第21話 クヴァリッグ兵士新人の洗礼
一夜明け俺は魔道具の地獄から解放された。
早く完成させたいとは言ったが、ぶっ続けで作業することになるとは……。
眠気や疲れを癒すのにヒールを使ったのがまずかった。
ヒールをかけてもお腹は減るが、いいタイミングでケイトさんが夜食を出してくれる。
結局やめるタイミングを失い、驚くべき作業量が終わってしまった。
後は仕上げだけというので、俺とアリステラはようやく解放された。
「チェスリーさんのヒールで疲れはありませんけど……大変でしたね」
「休んでるところすまなかったね」
「あ、いえ。チェスリーさんのせいじゃありませんし」
「いやあ、早く調べなきゃって急かしたのは俺だから」
「そ、それならご褒美にキ、キスとか――」
「おい、チェスリー!昨日から見かけなかったがどこいってやがった!!」
アリステラと会話しているというのにレフレオンが割り込んできた。
何か約束してたっけ。
「魔道具の開発にかかりっきりだったんだよ。何か用か?」
「新入りのやつらを教育してくれ。早いとこ魔物退治させてえからな」
「ああ、そうだったな。でも魔物退治はまだ早いだろ。教育したからすぐ強くなるわけじゃないぞ」
「無謀なことはやらねえぜ。1回づつ伸びそうなスキルの教育をしてくれりゃあいいからよ」
「え、1回だけでいいの?」
「十分だ。じゃあ頼むぜ」
こうして俺はレフレオンに連れられ教育に行くことにになった。
「アリステラごめん!また後でな」
「は、はーい。……むう、もうちょっとだったのにい」
心残りだが無視していちゃついてるわけにもいかない。
きっちり仕事を終えるまでご褒美は楽しみにしておこう。
更生した8人はクヴァリッグ城の近くに倉庫として作った建物に住んでいる。
野盗のときは狭い部屋に押し込まれていたそうなので広くて快適だと喜んでいた。
何より食事の改善が大きいだろう。
牢屋から解放された直後のケイトさんの料理は相当な破壊力だった。
捕虜の身からは解放されたが、すっかりケイトさんの虜となってしまった。
さすがに毎回とはいかないが、たまにはケイトさんの料理を差し入れてあげるつもりだ。
普段は自炊してもらっているが、様々な巨大食物が食べ放題で腹いっぱい食べられる。
数日しか経過していないのに、はっきりわかるほど体つきがよくなっていた。
「よーしお前ら。国王様直々の教育だ。気合い入れろ!」
「「「「おう!」」」」
レフレオンの号令で気持ちのいい返事が返ってきた。
やる気は大歓迎。
同じ教育でもやる気があるのとないのとでは成果が違うからな。
「スキルの希望を教えてくれ。適正は見させてもらうけどね」
「俺は剣術をお願いします!」
「槍を教えてください」
「短剣術が希望です」
「「「「俺は――」」」」
「お、おいおい。俺は1人なんだから順番にな」
「「「「「失礼しました!」」」」」
レフレオンが指導してくれたのだろうか。
順番にといっただけで背筋を伸ばした姿勢で一列に並んでくれた。
ならばその姿勢に応えることにしよう。
各自の適性を魔力視の眼鏡で確認しながら、魔力制御を教えていく。
やはりスキルの熟練は初級程度だなあ。
今のままでは魔物と戦うのは危険すぎる。
1回だけでもわかりやすいように、しっかり魔力を流しておこう。
「「「「「ご指導ありがとうございました!」」」」」
「うん、しっかり練習するように」
ほんとに1回づつ教えるだけでよかったのかな。
でも早く終わったから、アリステラの要望に応えに行こうっと。
◆三人称視点◆
レフレオンとマックリンはチェスリーが教育している様子を見ながら話し合っていた。
「マックリンどう見る?」
「やばいな。既に中級相当になってるのがいるぞ。特に魔法系の伸びがやばい」
「魔法は上級に近いんじゃねえか。明らかに威力が跳ね上がってやがるぜ」
「しかし『黄金の翼』で教育してたときはこんなにすぐ成果はでなかったぞ。何かあったのか?」
「俺にも理由はわからねえ。ただアルパスカ王国の騎士どもを教育してたよな?」
「あれか、王国流剣術を実践向けにしたとかいう」
「そうだぜ。推測だが以前より個人に合った教育ができるようになったのかもしれん」
「え?教えたのは剣術だろ。何で魔法まで質が上がってるんだよ」
「推測だって言ったろうが。理由はどうあれ俺もチェスリーの教育をまた受けたくなったぜ」
「……ひょっとして今なら俺に転移魔法を教えることもできるんじゃないだろうか」
「まだ転移を諦めてなかったのか。使えりゃあ便利だが下手すると激痛だけ味わって終わりだぜ?」
「それが怖いよなあ。チェスリーに好意があれば感情の昂ぶりだけで激痛はないって聞いたんだが」
「女ならそうだが男は試してねえからな。お前が試して問題ねえなら俺も試してみてえぜ」
「俺を実験台にするつもりか!?勘弁してくれよ」
「がっはっは。まあその話は今度だぜ。やつらを鍛える場所だが、例のところでいいんじゃねえか?」
「あの威力が出せるなら十分通用するだろうが、いきなり大丈夫か?」
