も無視して走った。


 聖剣の間へ繋がる大扉を開け放ち、


 「トウ―― あ」


 聖剣の真上へと高く跳躍するアホを見た。


 厳かな聖剣の間に雷鳴が轟く。


 俺が『アクセル』で後を追わなかったのは心のどこかで大丈夫だと思っていたからなのかもしれない。

 聖剣が折れるはずがないって。石の台座も壊れるはずがないって。


 俺は現実から目を背けるように大扉を閉めた。


 「なんだ今の音はっ!?」


 肩で息をする王様がやってきた。


 ―― まずいまずいまずいまずいまずいっっっ!


 俺は大扉を背にするように振り返って笑った。


 「いやあ、なんでしょう…… すごい音でしたねえ。城の上に雷でも落ちたんじゃあ――」

 「今朝は曇り空一つ無い晴天だったように思うが?」

 「…… ははは」


 背後の大扉に力が加わった。

 中からアホが出ようとしている。


 ―― 今はマジで大人しくしてろよこのアホっっ!


 俺は大扉が開かないように力を込める。


 「聖剣の間で何があった? カケル君、そこを通してくれ」

 「…… ちょぉぉっと無理ですねぇえぇ」

 「これは王命である。聞けぬというのなら――」


 王様が言い切る前に、背後で雷が鳴り、鉄を斬る音がした。

 鋼鉄製の大扉が崩れて、


 「私を閉じ込めていたのはカケルだったか」


 横に真っ二つになった大扉を跨ぎながらアホが現れた。両断された聖剣を手に持って。


 「こんのクソアホがあああああああああ!!!」

 「カケルは何を怒っている。私はどうしても聖剣が欲しいという王様の為に――」

 「違う!!! 王様は二つになった聖剣が欲しいわけじゃねええ!!」

 「……?」

 「なんできょとんとしてんだ!! お前ふざけんな! 分かってんのか!? 聖剣だぞ聖剣!」

 「聖剣だと王様が言ってたからな。私もそれぐらい覚えている」

 「なら今の王様の顔見てみろよ! 感謝してる顔に見えるか?」


 トウカは俺の背後に視線を送り、


 「ふふ、魚みたいだ」


 口をパクパクしてる王様を見てそう言った。

 



 王様がショックから立ち直った頃。


 「君たち…… 何をやったか理解しているのか……」


 王様の声に覇気が無い。

 俺は意気消沈ってこういう事なのかと学びを得た。


 「「ごめんなさい」」


 俺はトウカと一緒に頭を下げる。クスクスしてるバカ二人はこの際無視だ。


 「謝って済む問題だと思っているのか…… 聖戦を終結に導いたと云われる伝説の剣なのだぞ……」


 王様は二つになった聖剣を手にしながら言った。


 「「本当にごめんなさい」」

 「謝って済む話ではないのだ」

 「「……」」


 さてどうしよう。

 とりあえず起こってしまった事は仕方がない。アホ加減を見誤った俺が悪い。今は何とかこの場を凌げる方法を考え出さなければ。


 「君たちの処遇は今決めた。…… 死刑だ」


 のぉぉぉぉぉぉ!!


 「…… ちょっと二人で相談してきます」

 「カケル君…… 君に拒む権利は無いのだ。相談したところで――」


 俺は王様から距離をとって、


 「おいアホ。死刑とか嫌だぞ俺は」

 「…… すまない」


 悔しそうな顔してる場合じゃあないんだが。


 「しかしだカケル。私にも言い分はある」

 「…… なんだよ言ってみろ」

 「聖剣が両断できるとは思っていなかった。聖なる防壁とかで守られていると思ってたんだ」

 「…… っ!!!」


 ―― これだ! それだ! 閃いたぞ! 逆転の一手を!!


 俺は項垂れる王様の元へ駆け寄って、言った。


 「それ偽物ですね」

 「……?」

 「だからそれ、偽物です」

 「何を…… バカな……」


 王様の目が丸くなる。


 「よく考えてみてください。ただの冒険者の女の子が聖剣エクスカリバーを両断する事なんて本当にできると思います? 俺には思えません。それが本物だったらの話ですけどね」

 「いや…… しかし…… これは300年前の…… 戦争終結の時からあの台座にあると……」


 ふむ。


 「王様に言わなければいけない事があります。実は俺、魂の加護を授かっていてモノに宿る魂が見えるんです。聖剣なら聖なるモノが宿ってるはずですよね? でも俺には何も見えなかった。つまり、その剣は偽物って事なんです」

 「…… そんな話を信じられるわけがないだろう」

 「信じなくてもいいですよ。でも王様はそれでいいんですか? 国に伝わる伝説の聖剣はか弱い女の子に折られるようなもんだったって事実を認めてる事になるんですよ?」

 「…… なら本物の聖剣はどこにあると言うのだ」

 「知りません」

 「何?」

 「知りません。本物を探すのが王様や騎士団の務めでは?」

 「……」


 俺の口はすらすらと適当な事を吐き続けた。


 これは仕方がない事だ。


 死にたくねえもん

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