俺のパーティーメンバーはどこか間違っている。 完 (イラスト有)
太陽輝く晴天の下。
「アリアああああああああああっ! たすけてくれええええええええええええええええ!」
「きゃははははははっ! カケルほらもっと速く走ってください! 追い付かれちゃいますよー!」
俺たちはコモモドラゴンという小型のドラゴン型モンスターの討伐に来ていた。
お姉さんの話では、コモモドラゴンは縄張り意識が非常に強く、縄張りに入ったモノは人間、モンスターの強弱に限らず何でも襲うと言われているらしい。
その縄張りが行商人の通る道の近くに出来たらしく、その一帯のコモモドラゴンを討伐してほしいそうだ。
ドラゴン系に属しているが翼は生えておらず、縄張りに入ってきた敵を強靭な四本の足で追いかける。ワニのような口の中にはずらりと並んだ鋭利な歯があり、敵に食らいつく。その尖った歯にはコモモドラゴン固有の毒があるらしく、噛まれたら最後、体の自由を奪われ生きたまま捕食されるらしい。ちなみにコモモドラゴンの肉は、ほんのり甘みがあり人気だそうだ。だが、その流通数はコモモドラゴンの危険度故に少なくかなり高値で取り引きされているとかなんとか。
なぜ、そんなクエストを俺たちが受けたか、それは単純だ。報酬が良い。なんと、一匹倒す毎に5万サリー。しかも、コモモドラゴンは群れで縄張りを作るらしく、一つの縄張りには大体十匹前後いるという。つまり、一つの縄張りを壊滅させると、約50万サリーだ。60万サリーもの借金がある今の俺は、このクエストを何としても遂行しなくてはならなかった。
だが、
「うおおおおおおおおおおおおお! 何なのこのモンスター!? こわいいいい! こわすぎるうううう! 何がちょっと頑張ってだよおおおおお!」
「きゃははははははは」
不注意からコモモドラゴンの縄張りに入ってしまった俺は逃げるので精一杯。反転して迎撃なんてこんな恐ろしい顔したモンスターにできるわけがない。頼みの綱のアリアは縄張りの外で高みの見物を決め込んでいる。
「アリアっ! はやく! はやくたすけてええええええええええええっ!」
『グルルルルルルルァァァァ』
「ひぃっっっ」
「きゃははははははっ! ひぃって! なっさけないですねえカケルう!! ぷぷぷぷぷ」
あのクソガキは後でロープにでも繋いで引きずってやろう。そうしよう。
くそっ。『アクセル』を使えば余裕で引き離せるだろうけど、こんなとこじゃなくて誰かのピンチに颯爽と駆けつける時に使いたい。でもこのままだと俺のスタミナが先に尽きてしまう…… くそっ!
『グルルァ?』
俺の後ろを追いかけるコモモドラゴンの足が止まった。
と、思ったら
「おい! アリア! そっち行ったぞ!」
コモモドラゴンはなぜか標的を俺からアリアに移し、アリアのいる場所へと駆け出した。
「えっ!? ちょっと! 待ってください! 私は縄張りに入ってないじゃないですかっ!」
「俺が知るかそんなもん! お得意の神の力とやらを見せてくれるんだろー? 任せたぞ! とりあえずは5万サリーだ!」
「やっぱり私を頼りにしてるじゃないですかああああああああああ」
「当たり前だろ! 俺に何ができるってんだ。俺に出来るのは索敵とちょっと早く走るだけ」
「ふ、ふふん! 神たる私の姿を指でも咥えて見てるといいですっ!」
「おーう! 頑張れー!」
俺はアリアの様子を見物することにした。
「大地よ! 隆起なさいっ!」
ポコッ
俺は感心した。確かにあの速さで走る物体が突然壁にぶつかったらひとたまりもないだろう。アリアは地面を壁のように盛り上がらせて、自分の身を守る防壁を創るつもりのようだ。
「あ、あれえ。おかしいですね」
様子がおかしい。コモモドラゴンとアリアの間には一向に壁が創られる様は見られない。
俺が見たのは……
「おーいアリアー! 神の力で創ったってのは子供が砂場で造るようなその小山のことかぁー?」
小山、と呼ぶのもおこがましい。アリアが自身の足元に創ったのは握りこぶしぐらいの小さな山。あんなの子供ですら躓かない。
「し、静かにしてください! 今のはちょっと失敗しただけです! 今から本気出しますから! 大地よ! 隆起しなさいっ!」
ポコッ
「あはははははははっ! おいおい神様ぁー? さっきと変わらないぞー!」
『グルルルルルルルァァァァ!』
「ひいっ! こっち来ました! こっち来ました! 助けてくださいカケルうううう!」
「コモモドラゴンに直接止まれって言えばいいんじゃねえのかよー」
「はっ!? その手がありました! さすがはカケルですね!」
「感謝しろよー?」
「はいっ! そこのモンスターよ! 止まりなさい!!」
『グルルルルルルァァァァァ!』
「あ、あれええええええ! 止まりません! カケル! コモモドラゴン止まりません! 止まりませんよ!? 何でですかああああああ!?」
「俺が知るかああああああああああああああああ」
あいつ使えねえ。言霊魔法ってチート魔法のイメージしかなかったのに、あいつの言霊魔法は使えねえ。
「た、助けてください! カケルっ! 助けてくださいいいいいっ!」
くそっ。
「――『アクセル』っ!」
俺はポンコツで生意気なロリっ子救出のためにスキルを使い、駆け出した。
どうせならお姫様救出イベントで使いたかった。
こんな自分で自分の事を神とかいう頭のおかしいロリっ子にではなく、だ。
「よし捕まえたっ! アリア! 今日はとりあえず撤退だ! 俺たちには色々足りない!」
俺は腰を抜かしていたアリアを抱きかかえ、全速力でコモモドラゴンの縄張りから立ち去った。
腕の中のアリアを俺は見る。お姫様抱っこされたアリアは今にも泣きだしそうだ。
―― 黙ってれば可愛いのに、こいつ。
挿絵は 『いちみれんげ』 様より頂きました。