俺の祭りはどこか間違っている。 3
* アルヒ中央広場 *
俺は三人と共に、この街で最大と言われている広場に来ている。
街中はお祭りムードでマルメドリを模した人形が至る所に飾られていたり、屋台みたいな物も出店されていたりと、なんだか懐かしい光景になっていた。
広場の中央には木で造られた仮設ステージのような物が配置されていて、その傍らには出演者待機所と看板が付いたテントがあった。
街の人々も笑顔で、路地裏で絡んできたチンピラまでも笑顔で買い食いしていた。
俺は普段通り歩いているつもりなのだが、すれ違う人たちにはチラチラと視線を送られる。きっと後ろでソーランソーラン言ってるバカたちのせいだろう。俺の法被姿を見ているわけではないはずだ。
そうしている内にテントに辿り着き、俺は三人を連れて中に入った。
中に入ると、マツリがこちらに気付き駆け寄ってくる。
「おー! カケルくん似合ってるねー!」
「そ、そうか?」
「うんうん! それじゃ役者も揃ったところで最終確認みんなでしよっか!」
「了解だ」
「よしっ! じゃあカケルくんこっちきて!」
俺たちはマツリに連れられてテントの奥に入り込んでいく。
テントの中にいる人たちは様々な恰好をしていた。
マルメドリに扮装した集団やピエロのようなメイクをした集団、なぜか冒険者の恰好そのままのやつらまでいる。
「カケルくんはやくはやくー!」
周囲を観察していると俺だけ歩調がズれたようだ。
俺はマツリの元に急いだ。
「じゃあみんな集合! 動きの確認だけ最後にするよー!」
俺の到着と同時にマツリが声を上げると、それまで自由にしていた連中がぞろぞろと集まってくる。
―― さすがマツリ先生だな。
「じゃあまずは配置の確認から――」
それからマツリを中心に最終確認が行われていった。
今日踊るメンバーは、俺を含めた黒髪13人。そこにアリアとステラを足した計15人だ。
最後列に5人、次の列に4人、その次にトウカとマツリを含めた3人、最前列の中央が俺で、俺の左斜め後方と右斜め後方にアリアとステラという配置になった。
「アリアたちの位置はマツリたちじゃなかったか? 練習ではそうだったけど」
「いいのいいの! せっかく参加してくれるんだから目立たせてあげなくちゃ!」
「……」
たぶん俺とは見えてる世界が違うんだろうな。分かってたけど。
「配置はこれで…… 次は始めの合図だね。まず全員が会場に背を向けて立ったのを確認したら――」
まず三味線がべべんっと鳴らす。
すると尺八が吹かれ始め、リズムに合わせて最後列から順番に声を出して振り向く。
そして歌詞がある部分までメロディが進んだら俺が振り返ってアードッコイショ、というわけだ。
そんな時、テントの幕が上がって、司会者らしき男が声をあげた。
「ジャポンティのみなさーん! そろそろ準備お願いしまーす!」
ついに出番が回ってきたようだ。
俺は静かに呼吸を整える。
落ち着け俺。大丈夫だ。体が覚えている。
「よしっ! みんな準備はいいね? それじゃあ円陣組もっか!」
マツリの号令で、俺たちは隣り合う者同士で肩を組み合った。
左にはポンコツ、右にはおっぱ―― トウカ。
まさかこんな合法的に女の子に触れられるとは! 女の子の肌って柔らかいんだ! ぷにぷにふわふわしてる!
円陣とはなんて素晴らしいものなんだ!!
「おいカケル」
ちょっと怒ってるんだぞ、みたいな小声で隣のトウカが俺の名前を囁いた。
俺も小声で応対する。
「なんだ?」
「円陣組むのなんて初めてじゃないだろう」
ぎくっ。
「あ、当たり前だろ」
「なら、この手を本来の場所に戻せ」
「え、なに――」
俺は自分の手の位置を視認した。
あぁ、やけに柔らかいと思ったらそういう。
「すまん」
「まさかこんな場所で辱めを受けるとはな。後で覚えておけ」
「はい。ごめんなさい」
俺はトウカの存在価値から手を離して、肩に戻す。
―― アリアとステラの件が無かったらやばかったかもな。ありがとうソーラン姉妹。この時ばかりは感謝してやるよ。
「じゃあカケルくん! よろしく!」
「え?」
え?
「今日の主役なんだから!」
「いやなにが?」
「ほらはやく! みんな待ってるよ! カケルくん!」
「……」
無茶ぶりぃぃぃぃぃぃ!
無理無理無理無理! 俺なんかがそんな掛け声なんてそんな、そんなの無理ぃ! トウカ助け――
俺は横のトウカさんに視線を向けたが、はやく言え、みたいな目をされた。
どうする? どうする!?
そんな時、体育祭の時にサッカー部の仲間とやった円陣を思い出した。
くそっ! 異世界だからどうなるか分からんがコレしかないか。この陽キャ連中ならなんとか合わせてくれるだろう! やるしかねえ!
俺はすぅっと息を吸い込んで、
「俺たち最強!」
「「「世界一ぃぃぃ!」」」
は?
「俺たち最高!」
「「「世界一ぃぃぃ!」」」
え?
「ソーラン節は!」
「「「世界一ぃぃぃ!」」」
「見せてやろうぜ!」
「「「底力!」」」
「お前ら行くぞ! あいうえ!」
「「「おぉー!!」」」
―― やっぱすげえよお前ら。意味分かんねえんだもん。
円陣は何故か成功した。
その後、俺たちはテントを出て、舞台上に整列していくことになる。
「カケルくんこれこれ! 忘れてる!」
テントを出る直前、俺はマツリに呼び止められた。
「忘れてる?」
「ちょっと前向いてて!」
俺はマツリに言われるがまま、彼女に背を向けた。
マツリは俺の胸の前に手を通す。
「おい、何を」
「前向いてて!」
期待していい?
「はい! できた!」
「……」
俺は首元に違和感を覚える。
視線を落とすと、
「ナニコレ」
「あれ? もしかしてカケルくんって代表するの初めて? これはカクオンガイっていうモンスターの死骸だよ! 首元にぶらさげると、その人の声を大きくしてくれるっていう不思議な貝殻! 実家から持ってきてたんだぁ!」
「…… へえ」
なにこれ気持ち悪っ! 俺の首元にぶら下がっているソレはサザエみたいな貝殻からイソギンチャクみたいなのが飛び出している。
モンスターの死骸らしいが、イソギンチャクの部分がチョロチョロ動いてる気がする! 気持ち悪っ!
「じゃ私は先に行くね! 頑張って! 今日の主人公!」
マツリはそう言って、俺の背中をトンっと叩いてテントから出て行った。
―― 期待されるってのは悪くねえな。
俺は絶対にあいつらを元に戻すため、歌い踊りきってやる、と心に決めて、テントの幕を上げた。