俺の休日はどこか間違っている。
俺の休日は一杯の紅茶から始まる。
窓の外からは小鳥のさえずりや街行く人々の笑い声。どこからか太鼓のような音さえ聞こえてくる。
なんて平和な日常なのだろうか。なんて平和な街なのだろうか。
窓から街を眺め、俺は優雅な――
「水なんか飲んでないでそろそろクエスト行きましょうよ。もう昼ですよ」
「嫌だ。今日は休む」
「なっ!? 何でですか!?」
「そんなもの決まってるだろ。疲れるからだ。逆に聞くがなんでそんなにクエスト行きたがるんだ。死体運ぶだけのくせに」
「私たちのパーティーは良いメンバーが揃ってるじゃないですか! カケルは別に疲れないじゃないですか! それに神である私がいないとクエスト完了報告できないんですからね! 敬ってください!」
このロリっ子の言う通り、俺のパーティーは見栄えだけは良くなった。
言霊魔法とかいう育てば最強とも言える魔法が使えるアリア。星の力をビームのように放つことができる天体魔法の使い手ステラ。雷を身に纏い、モンスターを両断する侍トウカ。後衛二人に前衛一人。バランスの良いパーティーのように思えるし、全員見た目は良い。見た目だけは良い。
何も知らないやつが俺を見ればさぞ羨ましがるに違いない。
だが、一人はどれだけ醜態を晒しても自分は神であると名乗り続ける頭のおかしいポンコツ。一人は魔法を使えば途端に幼女になってしまう不思議ちゃん。一人は何も無いところで転び、それを敵の攻撃と認識するアホ。
まともな奴がいない。強いて言うなら普段のステラは常識があるだけマシというところぐらいだ。
俺が異世界に求めている美少女は外見よりもデメリットが目立つような奴ではない。
俺を壁役や囮役として扱うような連中に囲まれたいわけではない。
俺を慕ってくれる美少女や俺の事を大好きな美少女や俺を守ってくれる美少女で周りを囲う事だ。
そして俺が無気力になっている理由は他にもあった。
――― 昨夜 ―――
俺は一度あいつらと別れ、パーティーの再編を図ろうとギルドの受付に来ていた。
いくらチート級の魔法が使えても、いくらカッコいい剣術が使えても、それを使う奴がバカだと意味がない。
そう考えていたのだが、アイーシャさんの一言で理想パーティー編成計画は崩壊することになった。
「パーティーメンバーは一度決定されるともう変更できないのよ」
「え、でもステラやトウカは何度か別のパーティーに入ってるって聞いたんですけど」
「彼女たちはお試し加入で別のパーティーを渡り歩いていたって聞いてるわ。結果どこにも受け入れてもらえなかったみたいだけれど…… 正式メンバーとして迎え入れたのはカケルくんのとこが最初で最後ということね」
「いやいや、俺は別に正式メンバーとして加入させたわけじゃ――」
「何言ってるの? アリアちゃんが加入用紙提出してたわよ」
「……」
あんのポンコツ。
「つまりあれですか? 俺はこのパーティーを抜けることもできず、あいつらを追い出すこともできない、と?」
「そういうことになるわね。パーティー契約とは冒険者同士で行う魂の契約のようなものなの。その契約を破ると爆発しちゃうわ」
「なんて?」
「爆発するの」
「えぇ……」
「カケルくんには感謝してるのよ? あの問だ―― 戦闘力は最強クラスの子たちを引きとってくれたんだから。遊ばせておく訳にはいかないものね」
「今問題児って言おうとしましたよね?」
「してません」
「……」
ゼロから異世界生活を立て直そうとした俺の考えは、アリアによってすでに打ち砕かれていたのだ。
――― 時は戻り、現在 ―――
「聞いてるんですか!? 敬ってください!」
「うるせえ! 誰のせいでこうなったと思ってやがる!」
「何のことかわかりませんが、少なくとも私のせいではありませんね! それだけは自信があります!」
「どっから湧いてくんだよその自信」
「妾のせいでも無いことは確かであろうな。何せ妾は天体魔――」
「お前の食費も俺の頭を悩ませる要因なんだよ! 日に日に減っていく金見たことあるか!? 金は無限じゃねえ有限なんだよ!」
「ふふ。そう焦るなカケル。先日のクエストで結構もら―― あっ」
トウカは落ち着いた様子でテーブルの上に置いていた水を零した。
「このドジっ子ちゃんがああああ! この前のクエストなんてあんだけ倒して1万サリーももらえなかったんだぞ! 二人分の宿代にもならなかったんだぞ! お前らせめて一緒の部屋にしろよ!」
「くっ。まさかこんな所までモンスターの攻撃が――」
「だから違う! お前らも警戒すんな! 宿屋にモンスターが来るわけないだろうが!」
ほんとこいつら何なんだ。俺のまったりハーレム異世界生活どこいった。
「まあ何にしてももう昼なんだ。今更ギルドに行ってもまともなクエストなんて残ってないだろ」
「それはカケルが起きないからですよ! カケルが悪いんです!」
「……」
いやまあそれは否定しない。だって二度寝気持ち良かったんだもの。
「私はカケルより魔法の成長早いのですからカケルは私に従うべきです!」
「は? ふざけんな。ってか同じ生活してんのになんでアリアの方が強くなんの早いんだよ」
「ふふん! 神だからでは?」
「人の成長には個人差があるとは思うが…… 明確な違いはアリアがいつも食べてるモノが影響しておるのであろうな」
ステラが答えを言ってくれた。そのステラにアリアは「余計な事言わないでください!」などと嚙み付いていたが、そうかなるほど。
「つまりいつも食べてるアイスクリン分アリアの方が成長が早いと。そういえばまだ食べた事なかったなアレ」
「ふ、ふふん! 答えが分かったからといって私とカケルの差は埋まりませんよ!」
「つまりアリアに金を渡さず、その分を俺が食べればいいわけだ」
「わああああ! 冗談ですよ! だからそんな事言わないでください! ちゃんと働いたら買ってください!」
目をうるうるさせて服を引っ張ってくるロリっ子を鼻で笑っていると、トウカが口を開いた。
「そういえば何故カケルがアリアのお金を管理しているんだ?」
「言ってなかったか? こいつに渡したら全部使っちまうんだよ。それから俺のとこに貸してと来る。だからアリアの分だけは俺が管理してる」
「あぁ、そういうことだったのか」
「そういうこと」
俺は未だに服を引っ張っているロリっ子に視線を移して、
「おい冗談だからさっさと離せ。伸びるだろ。働いたらちゃんと買ってやるよ」
「ほんとですか?」
「本当だ。俺がそんな悪魔みたいに見えるか?」
「うぅ…… 見えます」
ひどくない? 優しいと思ってるんだけど。
…… ん? アイスクリン分成長が早い?
「ちょっとまて。アイスクリンってモンスターの何かなのか?」
「アイスクリンの原材料はネルスクリーマというモンスターの体液を氷結魔法で凍らせた物ですよ」
「……」
なにそれ気持ち悪い。モンスターの体液ペロペロしてたの? 気持ち悪っ。
俺はアリアがいつも美味そうに食べている物体の正体を知ることになった。
絶対食べないだろうな、と思った。