表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/23

第9話 アルパスカ王国への要求

 アルスを王城へ送り届けたあと、俺はまたヴェロニアに会いに行った。

 教育の代価に要求した内容が気になったからだ。


 「ヴェロニア~、さっきの要求の内容教えて」


 「あれ、まだ見せてなかったっけ」


 「見てないよ」


 「ミリア~~ン、ちょっときて」


 「はーい」


 ミリアンがぱたぱたと小走りでこちらにやってきた。


 「チェスリーにあたしたちが作った文書見せるように言ったわよね」


 「ええ、チェスリーさんに渡しましたよ」


 「え?」


 あれ、俺もらったかな。

 そういえば2日前ぐらいにミリアンから紙の束を手渡されたような。


 「あ!あのときのか」


 「どういうことよ」


 「2日前にシペル帝国の孤児院にいったじゃないか」


 「そうね、様子を見に行くって出かけたわね」


 「孤児院に行ったら、子供たちが元気すぎて遊びに付き合わされたんだ」


 「へえ。元気なのはいいことじゃない」


 「子供相手にスキルを使うのも大人げないからさ。それなりに体力に自信もあったし、素のまま相手してたんだ」


 「ふんふん」


 「帰るころには疲れ果てて、戻ったらすぐ寝たじゃない?」


 「そうだったわね」


 「で、朝渡された文書はそのまま忘れてた」


 「自分のせいじゃないのよ!!」


 「面目ない」


 「も~いいから知りたいなら目を通しておきなさい」


 「はーい」


 【収納魔法】スキルの収納内に文書は放り込まれたままだった。

 文書を取り出して読んでみると、以下のようなことが記載されていた。


 要求1

  クヴァリッグ王国の主権を認めること。


 要求2

  地図に記した土地をクヴァリッグ王国の領土と認めること。

  添付された地図にアルパスカ王都南方の遥か南にあたる土地が線で囲まれていた。


 要求3

  アルパスカ王国からクヴァリッグ王国への人の移動を認めること。

  ただし、以下の条件に該当する人を優先とする。

   ・生まれつき視覚、聴覚、言語に障害があるものとその配偶者

   ・配偶者のいない成人前の子供

  その他チェスリー王国への移動を希望するものは面談を行い許可を得なければならない。



 細々した説明は他にも書いているが、要求内容はこの3つだ。

 要求というより堂々と活動するための宣言という意味合いが強い。

 認めることが難しい要求はないだろう。

 領土として指定した場所は元から誰も管理していなかった土地だ。

 人の移動は今までも特に制限されていない。

 そして移動及び移動後の住居・仕事などは全てクヴァリッグ王国が負担・責任をもつことになっている。



 ああ、この内容はアルスの返事を待つ間にみんなで話し合ったことだ。

 今度はちゃんと主権を認めてもらわないとね、と釘をさされたんだよな……。

 国民の募集は、マーガレットの目標である”身体に障害を持つものでも快適に暮らせるようにしたい”を実現するため優先条件にした。


 配偶者のいない子供は俺の希望だ。

 アルパスカ王国の孤児院は比較的恵まれているが、その他の町では困っているところが多いだろう。

 俺が育った孤児院にも声をかけてみる予定だ。



 これらの要求を認めてもらうことだけなので、アルパスカ王国に負担はない。

 確かにアルスが言っていたように「こちらの損が何もないようにしか思えない」の理解であっている。



 クラン『百錬自得』のときから儲けなど一切無視でやってきたから、国の方針も同じく儲けなど考えていない。

 我が国の主要メンバーを知らない人から見れば荒唐無稽な話に思えるだろう。

 だが、主要メンバーの力があれば実現できることなのだ。


 移動は【転移魔法】スキルを使えるメンバーがいるので一瞬で終わる。

 荷物はミリアンの【収納魔法】があればいくらでも持っていけるしな。

 住居はアリステラの【能工巧匠】スキルを使えばあっという間に建設できる。

 食料はミリアンとアリステラが魔物の森から運んできた土壌があれば、作物が異常に速く大きく育ち余るほど量産できる。


 身体に障害があるものを集めてどうするつもりかと思われるかもしれない。

 だがマーガレットがいれば意思疎通が容易になり、快適な日常を過ごすことができるようになる。

 今までできなかった分、仕事や趣味に熱心に取り組んでくれることを期待している。


 孤児の世話役はイオレンダにお願いしようかな。

 イオレンダは先日俺が訪れたシペル帝国孤児院の院長だ。

 【活殺自在】という厄介なレアスキル持ちで、人を操り自分の思い通りに行動させることができる。


 シペル帝国は長い間、ミクトラという冒険者の町と戦争状態だった。

 その戦争を裏から操り継続させようとしていたのがイオレンダだ。

 俺たちの説得により戦争継続をやめさせ、今は罪滅ぼしとして戦災孤児の世話を任せている。



 こんな感じにアルパスカ王国に頼ることなく実現できるからこその要求となるわけだ。



 「うん、これならすぐ認めてくれそうだね」


 「私も認められると思ってる」


 「でもさ、無条件に認めても損しない内容だよね。俺が教育しなくても大丈夫だったんじゃないの?」


 「それは無理ね。損することはなくても、何の見返りもなしに検討したり許可したりなんてしないでしょ」


 「あ、それもそうか」


 「それに変に勘ぐられると却下されちゃうでしょうね」


 「へえ、例えば?」


 「表にいくら綺麗なことを書いても裏で何か企んでるんじゃないのか、とかね」


 「そんなことするわけないじゃん」


 「あんたを知ってる人ならそう思うでしょうね。だからアルスは特に疑問を持たなかった。あんただって知らない人がこんな要求したら怪しいと思うでしょ?」


 「あーそれは思うかも」


 「犯罪奴隷の事件を覚えてるでしょ。表向きは犯罪奴隷の管理と見せてダンジョン探索の人柱に使ってたわ」


 「……ああ、そうだったな」


 「だからこそチェスリー自身と教育の力を見せる必要があったの。チェスリーを知れば疑いは小さくなるし、騎士団の実力が上がることと引き換えなら認めようかってなるわけよ」


