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俺の異世界生活は最初からどこか間違っている。  作者: 六海 真白
第一部 一章 異世界生活編
15/88

俺の初クエストはどこか間違っている。 2


 始まりの街アルヒの南門。

 そこには数多くの冒険者が緊急クエスト参加の為に集まっていた。


 「なあアリア」

 「…… 何ですか?」

 「お前怖いの? 言霊魔法使えるのに」

 「…… 怖くないです」

 「ビビッてるだろ。震えてるじゃん」

 「震えてません。そもそも神である私がモンスターなんかを恐れるはずがありません」

 「…… へえ」

 「そ、それにマルメドリと言えば私たちがいつも捕食しているモンスターじゃないですか! それの王だかキングだか知りませんが私の相手ではありません!」

 「捕食はやめような。野蛮(やばん)な感じになるから。ちゃんと割と高い金払って買ってるんだから」

 「あれ? カケルも震えてません?」

 「震えてません」


 俺は何かあったら『アクセル』で逃げられるように魔力を巡らせているだけだ。たったそれだけで震えてしまうなんてこいつには絶対言えない。


 俺は周囲を見渡す。冒険者はある程度集まった。百人ぐらいはいるだろう。

 しかし、


 「何か俺とそんなに変わらない装備の奴ばっかだな」


 ここは始まりの街と呼ばれている場所だ。俺と同じように駆け出しの冒険者しかいないのかもしれない。中にはちらほらと中級者っぽい装備をしている奴や騎士みたいな奴もいるが、古代種と呼ばれるモンスターが相手では駆け出しも中級者も騎士もそう変わりないだろう。


 「期待してるぜアリア。お前の言霊魔法、いや、神の力でこのクエストをクリアしようじゃねーか」


 俺は横で震えているアリアの肩にぽんっ、と手を置いた。


 「ふ、ふふん。任せてください。み、見せてあげますよ、神の力を」


 そんな時、周囲で声が上がり始めた。


 「お、おい…… 来たぞ……」

 「え、まってまって。あんなに大きいとか聞いてないんですけどぉ」

 「俺たちでアレを倒せるのか……」


 俺は背後から聞こえた絶望の声に反応して前方を見た。

 山のように大きな黒い影が見える。

 その影は次の瞬きの内に俺たちがいる場所の数十メートル先まで迫ってきていた。


 「へあ」


 俺はキングマルメドリの姿に情けない声を漏らした。頼りのアリアはいつの間にか俺の背後に隠れている。


 「ぷっ…… へあ、って」

 「おいこら。笑ってる余裕あるならお前は俺の前に立てよ」

 「い、嫌ですよ」


 こいつ。何のためのチート魔法なんだよ。ついさっきの自分の発言忘れたのか?


 「いいから俺より前に行けって!」

 「嫌です! 怖いです!」

 「やっぱビビッてんじゃねえか!」

 「ビビッてません! それにカケルだってやっぱり震えてるじゃないですか!!」

 「これはお前のとは違うんだよ!!」


 俺とアリアが掴み合いをしていると頭上から声が聞こえた。


 『人間共』


 「「……」」


 俺とアリアは互いの手を引っ込め、声のする方を見上げた。


 めっちゃ睨んでる。


 「なあアリア」

 「な、何ですか」

 「なんか、俺の知ってるマルメドリと大分違うんだけど」

 「そうですね…… 私の知ってるマルメドリちゃんはもっと丸々でふっくらしててふわふわで膝下ぐらいまでしかなくて…… こんな……」

 「だよな。可愛い系モンスターだよな。それをお前は『料理』してるんだけどな」

 「……」


 「なあ、アリアさん」

 「な、何ですか」

 「モンスターって喋るの?」

 「古代種だからじゃないですか?」

 「だよな。古代種なら喋ってもおかしくないよな」

 「ですね」 


 「なあアリアちゃん」

 「な、何ですか」

 「目の前にいるマルメドリさ…… 鳥じゃなくてさ…… 思いっきりドラゴンっぽいんだけど」

 「あああっ! なんでカケルは私が言わないようにしてた事を言っちゃうんですか!? このドラゴンが現実だったらどうするんですか!?」


 『安心しろ、人の子よ。これは現実だ』

 「……」

 「あわわわわ」


 おいおいキングマルメドリさんにツッコミさせちゃったよ。どうすんだよ。あわあわしてる場合じゃないぞアリア。俺は知らないぞ。


 『人の子らよ。今日は聞かねばならぬ事があって来たのだ。この街が(われ)の一族を繁殖させている事は知っている。そういう契約をはるか昔に交わしておるからな』


 え? モンスターと契約とかしてるの?


