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第5話 アルスとの交渉

 王都にあるクラン『百錬自得』の拠点へアルパスカ国王様を連れ出した。

 屋敷に案内すると、以前ここに住んでいたことがあるというから驚きだ。


 「アルスはこの屋敷で何をしていたんだ?」


 「子供のころ1年ぐらい住んでいた。マーガレットも一緒にな」


 「へえ。その頃から知り合いだったのか」


 「親父と大ゲンカしたことがあってな。そのときプリエルサに世話になったんだ。しばらく顔も見たくなかったし離れて暮らす場所を提供してもらったのさ」


 「父親って当時の国王様だろ。よくケンカなんてできるな」


 「身分なんて関係ない。親父は親父だ。今思えば幼稚な理由で反抗した俺が悪いんだけどな」


 「幼稚ね。どんな理由だったか聞いてもいいかい?」


 「母親が病で亡くなってな。平気な顔で仕事をしてる父親が許せなかったんだ。俺は辛くて仕方がなかったがな」


 「……母親を亡くしていたのか」


 「この屋敷でいろいろ教わっているうちに国王という仕事の大変さがわかってきた。親父は平気なわけではなく表に出さなかっただけだってな」


 表に出さないか……。

 国王としていかに立派だとしても、母親を失った子供にとっては父親にかまってほしいだろう。


 俺は国王として前アルパスカ国王と同じような振る舞いができるだろうか。

 ……む、無理っぽい。

 想像しただけで泣きそうになってきた。



 「母親の病は最近になって治療方法が見つかったようだ。もっと早く見つかっていればよかったがな」


 「え……病名は何だったんだ?」


 「魔班病だ」


 「あ……そうだったのか」


 「どうかしたか?」


 「いや、何でもない」



 魔班病の治療方法を見つけたのはヴェロニアだ。


 ヘスポカという町からリンジャックら4人の冒険者パーティーがマクナルへやってきた。

 その冒険者パーティーの1人マルコラスがミリアンの兄だった。

 助っ人として一緒にダンジョンを攻略したのち、ミリアンが治療方法のわからない病にかかっていることを知った。

 その病こそ魔班病だったのだ。


 ヴェロニアに相談したところ、俺なら治療ができるかもしれないと言われた。

 半信半疑だったが、ヴェロニアが開発した魔力が視えるようになる魔道具と俺の魔力操作を教える技術で魔班病を治療することができた。


 現在は教会に治療方法を伝授しており、魔班病の治療体制は整っている。


 確かにもっと早く治療方法が見つかっていれば、アルスの母親は助かっただろう。

 しかし、病の治療はどうしても時の運が絡む。

 今なら治る病気が一昔前は不治の病というのは、魔班病に限らずよくあることだ。


 だが……できることなら助けてあげたかったと思う。



 「悪い。チェスリーの報酬について話し合いに来たんだよな。余計な話ばかりしてしまった」


 「いや、教えてくれてありがとう。続きは屋敷の中で話そう」



 俺はアルスを屋敷内に案内した。

 さてケイトさんのおもてなしをアルスはどう思うかな。


 「ほう、外見は古くなっていたが中は以前より綺麗だ」


 「専属のメイドさんが優秀なんだ。いつもよくしてもらってるよ」


 「ほほう、なかなかいい人材がいるようだな」


 「ああ、うちの自慢なんだ」


 いつもクラン会議をしている部屋へアルスと一緒に入る。

 ヴェロニアとマーガレットが席について待っていた。

 扉の横にはケイトさんが控えていた。


 ケイトさんはアルスを席に案内したのち、すぐに部屋から出て行った。


 「そちらのかたは?」


 「ヴェロニアと申します。初めましてアルパスカ国王様」


 「アルスでいいぞ。話しづらいだろ」


 「では遠慮なく。いらっしゃいませ、アルスさん」


 「さっそく話を聞かせてもらおう。そちらの要求は何だ?」


 ふう、ついに話すことになるんだな。

 ヴェロニアとマーガレットがついているし、気合い入れていこう。


 「俺が望む報酬はこれから作る俺たちの国を認めてほしいことだ」


 「……国だと。なぜ国を作る必要がある?」


 「俺たちには目標が2つある。クランで活動していたが目標が大きくなりすぎてね。人集めや大陸中で活動するために国を作ろうと考えたんだ」


 「ほう、目標ね。それは何だ?」


 「1つは魔物被害防止、もう1つは魔力供給維持だ」


 「む!?魔物被害防止はいいとして、魔力供給維持とは何のことだ?」


 「俺たちはダンジョンや魔物が生まれる原因を探していた。そしてついに原因にたどり着いたんだ」


 「何だと!!お、教えてくれるのか」


 「ああ、そのつもりだ」


 俺はアルスに魔物の森にある謎の建物のことを説明した。

 謎の金属で作られた建物、建物の周りに埋められた円柱によるマナ収集、建物地下に設置された結晶と土台に隠された高度な仕掛け。

 これらが魔力を発生させる元となっており、ダンジョンや魔物が生まれる。

 そして人にとっても有用な魔力が大陸中に供給されている。


 話を聞いたアルスは頭を抱えていた。


 「まさか魔力が自然のものではなかったとは……。もし突然魔力がなくなったらと思うとぞっとする」


 「そうだろうな。俺もそう思ったよ」


 「確かに1クランで抱える目標ではない……。むしろこれは王国で対処すべき問題ではないのか?」


 「最初はそう思った。だが、アルパスカ王国で魔物の森にある建物が管理できると思うかい?」


