俺の2人目のパーティーメンバーはどこか間違っている。
「うぐっ…… えぐぅ…… うわああああああああああん」
「おいそろそろうるさいぞ。俺が泣かせたみたいになるだろ」
「だってぇ…… だってぇ! モンスター怖かったんですぅ…… ひぐぅっ」
「無事に帰ってこれたんだから良いじゃねえか」
「えぐぅ…… それは…… そうですけど……」
俺とアリアはコモモドラゴンから逃げ帰り、ギルドに戻ってきていた。
息切れを起こしていた俺を見たアイーシャさんがため息を吐いたのは気のせいだろう。
俺はアリアと共にいつもの席に腰を落とした。静かになりつつあるアリアを見て、俺は息をすっと吸い込んでから言った。
「…… パーティメンバーを募集したいと思う」
「ぐすっ…… そうですか」
「なぜか、分かるか?」
「見当も付かないですね」
「本当に?」
「ええ。なぜ神である私がいるにも関わらず新たな仲間を欲するのか、理解に苦しみます」
「おいクソガキ。記憶を消す魔法でも使ったのか? どんな便利な構造をしているんだお前の頭は」
「し、失礼なことを言わないでください! 私はアリア! 神の力である言霊魔法の使い手なのですよ!? つまり神です」
「だーかーら、お前のその言霊魔法が進化したって、私に任せてくださいって聞いたから満を持して討伐クエストに向かったの! で? 結果はどうよ? 神の力と言い張る言霊魔法は相変わらずモンスターには効かず、地面に小山を作っただけじゃねえか!」
「ふ、ふふん、どうやら私の力が真価を発揮するにはまだ何か足りないようですね」
「……」
足りないのはお前の頭だろ。
まあ、アリアの言霊魔法に頼り切っていた俺も悪いか。
「お前が拒否してもパーティー募集の張り紙はクエストに行く前に出しておいたけどな」
俺はアリアが使えない子である可能性を考慮し、今朝ギルドに来た時にパーティメンバー募集の申請をしていたのだ。
俺はなんて行動力のある男なんだ。これにはアリアも驚いただろう。
「知ってますよ」
「は?」
「だから、カケルがパーティーメンバー募集の申請をしていたのは知っています」
「…… なんで?」
「ミーナルアに聞いたからです」
「え、誰?」
「カケルに仕事を紹介してくれた水色髪の人ですよ」
あの人ミーナルアって名前だったのか。
ってそんな事はどうでもいい。あのお姉さん何やってくれてんの?
「へえ。 別に拒否する理由はないだろ? 仲間が増えるんだから」
「かまいませんよ。私の書いた募集文を見て私のパーティーに入りたいという人物ならば神である私は誰であろうと受け入れますよ」
「……?」
いまなんて? なんて言った? この子。
「聞き間違いか」
「神である私は」
「いや、そこじゃない」
「私の書いた募集文を」
「うん、それだ。お前なにやってくれてんの?」
「私に言わせてもらうと、カケルの書いた文章は無難すぎて面白みにかけてましたので。あと字がキレイすぎてキモかったです」
「………… それでいいじゃねえか。問題ないだろ。普通の奴でいいじゃん」
「問題ありありです! ただの普通の人なんて魔王討伐という神の務めを遂行するのに邪魔なだけですっ! 私の文才溢れるこの文章を読んでください!」
アリアはどこから出したのか、一枚の紙を俺の目の前に広げた。
* パーティメンバー募集 *
私は神。名前はアリア。私のパーティーは毎日の寝る場所、食べ物に困ることのない幸福なパーティーです。そんな幸福なパーティーに入りたい、人は誰しもそう考えることでしょう。
ですが、もう一度よく自分自身を見つめなおしてください。
…… どうです? 神であるこの私のパーティーに相応しいと思いましたか。
神である私のパーティーに凡人は一人で充分です。私の言う事を聞かない凡人は一人で充分です。
神の力と等しき力を持つ者のみ、私のパーティーに加入することを認めます。
「……」
「どうです? 良い文章でしょう?」
俺はそっと席を立ち、アリアの横に移動して、腕を振り下ろした。
乾いた音が響く。
「いたっ!? いたい!? 何をするんですかカケル!」
「来るわけねえだろうがああああああああ!! 凡人って俺か!? 俺の事か!? 俺の事だよなあ!? お前ふざけんなよ!? なーにが神の力だよ、なーにがどうです? だよ! ご自慢の言霊魔法はポンコツじゃねえか!」
「ぽ、ポンコツ……!? 言いましたねカケル! ついに言ってしまいましたねその言葉を! 私に対する禁句を言ったら最後」
「最後どうなるんだ!? あいにくお前の言霊魔法は俺には通用しないぞ!? 残念だったなあ!」
「ふふん! カケルは忘れてしまったようですね!! モンスターにはまだ通用しませんでしたが物には効果があることをっ! ナイフよ! 浮かび、集まりなさい!」
アリアがそう言うと、ギルド内にあるキッチンから何本かのナイフがふよふよと宙を飛んできた。
「おいおいアリアこそ忘れてないか? 俺のスキル『アクセル』は速くなるスキルなんだぜ? そんなふわふわする飛行物体を避けるのなんて楽勝なんだよ!」
「ふふん! やってみないと分からないでしょう! 覚悟してください!」
俺とアリアの壮絶な戦闘が始まろうとした瞬間、俺とアリアの間に声が飛び込んできた。
「ちょっとよいか? 聞きたいことがあるのだが」
「何の用だ(ですか)?」
俺とアリアは声の方を振り向いた。
「このパーティメンバー募集の張り紙を見たのだが」
その藤色の髪色の持ち主が手にしていた紙は、アリアが申請したパーティメンバー募集用紙だった。
「…… ひやかしに来たんなら帰ってくれ。今忙しいんだ」
「妾も混ぜてくれんか?」
「「……」」
どゆこと?