「なあに付け焼刃だが基本の連携は教えてある。経験を積むには厳しめぐらいでいいぜ」
「……上級クランのメンバーでもキツイ場所なんだが」
「でもよ、試してみたくねえか?」
「そりゃあ試してみたいけどよ」
「なら決まりだ。いざとなりゃ助けてやればいいだろうぜ」
「それもそうだな」
レフレオンとマックリンの話し合いは終わった。
チェスリーの教育を受け実力は向上した彼らだが厳しい試練が待ち受けているようだ。
チェスリーが教育を終えて去ったのち、レフレオンはさっそく次の修行を開始するべく彼らに話しかけた。
「国王様の教育はどうだ」
「す、凄いです……。自分でも信じられないほど魔力の動きがわかるようになりました」
「今までこんなに下手くそなスキルの使い方をしていたとは……」
「見てくださいこの剣の振り!風を切り裂く音が聞こえます!」
「……驚くほど体が自然と動きます」
「自覚できてるなら十分だ。よっしゃ次は魔物の森で魔物退治といくぜ!」
「「「「「はい!!」」」」」
「メアリ、転移を頼むぜ」
「了解しました」
どこからともなくメアリが現れ、転移魔法を発動した。
転移した先は魔物の森にある元クヴァリッグという町があった場所の近くだ。
元クヴァリッグは魔物の森の中央部にあり、危険なため熟練の冒険者でもほとんど足を踏み入れない。
周辺部は弱い魔物しかいないので冒険者の修行に使われているが奥に進むほど危険が増す。
強い魔物は魔力が濃い中央部より先を縄張りとするためだ。
そのため弱い魔物は周辺部に追いやられている。
「レフレオンさん、ここはどこですか?やけに森林が濃いような気が……」
「魔物の森の中央部だ」
「「「「「げえええ!!」」」」」
元冒険者なら魔物の森を進むほど脅威が増すことを知っている。
てっきり周辺部で修行するものと思っていたのに、いきなりの中央部にかなり驚いたようだ。
当然の反応と言えるだろう。
「おい、索敵担当は抜かるなよ!どこに何がいるかわかんねえぞ」
「は、はい!!」
既に強力な魔物が近くにいてもおかしくない。
来てしまった以上、腹を括って行動するしかない。
生活の改善に加え、チェスリーの教育で自分たちはまだまだ強くなれると実感したばかりだ。
何としても生き延びる決意で行動を開始した。
「左前方に魔物の反応あり!」
「よっし、気合い入れてけ!役割を忘れるな!」
「「「「「は、はい!」」」」」
現れた魔物はアースベア。
強靭な足で動きは図体の大きさから想像できないほど速い。
素早い動きから怪力の腕と爪で攻撃してくる。
「距離を詰めるな!一瞬でやられるぞ」
「遠距離攻撃で隙をつくれ!魔法担当は足を止めろ!」
「剣と槍で波状攻撃をしかけるぞ。怯んだところを見逃すな!」
彼らは本格的な魔物との戦闘は初めてだ。
だが彼らは臆することなく魔物に立ち向かっていく。
襲撃失敗で味わった絶望、そしてケイトさんの料理で文字通り味わった天国。
余りに大きな精神の揺さぶりを経て、彼らの精神は大きく成長していたのだ。
その様子を見たレフレオンは満足げにマックリンに話しかけた。
「見ろよマックリン。やつらいっぱしの連携ができてやがるぜ」
「おお、まだ拙いが形はできてるな。数日前のへっぴり腰が信じられないぐらいだ」
「俺は何人も冒険者の面倒を見てきたが……ここまで急激な成長は見たことがないぜ。チェスリーの教育もすげえが、精神的な成長が半端ねえ」
「ふーむ、地獄から天国か。荒療治だが最初にガツンとやるのはいいかもな」
「まともに来るやつに同じ手は使えねえが、魔物の森中央部に放り出すってのは衝撃としてはよさそうだぜ」
「賛成だ。クヴァリッグで魔物退治をやりたいやつの修行はここで決まりだな」
こうしてクヴァリッグの兵士希望者は魔物の森中央部で修行することが決定した。
熟練の冒険者ですら恐れる場所なので、確かに精神的に追い詰めることはできそうだ。
だがやらされる側はたまったものではないだろう。
「レフレオンさん、2匹ほど新手が迫ってます。1匹なら彼らで倒せそうですが、増援は危険そうです」
レフレオンとマックリンの話が1段落ついたところでメアリが声をかけた。
新人たちは徐々にアースベアを追い詰めていたが、1匹に集中しすぎて新たに近寄る気配に気づいていないようだ。
「索敵担当のやろう。何で攻撃の支援なんてしてやがるんだ。あとで説教だぜ」
「アースベアはそれなりに強敵だから余裕がないんだろ」
「ちっしょうがねえな。次は助けねえからな」
戦闘中に2度響いた鈍く重い轟音に、索敵担当は慌てて敵の気配を探したが何も見つからなかった。
その後は注意深く索敵に徹したようだ。
そして新人たちは見事にアースベアの盗伐に成功した。
今までなら到底成し得なかった成果に彼らは歓喜した。
しかし、次のレフレオンの一言は――
「ご苦労!あと2日頑張ろうぜ!」
「「「「「げえええええ!!」」」」」
新人たちの修行はまだ始まったばかりである。




