俺の初クエストはどこか間違っている。 3
「すいまっせんでしたあああああああああああ!」
俺は人の気配もモンスターの気配もしないアルヒ近くにある静かな森の中で額を地面に擦り付けていた。
俺が知り得る限り最上級の謝罪方法。
そう、土下座。俺の賭けとは誠心誠意キングマルメドリさんに謝罪して許しを乞う事だった。
『いきなりどうしたのだ。人の子よ』
「王の元にオスばかり帰ってたのは俺が原因なんですうう! ほんっとすいませんでしたあああ!!」
『……』
なんで黙るの? ねえ何か言ってよ。怖い。
『顔を上げよ。人の子よ。言ったであろう? 話を聞きに来ただけだ、と』
「……」
え? マジで?
俺許されるの? 助かった?
俺は瞳を輝かせて顔を上げた。
『もしそのような術が存在するならまずはあの街を滅ぼしていたところだったがな』
「……」
俺の瞳は輝きを失った。
『軽い冗談だ、人の子よ』
「……」
笑えねえよ。
『…… それで、人の子よ。貴様が原因とはどういう意味だ? 貴様が術を編み出したとでも言うのではないだろうな』
俺は自分の加護の事と仕事の事、契約なんて知らなかった事を話した。
『…… ふむ。なるほど、謎は解けた。カケルと言ったな人の子よ。この契約ははるか昔に結ばれたモノ故、契約の存在を知らなかったのは仕方がない。ただ今後は気を付けるのだぞ。知らぬ事が罪となる事もあるのだからな』
「…… はい、以後気を付けます」
『魂の加護を授かりし人の子よ。原因が解明された今、我は気分が良い。一つだけ質問に答えてやろう』
お? 薄々勘付いてはいたが、キングマルメドリさんって優しいのか?
だけど質問か。
例えば…… どんな契約を人間と結んだのか。もし性別が分かる術ってやつが実在したなら本当はどうしたのか。そもそもキングマルメドリさんがわざわざ聞きに来ることなのか、とかぐらいか。
だが、俺の口から出た言葉はそれらと関係ないモノだった。
だって、正直あんま興味ないし。
俺が知りたいのは、
「王は俺が知るマルメドリとは姿が大分違うようなんですが」
そう、明らかにドラゴンに見えるキングマルメドリさんの姿の謎。俺の知るドラゴンには無い羽毛が存在している。背中に乗らせてもらったときめっちゃふわふわさらさらで抱き枕にしたいぐらい最高の触り心地だったのだ。なんでそんな姿なのか、俺はそれがめっちゃ知りたい。
『我の容姿の事か。それは我も知りたい謎であるな』
「へ?」
『我にも分からぬのだ。先代から王の座を引き継いだ時、我の翼と体躯は大きく変貌した。人間共はこれを進化と言うらしいが。何故、王の座に就いたマルメドリがこの姿になるのか、その理由を我は知らん』
この世界のモンスターはやっぱり成長、進化するのか。
人間サイズのオオマルメドリってのがいるってお姉さん言ってたしな。見たこと無いけど。
「そうだったんですか」
『すまぬな人の子よ。まあ、翼が成長しても空は飛べぬのだがな。マルメドリだけに』
「……」
だから笑えねえよ。
『…… では、そろそろ我は帰るとしよう。それにしても、この辺りは何故かモンスターがいないようだが』
「あ、はい。シリウスってやつが全滅させたみたいです」
『そうか。…… シリウスとやらはそれ程であるか。実に楽しみだ』
「……」
『我に娯楽を与えたカケルには褒美として我の羽を数本やろう』
いらねぇ。
『どうした? 早くせぬか』
「あ、はい」
羽の抜き取りからなんて知らなかった俺はふわふわを掴んでそのまま引き抜いた。
ブチッッ!!
『っっ!?』
「…… その、ごめんなさい」
『多少驚いただけだ。それより我の羽は我と離れても繋がっておるからな。雑に扱うでないぞ』
うわぁ。
「そんなっ! もちろん家宝のように大切にさせて頂きます!」
『それではな、カケル。また会える日を楽しみにしておるぞ』
「はい、俺も楽しみにしておきます!」
二度と会いたくない。
俺は鼻歌混じりに去っていくキングマルメドリさんの背を見ながらそう思った。
―― 本当に原因が知りたかっただけなんだな。そうだ、そういえばモンスターの魂って何色なんだろう?
意識を集中させる。
…… へえ、モンスターの魂は紫色なのか。にしても古代種と呼ばれるだけあって魂のスケール違うのな。
俺は新たな知識を手に入れた事と無事だった事に満足し、アルヒへ足を向けた。
* アルヒ 南門前 *
「なんか違くね?」
俺は森を抜け、南門まで戻ってきていた。帰り道にモンスターと出会うなんて事は無く、本当にお散歩感覚で帰ってこれた。なんなら薬草を取りに来たであろう小さな兄妹ともすれ違った。これほど街の外が安全なら定番のおつかい系クエストが無いのも納得だ。
だが今の俺には納得のいかない事がある。
「こういう時ってさ、普通はさ、俺の帰りを門の前でみんなで待ってるのが普通じゃね? なんで誰もいないんだよ」
緊急クエスト参加の為に集まっていた冒険者たちの姿は無い。パーティーメンバーであるはずのアリアの姿さえ無い。
今回の騒動は俺のバイトが原因だった。古代種と戦闘になんてなる事もなく、ちょっと話をしただけで帰ってくれた。だから緊急クエストの報酬とかは断ろうと思ってる。
でもさ、一応みんなが恐れる古代種と一対一をしてきたってのに出迎えの一つも無いとはどういう事なのか。
「ほんと、この世界は俺の扱い方をどこか間違ってる気がする」
俺は大きく息を吐いて、街に入っていった。