俺の計画はどこか間違っている。 3
世界を救うであろう男に見捨てられてから小一時間が経過した。崇高な目的の為に集まっていた冒険者たちは両手で数えられる程度しか残っていない。
ギルド職員のエルフたちが後片付けをしている中、俺はハンバーグを旨そうに食べるクソガキを眺めている。
「そんな目で見たってあげませんよ」
「……」
別に羨ましくて見ているわけじゃない。ただ成人前と成人後で扱いが違いすぎないかと思っているだけだ。
アリアのこれまでの話から成人前の冒険者は正式なパーティーを組むまで色々と優遇される事が分かった。
ギルド内で提供される飲み物は全部無料で朝昼晩の三食も無料。さらには宿屋を取る必要は無く、ギルドの宿舎で寝泊まりもできるらしい。
これらの保護を受ける為には正式なパーティーに加入するという意思を示さないといけないらしいが、そんなのは何とでもなる。
成人してない奴が冒険者となっているのはそれぞれ理由があるんだろう。そういう子供達が悪事に手を染めないように、国の保護対象になっているのだと推測はできる。
理解はできるが、納得はできない。
俺のように右も左も分からない可哀そうな成人男性もいるはずだ。そいつらにも何かしてくれていいと思う。
そんな事を考えていると、緑髪のエルフのお姉さんが近付いてくるのが見えた。
―― あれは確か、アイーシャさんだっけか。ギルドマスターの代役する時もあるって言ってたし、偉い人だな。
アイーシャさんは真っ直ぐ俺とアリアの元へ向かってきて、言った。
「アリアちゃん、もう片付けだから早く食べてもらえる?」
「神の優雅な食事を邪魔する事はアイーシャでも無理なのです」
「デザート抜きにするわよ?」
アリアは残っていたハンバーグを口に詰め込んでどや顔になった。
「お皿はどうするの?」
アイーシャさんが皿を指差すと、アリアはそれを持ってギルドの奥へ走り去っていく。
「全くあの子は。…… あなたがカケルくんね?」
「え、はい」
偉くて美人なお姉さんが俺の名前を覚えてくれてる!
「シリウスくんから話は聞いているわ。記憶が無いのは本当なのかしら?」
なるほど。
「無いですね」
「大変ね。これからどうするか決めているの?」
「とりあえず泊まるところを探して、明日からはクエストを受けようかと」
「あら、しっかりしてる。冒険者になったばかりの人はみんな案内を聞きに来るものなのよ。クエストを受けるつもりという事はすでにパーティーメンバーは集まったのね」
「いえ? いませんけど」
「…… 残念だけれどクエストは一人では受けられないの。最低でも二人以上のパーティーじゃないとギルドとして許可が出せないようになっているのよ」
「そうだったんですか。明日募集すればすぐ集まるようなもんなんですか?」
「それはカケルくん次第ね。カケルくんに出来る事を他の人に伝えて、それが認められたら組んでもらえるはずよ。パーティメンバーというのは信頼できるかどうかが一番大事なの。そういう人はこの街にいる?」
ふむ。
魂の色が見えてぷるぷるするだけの男を欲しいなんて言う奴は現れるのだろうか。現れなければ宿代次第じゃ俺は明日から野宿する事になる可能性も…… 絶対嫌だ。なんとかして一人見つけなければ。
「アイーシャ見てください! プリンもらっちゃいました!」
アリアが戻ってきた。
「ちゃんと料理長さんにお礼は言ってきた? あと歩きながら食べちゃダメっていつも言ってるわよね」
「…… もちろん言いました」
おいこの神様嘘吐いてるぞ。
「まあいいわ。ところでアリアちゃんは明日からどうするの? シリウスくんのパーティーに入る計画は失敗したようだけど」
「……? 私は今まで通りですが?」
アリアの言葉に、アイーシャさんは小さく息を吐いた。
当の本人はきょとんとした顔のままプリンを頬張っている。
「カケルまだいたんですか? はっ! まさか私のプリンが目当てで残ってたんですね! 早く帰ってください!」
「……」
俺は無言でアリアを指差す。
「何の真似ですか? 人に指差したらダメなんですよ?」
「アイーシャさんこいつです。俺のパーティーにこいつ入れます」
俺は新しい計画を立てた。
こいつにムカついたからとかじゃなくてちゃんとした計画だ。
アリアの魔法は自分の言った通りに他者を操る、つまり支配系のチート魔法ってとこだろう。この力があればきっとどんな難問も解決できる。目の前にそんな力があるのに利用しない手は無い。俺はこいつを利用して名誉と富を手に入れることにしたのだ。
「「え」」
二人の目が丸くなる。
驚いた表情が次第に歓喜の色を浮かべ始めたのはアイーシャさんだった。
「本当に? それなら助かるわ。この子の生活費って結構かかってたのよ」
どうやらアリアが無料だと思ってたのは勘違いだったようで。
「え、ちょっと待ってください。私がカケルのパーティーに? え? どういうことです? え?」
アリアは何が起こったのか理解できないようで。
「アリアちゃんを引き取ってくれる冒険者が現れて嬉しいわ。でも気を付けてねカケルくん。私は魔道具で防いでるけど、この子の魔法は――」
「却下します!!」
「却下を却下します。アリアちゃんはまだ冒険者見習いっていうの忘れたのかしら? カケルくんの提案は反対できないわ。個人的にもね」
「そんなの知りません! こうなったら…… カケル! さっきの発言を訂正してください!」
「嫌だね」
俺は即答して、
「「「…… え?」」」
この場にいる全員の頭に?が浮かぶ。
「お前人を操る魔法なんじゃねえの?」
アリアの魔法は人を操る事ができるのは知っている。大勢の人に自分の為の通り道を開けさせたのをしっかりこの目で見たからだ。
「そうよ。アリアちゃんの魔法は言霊魔法って――」
「アイーシャは黙ってください!!」
「―― っ!」
アイーシャさんの口が塞がった。自身の力では開けられないようで、んーんー唸っている。
―― 魔道具で防げてるのでは? こいつ魔法を強めたって事か? それにしても言霊魔法…… そりゃあ良い。
「ちょっと! 何ニヤついてるんです! 笑うのをやめてください!」
「おっと、お前の言霊魔法は――」
「口を閉じなさい!」
「ざーんねん。どうやら効かねえみてえだなぁ!」
「っっっっ! なんでっ! どうしてですか! 神の力なんですよ!」
「べろべろばー」
「黙りなさい! 黙りなさい!!」
「俺は黙る事を知らない男、その名もカケル。神の力なんて俺の前では無力に等しい」
俺はこうして言霊魔法とかいうチート魔法の使い手、アリアとパーティを組むことになったのである。