俺のパーティメンバーはどこか間違っている。
頬を撫でる心地よい風が窓から吹き込み、軽快な日光が部屋いっぱいに差し込む。
俺はそんな場所で目を覚ました。
「あぁー、あたまいたい」
最悪の気分で。頭が痛いだけでなく体もちょっと痛い。
―― 見慣れた寝室って事は、ここは宿屋か。 あぁ、くそっ。何かレアなイベントがあったような気がするが何も思い出せない。何で俺は宿屋にいるんだ? 俺は確か…… ギルドに報告に行って、勢いに身を任せて、それから…… ダメだ、思い出せねえ。 まあ何にせよ、俺は記憶を失うぐらい酒を飲んでも帰ってこられるって事は分かった。
「目を覚ましたんですか」
記憶を辿っていると部屋の扉が開き、聴き慣れた声が飛び込んできた。
「ん、アリアか」
「はいアリアです。お水ここに置いときますね」
「……? ありがとう」
「……。…… まだ頭が痛いんですか? お風呂入れてるのでさっぱりしてきてください。朝ごはん作ってますので」
「ん」
俺はアリアに促されるまま風呂場に向かった。
「ふぅ~」
体を包み込む温かい水に俺は癒された。心なしか頭痛も体の痛みも引いていくような気がする。
「…… なんか、今日あいつ変じゃね?」
落ち着きを取り戻しつつあった俺は先刻のロリっ子に違和感を覚えた。
俺の知ってるあいつなら、
「もう! そんなになるまで飲むなんてそれでも大人ですか!?」やら、「神である私に介抱させるなんて何考えてるんですか!?」とか言って上から目線でつっかかってくるはずだよな。
…… もしかして、俺なんかやっちゃったのか? まあいいや。後であいつから何か言ってくるだろう。今はこの極楽を満喫しよう。
――― その後の食卓 ―――
「……」
「……」
もぐもぐ。
うん、やっぱマルメドリはうまい!
…… じゃねえええええ!
これ俺絶対なんかやったパターンのやつじゃねえか! なんでこいつ喋らねえの!? いつもなら「どうですアリア特製マルメドリの丸焼き! おいしいでしょう?」なーんて、ただ焼いて皿に乗せただけの肉をどや顔で自慢してくるのに!
「今日はサラダも作ったんです。持ってきますね」
「あっ、はい」
こわい。こわいよこの子。なんだよサラダって。お前と過ごした約一か月、サラダのサの字も出てこなかっただろ。
「どうぞ、サラダです」
「……」
うんキャベツ切っただけ。
やべえ。なんだこの空気感。逃げ出してえ。
「何です? さっきからチラチラと。 私の顔に何か付いてるんですか?」
「いえなにもついてません。いやあ、アリアの作った料理はおいしいなあ!」
「―― っ」
これ完全に怒ってますわ。俺なんかやっちゃったみたいですわ。あのちょろい事で有名なアリアさんが誉め言葉にほぼ無反応ですもん。ちょっと体がピクッとするだけで抑えてますもん。
あーもう仕方ない。俺も男だ。
「アリアさ、今日なんか変じゃね?」
しまったああああ。完全に言葉選びミスったああああ! 何だよ変って、俺でもちょっとむかつくわ。
「……ふふん、分かります?」
お?
「やっぱり分かっちゃいますよね、カケルには」
おお?
「そ、そりゃ分かるだろ。一か月近く一緒にいるんだから」
何の事かさっぱり分からんがこういう時は話を合わせるのが無難だって何かで読んだ気がする。
「ふふん、私が大人になったのが分かるなんてさすがカケルですね!」
「…… えっ」
「まあ、私を大人にしたのはカケルですから分かって当然なんですけどね」
「……」
えええええええええええええええええええええっ!?
大人になった!? 俺が大人にした!? えっ!? つまり、えっ!? そういうこと!? 何か目の前の女の子のほっぺたちょっと赤くなってるしそういうことなんですよねえ!? 大人の階段昇っちゃったってことですよねえ!?
ああ、父さん母さん。俺は色々なモノを失って犯罪者になってしまったようです。本当にごめんなさい。
「いやあ、私にあんなことができるなんて……」
「……」
あんなことって何!? えっ、もしかしてあんなこと!? おいおい昇るの早すぎるだろ。エスカレーターじゃねえんだぞ。
とりあえずこういう時、男の俺にできる事は……
俺はスッと席を立ち、膝を折って、床に額をつけた。
「…… 何やってるんです?」
「見てわかりませんか? 土下座です」
「…… あぁ。つまりカケルは私の昨夜の苦労を理解したってことですね! 本当に疲れたんですから」
おいいいいいいい! 夜の俺は一体ナニを何回やってくれてんだああああ!?
夜の俺はこんなクソガキ、じゃなかった女の子に興奮したんですか!? 十二歳ですよ! 十二歳! まだ中学生になったばっかりなんですよ! 確かにこいつ顔だけは可愛いけどさあ! 俺のタイプはさあ! もっとこう、色んなところが大人な感じの女性だったじゃん!!
「本当に…… ほんっとーに申し訳ございませんでした」
「ほんと、カケルをギルドから引きず…… 連れて帰ってくるの大変だったんですから」
…… ん?
「今引きずるって言おうとしてなかったか?」
「してませんが」
「いや、してたろ」
「してません」
……。いや、とりあえずそれはいいや。連れて帰ってきてくれたのはこいつみたいだし。
俺は土下座をやめて、椅子に座った。
「聞かなければならないことがある」
「な、何ですか急に」
「大人になった、の部分を詳しく」
「ふふん、気になりますか…… 見ててください。 ナイフよ、浮かびなさい」
アリアがそう言うと、肉を切るのに使っていた銀色のナイフがアリアの周囲を浮遊し始めた。
俺はそれを見て、色んな感情を、それはもう色々な感情を吐き出すように大きく息を吐いた。