 「なるほどな」


 「それでも反対意見はあるだろうけど、アルスさんが事前にチェスリーを知っていたのは大きいわね」


 「そうだな。うっかり秘密を漏らすことはあっても怪しいことはないだろうから」


 「そのうっかり秘密を漏らすのもどうかと思うけど、まあそれも含めて人柄よね」


 「……反省しとく」


 「ふふん、まあ秘密に怯えてた頃に比べれば今のほうがいいわよ」


 「ああ、自分でもそう思う」



 とにかく俺たちの要求は伝えた。

 アルパスカ王国でどういう結論が出るかは待つしかない。

 もし許可されないとなれば……どうなるんだろ。


 「ヴェロニア、もし要求が却下されたらどうなるんだ?」


 「実はあんまり影響ないのよね。今までもクランで勝手にやってたでしょ」


 「そうなんだけど、国としてはどうなの」


 「仲良くしたいところだけど最悪は敵対することになるわ。でも目標達成を諦めるわけにはいかないし悪役になってもらおうかしら」


 「俺たちが正義……なんか柄じゃないなあ」


 「まあ大丈夫よ。要求は通ると思うし」


 「確かに結論が出る前にあれこれ考えても無駄だな。返事を待つことにしよう」


 「へっへっ、それじゃああっしに付き合ってもらう時間がありやすね」


 「うわ!ジェロビン驚かすなよ」


 またしてもジェロビンがさりげなく会話に参加してきた。

 俺を驚かすのを趣味にするのはやめてほしい。


 「そうね、あたしの話はここまで。ジェロビン後はよろしく~」


 「へい、旦那を預かりやす」



 付き合うのはいいけど何をすればいいんだろ。

 ジェロビンから俺に頼むことってあったっけ。


 「チェスリーの旦那、ここでやす」


 「ここは使ってなかった建物だな。何かに使い始めたのか?」


 「へい。ちょうどいい広さがありやしたんで、諜報候補の仮住まいに使ってやす」


 「諜報候補?ああ、組織を作りたいって言ってたな。俺を呼んだのは教育のためか?」


 「その通りでやす。とりあえず5人お願いしやす」


 「ああ、それにしてもよく5人も候補が見つかったな。秘密主義のお前が募集なんてしないだろうに」


 「へっへっ、なあに勝手に面接に来てくれやしたんでさ。なかなか見どころありやすぜ」


 「は?勝手に面接?」


 「まあまあ、いいじゃありやせんか。既に基本はできてやすんで、【暗中飛躍】スキルの基礎を教育してくだせえ」


 「へえ、いきなりレアスキル教育かい。だが余程の信頼がないと危険だぞ」


 【暗中飛躍】はまさに諜報向きのレアスキルだ。

 このスキルを使った気配遮断は俺の索敵に全くかからなくなる。

 ジェロビンとグレイスが使う分には頼もしいが、敵に使われると脅威だ。


 「大丈夫でやすよ。きっちりアメリア嬢ちゃんの確認もとってやす」


 「ふーん、ならいいか」


 建物の中に入ると5人の男が直立不動で待機していた。

 年齢はよくわからないが、割と若い人が多いかな。


 「これがチェスリーの旦那でやす。みんな挨拶するでやす」


 「「「「「チェスリー様!よろしくお願いします!!」」」」」


 「おお……よし、始めよう!」


 よくわからないが気合いは十分伝わってきた。

 俺も全力の教育で応えることにしよう。


 【暗中飛躍】はレアスキルなので全員が修得できるかどうかはわからない。

 しかし、基礎の魔力制御が修得できれば応用範囲は広い。

 【暗中飛躍】スキルを魔力視で見ると、実に繊細な制御がされていることがわかった。

 攻撃には向かないが、細かな素早い動作が可能になり、気配遮断や音を消した移動などができるようになる。


 それにしてもみんな筋がいいな。

 まるで今までも諜報をやっていたかのような熟練さがあり、魔力補助なしでもいい動きができている。


 「今日はここまでだな。教えた魔力の流れを自分で調整できるよう練習してくれ」


 「「「「「ありがとうございました!!」」」」」


 うむ、いい返事だ。

 充実した教育ができたことを満足し建物を後にした。


 「ジェロビン、みんな筋がいいし本当によく見つけたな」


 「へっへっ、そこは秘密にしときやしょ。ありがとうございやした」


 「ああ、いい組織を作ってくれ」


 「お任せでやすよ」


 秘密ね。

 この場合は無理に知らない方がいいのだろう。

 必要になれば教えてくれるし、ジェロビンに任せることにしよう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読み終わりに↓ををクリック!いただけると嬉しいです。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