 『ただ今までと違う現象が最近多いのでな。我自(われみずか)らこの地に話を聞きに来たという訳だ』


 俺は安心した。俺だけでなくアリアを含めた他の冒険者達も同じようだ。

 よかった。この街を滅ぼしに来たんじゃなくて。話を聞きに来ただけで。


 「おい! その今までと違う現象って何だよ!」


 他の冒険者の集団から声が飛び出した。

 おい、どこの誰か知らんが敬語を使え、敬語を。キングマルメドリさんだぞ。


 『ふむ。人間ごときが我にそのような口を……』

 「すいまっせーん! 教育がなってませんでした!」


 俺は羽毛の生えたドラゴンの…… キングマルメドリさんの口から炎のようなモノが見えたので、すかさず頭を下げて謝罪した。

 だから言っただろうが。いや、実際には言ってないが。後で今の奴探し出してぶん殴ってやる。


 『人の子よ。貴様は格という概念を理解しておるようだな』

 「いえいえ! そんなことありませんよ! 王には礼儀を尽くすのが常識ってやつですよぉ!」

 『ふむ。よかろう。では、話を戻すとしよう。最近、我の元に帰ってくる子らの性別に(かたよ)りがあるのだ』


 ん?


 『我の元に帰ってくる子はオスばかり。これまではオスもメスもほぼ同等数が帰ってきていたのだ。人間如きが我が一族の性別を完璧に判断するのは不可能だと考えていたのだが、それを可能にするすべを人間は編み出したのではないか?』

 「……」


 これさ。ドラゴン来ちゃったの俺のせいじゃね? なにが完璧主義者だちくしょう。おっちゃんの言う通り適度に間違うぐらいで丁度よかったんだ。

 おいアリア。分かってる。分かってるから背中をつつくな。


 『何を黙っているのだ人の子よ』


 どうしよう。…… どうしよう! ここで俺でした! なんてカミングアウトしてしまえばこの街にこのおっかないモンスターを呼び寄せたのが俺だってみんなにバレてしまう。そうなれば俺はこの街で生きていけない気がする。それにこの場で喰われるかもしれない。俺が丸焼きになるかもしれない。モンスターがただ話を聞きに来ただけだって? そんなの信じられっかよ!

 かといって、この場で誤魔化しても受付のお姉さんやマルメドリ養殖所のおっちゃんから俺の事なんか簡単にバレる。後からバレた方が色々と罪は重そうだ。

 

 やべえ。お腹痛くなってきた。

 …… 仕方ない。一か八か、アレに賭けるしか。

 いや、その前に。


 「そのぉ……。俺はその術ってヤツを知っています……」

 『ほう。聞こうではないか』

 「あの、その前にここじゃ言えない事なので場所を変えてもよろしいでしょうか」

 『…… ふむ。よかろう。では我の背に乗るがよい』


 「カ、カケル……」

 「心配するなアリア。俺、帰ってきたらまたお前の料理が食べたいんだ」

 「はい! 美味しいマル―― 美味しく作っていつまでも…… いつまでも待ってますから!」

 

 アリア。マルメドリの丸焼きって口に出さなかったこと褒めてやるよ。えらいな。空気読んだんだな。


 「アリア、一緒にくるよな?」

 「いえ! 私にはやらなければならない事がありますから!」


 …… ちくしょう! いつもはポンコツのくせに! お前の魔法があればなんとかなるだろ! 俺の方の空気を読め! ヒロインみたいな顔するな! 自称・神の力を見せつけるんだろ? 助けろよ、俺を。


 『どうしたのだ人の子よ。早くせぬか』

 「あっ、はい」


 ああ、さよなら異世界。俺、冒険は出来なかったけど平和な日常は割と楽しかったよ。


 俺はキングマルメドリさんの体をよじ登った。

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