 「ぐ……冒険者にすら敵わない騎士団では不可能か。いやそれならチェスリーの教育で騎士どもを鍛えれば」


 「まあ落ち着いてくれ。まだ話は続くから」


 「そ、そうだな。思いもよらないことだったのでな」


 そこへちょうどケイトさんがお茶とお菓子を運んできた。

 お茶はいつもの味に鎮静効果のある薬草入り。

 お菓子は甘めに仕上げた焼き菓子だ。

 この場にふさわしいおもてなし、さすがだ。


 「この味……ケイトと言ったか。アイミという人物を知っているか?」


 「アイミは私の母でございます」


 「やはり!この味、昔この屋敷で飲んだものと同じだ。アイミは元気かい?」


 「……母は亡くなりました。私は母の後を継いでプリエルサ公爵様にお仕えしておりました」


 「そうか、アイミは素晴らしいメイドだった。子にも受け継がれているようだな」


 「何よりの誉め言葉でございます。ありがとうございます」



 アルスは落ち着いたようだな。

 話を続けることにしよう。


 「魔力は300年以上放置された状態で供給され続けてきた。すぐに止まることはないと思う」


 「うむ。しかし、いつまで続くかはわからないということか」


 「ああ、謎の建物を全て理解しないとダメだ。壊れることがないとも限らないしな」


 「……何が必要だ?金か?人か?」


 「人だな。ただし、信頼できない人には任せられない」


 必要な人材の条件は悪意がなく信頼できることだ。

 仕掛けなどに詳しいことより重要と言える。

 下手な人物に秘密を知られると、大陸中に迷惑がかかる恐れがある。

 今までクランメンバーで守ってきた秘密だ。

 簡単に漏れるようなことがあっては困るからな。


 「了解した。発見してくれたのがチェスリーでよかったと思ってる」


 「また随分と信頼してくれるんだな」


 「これでも国王なんでな。ある程度人を見る目はあるつもりだ。特にチェスリーは念入りに確かめさせてもらったからね」


 「……飲みに誘われたよな。俺なんかまずいこと言った?」


 「ん、いや大したことは聞いてないし。お前の人となりがわかったということだ」


 「そうか。ならよかったよ」


 ヴェロニアとマーガレットがジト目で見ているが気にしないようにしよう。


 「王国で人材を募集する。費用は俺がだすことにしよう」


 「助かる。もう1つの魔物被害防止のほうは騎士団の件が片付いてからにする。騎士団の強化は魔物被害防止につながるしな」


 「わかった。教育よろしく頼む」


 「あ、それで国づくりを認めることなんだけど、どうかな?」


 「ん?ああ、認めればいいならそうしよう」


 「え、いいの?」


 「いいよ」


 あれえ、かなり軽い返事だな。

 何か言われるんじゃないかと思ったけどあっさり認められたし。

 これでいいのかとヴェロニアを見てみたが特に反応はない。


 ここで交渉は終わりとなり、アルスを王城の部屋まで送ってきた。

 うーん、何か引っかかる。


 クラン拠点に戻ると、ヴェロニアが屋敷の前で待っていた。


 「チェスリーお帰りなさい」


 「ただいま。なあ、交渉ってあれでよかったのか?」


 「ふーん。気にかかることがあったなら、少し点数増やしてあげよっかな」


 「ええ、何それ。交渉に点数つけられてたの」


 「そうよ。会議の内容はマーガレットの【以心伝心】でみんなにも伝えてたから」


 「あー、それでヴェロニアとマーガレットはほとんどしゃべらなかったのか。みんなと話してたんだな」


 「あたり!今回は失敗してもあまり影響なさそうだったからね。アルスってほんと国王とは思えないぐらい裏表のない人だったわ」


 「あ、ひょっとしてアメリアの【慧眼無双】も使ってたの?」


 「ふふ、そうよ。壁の隠し穴からアメリアに見てもらっていたわ」


 「……いつものことだが、やっぱり俺は知らない方がいいのか」


 「そんな悲しそうな顔しないの。あれこれ考えるのは私たちの役目。あんたは変な小細工はしないで素のままが一番なのよ」


 「はあ、わかったよ。それで今回は何点だった?」


 「みんなの評価を平均すると10点満点で……」


 ――ゴクリ


 「3点ね」


 ――ガックリ


 「そんなに低いのか。どこが悪かったんだ」


 「最初と最後が評価低かったわね」


 「最初……国を認めてほしいと言ったことと、国を認めてもらったことか」


 「そう。まだ私たちの国はほとんど何もないのよ。国として認めてもらっても、何かあるわけじゃないでしょ」


 「……いや、人を集めるとかさ」


 「技術者を派遣してもらうだけならクランでもできるわ。ま、人材募集の費用があちら持ちになったから3点ついたの」


 「……はい」


 「ケイトさんのおもてなしも今回に限っては逆効果だったかもね。魔力の秘密を知ったアルスは動揺してたでしょ」


 「落ち着いて話しできたからよかったんじゃないの?」


 「相手の動揺につけこんで有利に交渉を進める手もあるのよ。あんたには向かないと思うけどね」


 「あ~それ俺にはできそうにないや」


 「今回の交渉の結果は、アルスは安く教育者を雇うことに成功、特に損することもなく魔力の秘密を知ることができましたってところかしらね」


 「あはは……そういうことになるか」


 やっぱり俺は交渉に不向きなようだ。

 例え交渉がうまくなるスキルがあったとしても、俺の性格では使いこなせそうにないな。


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