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俺の異世界生活は最初からどこか間違っている。  作者: 六海 真白
第一部 一章 異世界生活編
30/88

俺の3人目のパーティーメンバーはどこか間違っている。


 * 冒険者ギルド≪ストレリチア≫ *


 ギルドにある酒場は今日も荒くれ達で賑わっている。

 ある者は武勇伝を、ある者は喧嘩を、またある者はナンパを。

 ほんと、この異世界は自由で満ちている。この平穏な時間がなんとも心地いい。いや、そんなことよりあの不名誉極まりない称号が定着しなくて本当に良かった。


 俺はそんな事を思い浮かべながら、酒場にあるカウンターで一人哀愁を漂わせていた。


 「マスター」

 「ん? おうカケルか。今日はあの嬢ちゃんたちは一緒じゃねえのか?」

 「用事があるって二人でどっか行っててな、後で合流する予定なんだ。それより…… イツモノ」

 「そうか! あのチビッ子が来てくれるとかなり儲かるからなあ! で、イツモノって?」

 「……」

 「ん? どうした? カケル」


 ちくしょうまだ早かった。


 「…… ブラックビアください」

 「あいよ」


 ブラックビアとはアルコールが入っていない炭酸飲料だ。味はフルーティなコーラっぽく、黒い液体の表面にはビールでよく見られる泡がふわふわ浮いている。異世界にやってきた事でコーラなんて諦めていたのだが、ブラックビアの存在を教えてくれたステラには感謝の気持ちでいっぱいだ。


 ちなみにブラックビアを注文するそのほとんどはジャポンティ人で、この国の人々は「何が入ってるか分からない」という理由であまり飲まないらしい。こんなに美味しいのに。

  

 一人物思いにふけっていると、隣に誰かが座る気配がした。


 「マスター。ブラックビアは置いているだろうか?」


 荒くれ達の喧騒が響く空間に、凛とした声が飛び込んだ。


 ―― ブラックビアを注文とは、この人、できる。


 「おっ、こりゃまたえらい美人さんだ! それにしても初めて見る顔だな。サービスしといてやるよ」

 「すまない。感謝する」


 俺はマスターの『美人さん』という言葉に反応し、隣に座った人物をちらっと見る。


 ―― おお! これは!


 俺より背丈は低いがそれほど変わらず、黒髪を後ろで束ねた美少女。腰には日本出身の俺にも馴染み深い刀を持っている。

 何より目を引くのは、アリアのような絶壁ではなく、ステラのような中の上クラスではない、その胸囲。


 そうだよ。異世界っていえば現実じゃ見られないような巨乳だよ。ステラを初めて見た時はアリアに慣れていたからちょっと見つめてしまったが、慣れてしまえばなんてことは―― いや、まだちょっと目は行くな。

 この子はあいつらと全く違う。まるで侍のような恰好をしていて、胸に巻いているさらしでもその爆発を抑えきれていない。

 というか、さらし巻いた状態を露出させてるのは恥ずかしくないんだろうか。俺はそのままでいいけど。


 「ところでマスター。私はこのパーティーを探しているのだが、何か知らないか?」

 

 黒髪の美少女は一枚の紙を取り出し、マスターに手渡した。


 「ああ、このパーティーなら――」

 「さ、さっきからなにをジロジロと見ている!?」


 急にこっちを振り向いてきた女の子から、俺は視線を反らして知らないふりをする。


 「おい、お前に言ってるんだ! こっちを向け!」

 「マスター。このおっぱ―― 世間知らずなお嬢ちゃんは誰だ? この俺がドルァゴンハンターと知って突っかかってきているのだろうか」


 冒険者として俺はきっと格上。あの胸の暴力に負けたりせず、威厳を示さなければならない。


 「やれやれ…… あんたが探してるパーティーのリーダーはそいつだよ」

 「「え?」」


 この子が俺のパーティーを探してる!? おいおい! やっと運が俺に向いてきたようだな!!


 ――― それからちょっとして ―――


 ギルドの片隅にあるいつものテーブル。

 アリアとステラが到着し、定位置となりつつあったその場所には男の夢が詰まったモノがあった。


 「遅かったな」

 「ちょっと色々あったので」

 「そうか。なら食べたいものを注文しなさい」

 「わーい! わらわはきぶんがいいからな! きょうはたべるぞ!」

 「ステラは程々にしてくださいね。ところでカケル、さっきからどこを見ているんですか?」

 「おいおい、何言ってんだ? 俺は前しか向いてないだろう? いや向けない魔法にでもかかっているのかもしれん」


 俺の前に座っているのは黒髪の美少女。もとい、おっぱい。


 「何をバカなことを言っているんですか? そんな魔法あるわけないでしょう」

 「いや、ある。この光景から目を反らすことができるか? 俺には無理だ。つまりこれは誰かに魔法をかけられている状態と言えるだろ」

 「いや無いですよ。それはカケルの意志です」

 「くっ。こいつに見られているとどうも全てを見透かされているような気がしてくる」

 「……」


 俺の視線に頬を赤らめる美少女。

 まあこの世の真理を俺は見つめてますからね。全てと言っても過言ではない。

 そんな様子を見て、アリアは小さく息を吐いた。


 「それで? カケルはどうしてこの人と一緒にいたんですか?」

 「俺たちを探してたみたいだぞ?」

 「探してた? どうして私たちを?」

 「それはおっぱ―― 本人から直接聞いた方がはやいだろ。あと変な目でこっちを見るな。俺がおかしいみたいになるだろ」

 「…… ですね」


 アリアは俺に向けていた不審者を見るような目を止め、黒髪の美少女に視線を移した。ステラは料理がくるのをまだかまだかと体を揺らしている。俺は一点だけを見つめ、おっぱ―― 黒髪の美少女の言葉を待った。


 「私をお前たちのパーティーに入れてくれな――」

 「いいぞ」

 「え? 即答ですか? この人が何者かすら分からないんですよ?」

 「は? アリア、お前はバカか?」

 「なっ!? バカとはなんですか!?」

 「見たら分かるだろう? よく観察してみろ」

 「え? …… 黒髪ということはカケルと同じジャポンティ出身で、腰の得物からして近距離戦が得意で…… それからそれから――」

 「違う」

 「何がですか!? あっ! 分かりました! カケルはこの人の魂の色を見て善人か悪人か見分けたんですね! 良い人だと分かったから即決したのですね!」

 「違う」

 「じゃあ何だと言うのです!?」

 「この人はな……」


 俺はすっと息を吸ってから、言った。


 「おっぱ―― っ!? いてえ! いきなり何すんだ!」


 俺が言い切る前に黒髪の女の子は腰の刀を鞘に入れたまま投げつけて来た。

 めちゃ痛い。おでこにたんこぶできそうなぐらいめちゃ痛い。


 「お、おおおおおお前こそ! こんな場所で一体何を口走ろうとしているんだ! 私にはトウカという名がある! 決してその、お、おお、お―― 体の一部分を指したような名ではない!」

 「わかったわかった! 悪かった! ただの冗談じゃねえか! だからそのビリビリしてる手をしまえって! これからよろしくな! な!」


 目の前でなぜか激昂している美少女。その周りにはパリパリと鳴る白い光。バリバリと鳴る右手。

 この子は雷系の魔法を使うってのが一瞬で理解できた。


 こうして俺のパーティーにトウカが加わることになったわけである。 

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