――― それから ―――
「ふふん! どうですカケル! 言った通りでしょう! この人からは尋常ではない魔力の波動を感じます!」
「いいからちょっと黙ってなさい」
「何でですか! 私の募集文を見て来たのですから面接は私がするものでしょう!」
「よし、お小遣いあげるからおやつでも買ってくるといい」
「わぁーい! カケルだいすきー!」
俺はそう言ってアリアに500サリーを手渡すと、どっかに走り去っていった。
「すいません、まだ子供なもんでして」
「よい、気にするな。妾にもああいう時期はあるのだからな」
なんて良い人なんだろう! しかも何この髪の毛の色! 藤色? 淡藤色? とにかく髪の毛めっちゃきれい!
俺と反対側のイスに腰を落とした女の子。藤色の髪の毛と紫色の瞳を持つ美少女。アリアより少し身長は高いがそれほど変わらない。比較的小さめな見た目は儚いという印象なのに、どこか色っぽいと感じるのは凛としたその声色のせいなのか、それとも……
俺の視線は本能のままに彼女の顔からだんだん下がっていった。
―― この成長度合いでアリアと同い年とは考えにくいな。
「ど、どこを見ておる!?」
「ん? どこも見てませんが?」
「……」
ふう、危ない危ない。女の人は男の視線が分かるというが本当みたいだ。
「それで? あなたはなんで俺たちのパーティーに入ろうと思ったんですか?」
「妾の名前はステラという」
「あ、俺はカケルです」
「さて、カケルの質問じゃ―― だが…… ふむ。難しいのう。パーティーに入ることに理由も何もないと思うが……」
「そうですね。質問を変えます。あの子供の悪戯みたいな募集文を読んで俺たちのパーティーに入ろうと思った理由は?」
「くははっ! 子供の悪戯かっ! 良い例えだな! そしてそれが理由と言っても過言ではないやもしれん」
「え?」
「妾がカケル達のパーティーに入ろうと思ったのは単に面白そうだった、それだけのことよ」
「それだけ?」
「不満か?」
まじ? たったそれだけでこんな美少女が俺のパーティーに入ってくれるってのか! それにさっきから口癖か何か知らんが『じゃ』が出た時ちょっと恥ずかしそうにしてるのもポイント高いっ!
「不満なんてそんな……」
「あぁ慣れてなさそうじゃ…… だから気を使わなくてもよいぞ」
しかも優しいっ! そして仕草もかわいい! これは大当たりの予感しかしねえ!
「じゃあ普段通りで。ステラは何ができるんだ? 一応火力職か後方支援的な職かは知っておきたいからな」
「職…… ふむ……。妾は火力職であろうな。習得魔法的に」
「おぉ! 火力職! モンスターとか倒せたりすんの!?」
「それはそうであろう。妾の使う魔法にはデメリットがあるのだが、モンスター程度に遅れはとらぬよ」
「して、ステラが使う魔法とは?」
「私も気になりますっ!」
いつの間にかアリアが俺の隣に座っていた。
ガリガリ君みたいなアイスをペロペロなめている。この世界アイスも存在したのかよ。俺も食べたい。
「そうだな……、百聞は一見にしかずと言う。 モンスター討伐クエストにでも行くとしよう。何か手頃なクエストがあればよいのだが」
ステラのその言葉に俺とアリアは顔を見合わせ、頷いた。
「「ある!」」