透明になる魔法で学校に行ってみた
学校に行きたくない。
その意志を母に伝えると「中学生にもなって! もう自分で電話しなさい!」って。
行きたくないから僕は電話を手に取る。
なんて言い訳しよう? 元気な僕の声でどうやって?
仮病? 僕が電話してる時点で破綻してるじゃん。
うう、つら。
電話番号を一個一個押していく。
ピ、ポ。
『てめぇ、そんなに行きたくねえのか』
パ、ポ。
『なんで行きたくねえんだよ』
声に気づいて顔を上げる。何かが居た。
フワフワ浮いてて、黒いマントみたいなので全身を隠してる。
でも顔は骸骨で。そこを隠すべきだと僕は思った。
「誰?」
「死神だ」
「僕は死ぬの?」
「このまま社会的に死にそーな奴に取り付くのもいるのさ」
へえ、そうなんだ。
「なんで行きたくないんだ? お前は」
「……人目が気になる」
最近休んだから、学校に入るのが怖い。
本当は何もないかもしれない。でも気になって。
貫かれるような痛みがあるんじゃないかって。
「まあ行けって」
「やだよ」
「じゃあ魔法でお前を透明にしてやろう」
「できるの?」
死神は身振り手振りで何かを行う。
「……はい、これでお前は透明」
「本当に?」
「ああ、鏡は真実を映すから気をつけろよ」
嘘つかなそうだし、頑張っていこう。
それから僕は身支度を整えて学校に向かった。
靴箱から上履きを手に取って、ため息を吐く。
やっぱ無理だ。
心の声。
「魔法を信じろ」
聞かれたのか死神はそう言う。
なんとか教室に入ると一部の人間が『おはよー』と言った。
えっ?
僕は席に着いて心から問い詰める。
挨拶してきたよ? もしかして嘘ついた?
「ちげーよお前、ブックオフを知らないのか?」
ブックオフは知ってるよ。
『あそこってみんな「いらっしゃいまほー」するけど本当は来た人なんか見てない、ドアの開く音に言った人間と声に気づいた人間の合唱祭なのさ』
でも学校だよ、ここは。
「おはよーってそこそこの声で言ってみろ、みんななんとなく言うから」
……僕は言ってみた。おはよーって。
「おはー」
「おはよー」
やまびこのように一部が返してきた。
なるほど。
先生が入ってきて、出席を取られた。
「……おお、来てたのか?」
僕を見て先生は言う。
死神、どういうこと?
「そりゃ椅子が少し動いてて鞄があったら、来てたんだなあ。ってなるだろ出席取れてよかったな」
それから授業も始まって、休み時間も過ぎていく。
魔法は本物みたいで誰も話しかけてこない。
先生も誰一人、僕を当ててこない。
給食も自分の席に置いていつものように食べて。
学校が終わった帰り道。
『おつかれ、行けたじゃないか』
これからも魔法を掛けてよ。
「いいぜ」
それからしばらく僕は毎日登校した。
テストの時、僕にも紙が回ってきたけど休んでる人にもおいてたからそんなもんか。
給食当番も割と大丈夫だった。
「しっかり行けてるじゃねえか」
そう?
僕は自分の部屋で宿題に手を付けていた。
「ここの答え、間違えてるかもしれないぞ」
おお、ほんとだ。
「そろそろ、ネタバレしないとな」
死神は僕が困った時に問題の答えをちょくちょく教えてくれるんだ。
『透明になる魔法、あれって嘘なんだ』
「えっ?」
えっ?
『透明なやつが入ってきても「おはよう」なんか言うわけないだろ』
『出席なんて取られねえだろ』
『給食なんてないだろ』
『テストも受けれるわけがない』
『給食当番なんてしたら、怪奇現象で大騒ぎだぜ?』
でも、僕に話しかけてくる人は居なかった。
『お前がそういう雰囲気を出してただけ』
そんな。騙したのか。
「ああ、そうだ。お前みたいな奴には荒療治がちょうどいい」
もう帰ってくれ、嘘つき。
「そうさせてもらおう、居るのはお前にも良くない。負ける臭いを付けちまう」
透明になっていく死神の骸骨がケタケタ笑う。
「最後に行っておく、お前って滑稽だよな」
はぁ?
「お前、騙されてる間にクラスのマドンナでもブスなゴミでもそいつを見ようと思ったか?」
「ないよな? 思ってる以上に……」
な、何が言いたいんだよ。
『他人は、他人に無関心なんだぜ?』
フッと消えていった死神の言葉。
やたらと部屋に反響した気がした。