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俺の異世界生活は最初からどこか間違っている。  作者: 六海 真白
第一部 一章 異世界生活編
36/88

俺の休日はどこか間違っている。 3

 

 ―― やべえ。全く分かんねえ。


 俺は鏡の前にアリアを座らせ、どっちの色が当たりなのかを表情で判断しようとしていたのだが、


 ―― 冗談だろ? こいつまったく顔色を変えねえ。助けて恋愛マエストロ。


 「どっちがいいですかね?」


 まずい。これ以上時間を掛けるわけには…… そうだ! どういう時に付けるのか聞いておこう!


 「このリボン何に使うんだ?」

 「え? お祭りの時に着けようかと思ってたんですけど? やっぱり変ですか?」

 「いやいや変じゃないよ? 可愛いと思う。うんすごい可愛いと思う」


 ちくしょう! いつものクソガキアリアはどこ行ったんだ! 目をうるうるさせるんじゃねえ! なんで乙女モード降臨してんだ!


 「やっぱりそうですよね! 神である私は他の人とは違った所を見せないとですよね!」


 うん。やっぱり根幹はソレなのな。いや、分かってたよ? でも対応に困る。

 どうするか。うーん……。


 「アリアはどっちが良いと思う?」


 しまったああ! つい口走ってしまったあああ!


 「私はどっちも良いなと思ったのでカケルに決めてもらおうと思ってたんですけど」


 なんでこいつ俺にそんな重要な選択を任せようと思ったんだよ。意味分かんねえ。


 「そうか。なら俺は水色の方が良いと思う」


 俺はもう色々考えるのを止めて初めに選んだ色を言った。


 「水色ですか」


 うわあ。めっちゃ不満そう。これ選択ミスした時の反応じゃねえか。


 「ちなみにこっちを選んだ理由を聞いてもいいですか?」

 「お前の目と同じ色だったからだよ」

 「それだけですか?」


 どうすりゃいいんだよおおおおお! 俺にこんな経験値無いんだよ! アニメで見た知識しかないんだよ! もう適当な事言ってしまおう。そうしよう。


 「いや、実はそれだけじゃない。人間がその目で見て綺麗だなと感じる色は青系が多いんだ。どうせ見られるなら色々な人にキレイだって思われた方が良いだろ?」


 知らんけどな。


 「…… ありがとうございます。これ買ってください」


 アリアは俯いて俺に水色の方のリボンを手渡してきた。


 ここで鈍感系主人公ならきっと「はいはい」とか言ってこいつの反応を見逃すんだろう。

 だが、俺はそんな鈍感系じゃない。

 アリアは今、照れているっ! こんなあからさまに照れるものなのかというレベルで照れているっっ!

 だって耳赤いもん! ちょっと嬉しさで震えてるもん!

 ふっ、これは…… 勝ったな。


 「分かった。なら買ってきてやるから店の外で待っててくれ」

 「…… はい」


 あらまあ! 照れちゃって!

 俺は謎の満足感を抱え、店内のカウンターへ水色のリボンを持って行った。

 カウンターにいた緑色の髪と眼鏡をつけた優しそうなお姉さんは穏やかな笑顔で対応してくれた。


 「あの女の子へのプレゼントですか?」

 「プレゼントって程の物じゃないですけどね」

 「カケルさんって優しいんですね」

 「え? なんで俺の名前――」

 「カケルさんは有名ですよ? 駆け出しなのにドラゴン系モンスターばかり倒してるって」


 ふうん。そうかあ。俺ってそんな有名になってたのかあ。

 先程困難を乗り越えていた俺はさらに気分が高揚する。

 だが、ここで嬉しさを表情に出すわけにはいかない。そんな安い男だと思われるわけにはいかない。


 「あぁ、報酬が良いんで仕方なくですよ。仕方なく」

 「お強いんですね! それではお会計700サリーになります」

 「はい、こ――」

 「あっ、これは展示品ですので新しい物取ってきますね」

 「お願いします」


 お姉さんはそのままカウンターの後ろにある扉に姿を消して、数秒もせずに穏やかな笑みを浮かべて出て来た。


 「お待たせしました。こちら袋に入れておきますね!」


 俺はお姉さんから丁寧に包装された品物を受け取り、店を出た。


 「カケルありがとうございます!」

 「いいよこれぐらい」


 俺は買ったリボンの入った袋をアリアに手渡すと、さぞ嬉しそうにその袋を抱きしめた。


 ―― そんなに嬉しいもんか? 700サリーだぞ? まあ喜んでるならいいか。


 「カケルはこれからどこに行くんですか?」

 「そうだなあ。とりあえず飯でも食いに行くか。まだ昼飯食ってなかったしな」

 「外食!」


 おぉ。元気いっぱいだな。

 それから俺とアリアは街の定食屋っぽいところで食事を済ませ、気が向くままに足を進めた。



 ある程度街を見回り終えたところで、事件は起こった。

 俺とアリアは人気の少ない路地裏を歩いている。


 「カ、カケル。何でこんなとこ来るんですかぁ」

 「こういう所には隠れた名店みたいな所があるんだよ」

 「そうなんですか?」

 「そうなの」


 なぜか怖がっているアリアに路地裏を歩く理由を説明してやる。

 こういう場所に珍しい商品を置いている店があるのはお約束だろう。

 表の通りにはありきたりな店しかなかったのだから人目を避けた所にイロモノ的な店がある可能性は高いと踏んだのだ。

 昔すごい魔法使いだった奴が出している店とかすごい奴が贔屓にしている店とかあってもおかしくない。

 路地裏美少女イベントに期待してるわけでは決してない。美少女が経営している店を探しに来たのでは決してない。

 ちょっとドキドキしていると、


 「おいおい。お前カケルじゃあねえか?」

 「アニキの知り合いですかい? おっ、まだガキだが女も一緒ですぜアニキ」


 と、声をかけられた。

 振り返ると見知らぬチンピラ二人が立っている。一人は大柄で顔は豚、もう一人は小柄で顔は豚。まさか獣人族との初イベントがこんなイベントになるなんて。


 二人の手にはすでにナイフが準備されており、俺とアリアを獲物として見ているのが容易に分かった。


 「カケルのお友達ですか?」

 「いやどう見たら友達に見えるんだ。明らかに敵意剥き出しじゃねえか」


 ポンコツがポンコツしたところで俺は豚のチンピラ二人に視線を移す。


 「誰ですか?」


 低姿勢で。


 「あの時はトイレで――」

 「立ち去りなさい!」


 大柄なチンピラの言葉を遮るようにアリアが言った。


 「……」


 背を向けどこかに歩いていくチンピラからアリアに視線を移す。


 「何です?」

 「いや、なんでもないです」


 こいつ何で路地裏怖がってたの? ってかあの時トイレ…… あぁ、冒険者になった日のあのおっさん声の奴か。絡んでくるにしても今更過ぎるだろ。


 それから路地裏を探索してみたが俺が思っていたような店なんてなく、チンピラと何度か遭遇しただけだった。

 チンピラとエンカウントする度にアリアは「邪魔です」やら「どこかに行ってください」やら言ってチンピラを追い返していた。

 そういえばアリアの魔法は人には効果あるんだったな、と再認識することが出来た事件だった。

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