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第2話 初国会(後編)

 第1回の国会は何も知らない俺に講義するような感じで進行している。

 昨日の今日、国王になったばかりなので仕方のないところはあるが、ほんとこんな国王でいいのかねえ。

 せめて教えられた内容はしっかり理解するようにしよう。



 俺の「他に何かあれば」という質問に答えたのはマーガレットだった。


 「次は国の方針を決めたいですわ」


 「方針か……国民のための政策を決めるってことかな?」


 「それも大事なことですが、現在はクラン『百錬自得』のメンバーしかいない国ですわ。国民を集めるためにも、対外的に国だと認めてもらう必要がありますわ」


 「あ、そうか。アルパスカ王国やシペル帝国から勝手に集めたらだめだよな」


 「ええ。いま決めるのは国で実行することですわ」


 「あ、ということは国づくりをするきっかけになった目標とクラン目標が実行することになるのかな」


 「その通りですわ!」


 「うん、それならわかる」


 国づくりのきっかけになった目標は、マーガレットの障害者のための環境づくり、アリステラの巨大建造物の土地確保、メアリの俺が教育を気兼ねなくできるようにする権力だ。

 国づくりとは別に、クラン『百錬自得』の目標として魔物被害防止と魔力供給維持の2つがある。


 クラン目標として決めたことだが、大陸に暮らす人々全員に関わることでもある。

 1クランで実行する規模としては大きすぎるので国で実行したほうがいいだろう。



 『百錬自得』のクランメンバーは魔物退治やダンジョン攻略に有用なスキルを持っている。

 例え魔物最強と言われるドラゴンが相手であろうと対処できる自信がある。

 だが大陸全ての魔物の対処は少人数では無理がある。

 魔物は一度殲滅したとしても、新たに発生するからだ。


 魔物が発生する原因は、魔物の森と呼ばれる広大な森の奥地にあることがわかった。

 そこにヴェロニアの先祖にあたる人物が建造した建物があり、地下に結晶が設置されている。

 この結晶から供給される魔力が、ダンジョン核を生成し魔物を発生させるのだ。


 結晶を封印してしまえば、ダンジョンや魔物が新たに発生することはなくなる。

 さらに魔力供給が止まれば、魔力をエネルギーとする魔物は全滅し目標を達成することができただろう。

 しかし人も魔力の恩恵を受けているのだ。

 魔法はもちろん、武術や特殊スキルなど、身体能力を超えた能力は全て魔力がなければ使えない。

 既に当たり前になっている魔法やスキルが使えなくなれば、魔物被害以上の混乱になるだろう。


 これが全てのダンジョンと魔物を殲滅する目標をやめた理由である。



 魔力供給維持については、今のところ300年以上放置された状態で魔力を供給し続けている。

 結晶や結晶の土台にある仕掛けを壊したりしなければ、すぐにとまることはなさそうだ。


 怖いのはとまることはなさそうというのが、推測でしかないことだ。

 魔道具に詳しいヴェロニアですら、結晶の仕掛けをまだ理解できていない。

 幸い結晶の研究に関する古文書が残されていた。

 何とか読めなかった文字の解読に成功したおかげで、ある程度のことはわかった。

 だが仕掛けを理解しても故障した場合の修理や保守をするには、仕掛けの技術力に追いつく必要がある。

 書物に残されていない問題が発生する可能性もあるしね。


 ヴェロニアに頑張ってもらうつもりだが、1人に背負わせるには重すぎる。

 魔道具クランに所属するジェラリーさんという人が高い技術力を持っており、ヴェロニアと仲がいいので協力してもらえると思う。


 「別に仲良くないわよ。口喧嘩ばっかりしてるし」


 「不意打ちで心の中を読まないでくれよ。喧嘩するほど仲がいいっていうだろ」


 「ま、そういうことにしておくわ」


 2人だけでは足りないかもしれないし、魔力は大陸全ての人々に影響することだ。

 可能な限り優秀な人材を加え、技術力の向上にあたるべきだろう。


 これらの目標を国として実行するから、国として認めろということだな。




 「チェスリーさんが理解したところで次に進みますわ」


 「あれ、本当に俺が講義を受けてるみたいなんだけど」


 「あんたずっと古文書の解読にかかりっきりだったでしょ。あたしたちだって、ただ待ってたわけじゃなく、いろいろ考えてたのよ」


 「ヴェロニアの英雄計画はボツになったけどな」


 「うるさいわね。あんたの決断次第では国王じゃなく英雄になってたんだからね」


 「どっちも決断だけでなれるようなものじゃないんだけどなあ」


 「これだけのメンバーが揃っててまだ信じられない?」


 「いや、メンバーは信頼してるけど、問題は俺だな」


 「……ほんと変わらないわねその自己評価の低さ。とにかく賽は投げられたの。自信もってやんなさい」


 「はあ」


 「返事は元気よく!」


 「はいっ!」



 「また2人の世界を作ってますわ」

 「ふふふ、いつも楽しそうです」

 「私も混ざりたいですわ」



 外野の声が騒がしくなってきたのでこの辺にしておこう。

 みんなに一言謝ってマーガレットに話を進めてもらう。



 「アルパスカ国王様からの招待は、私たちの国のことを直接伝えるまたとない機会ですわ。国王様の目的はジェロビンさんから説明お願いしますわ」


 「へい、お任せでやす」


 ジェロビンはレフレオンと同じく、俺が冒険者になりたての頃からの付き合いだ。

 冒険者としては索敵と罠解除が得意だが、本業はすっかり諜報になっている。

 元は裏の諜報組織にも属していたそうだ。

 全く知らなかったけどね……。

 組織の情報を脅しに使う手口が許せず、貴族と手を組んで解体させたらしい。

 仲間にすると頼れるやつだが、敵にまわすと俺は生き延びられる気がしない。



 「国王の目的は旦那の教育を利用した王国騎士の強化でやす」


 「騎士の強化?」


 「へい。旦那の教育で並みの冒険者がたちまち実力者になりやしたからね。騎士団の実力差がさらについたといってもいいでやす」


 「あ……間接的には俺のせいか」


 「へへ、旦那は常に危険の伴う冒険者の生存率をあげただけでやす。気に病む必要は全くないでやすぜ」


 「そうだけどさ。そのせいでますます俺に執着してきたわけだろ?」


 「そうでやすね。でも魔力供給の秘密がわかりやしたし、旦那の教育がなくとも魔力の濃いダンジョンに潜って鍛える冒険者のほうが強くなるわけでやすよ」


 「まあそうだろうな」


 「旦那も関わったボルド誘拐事件を覚えてやすか?」


 「ああ」


 忘れるわけがない。

 ボルドの名は俺の心のブラックリストに深く刻み込んであるしな。


 「事件の調査はクラン『暁の刃』に依頼されたでやすが、これが特別なことではないでやす」


 「ほう、というと?」


 「貴族は既に騎士団に頼らず、冒険者クランに出資して厄介事を依頼してるってことでやす」


 「……まあ、そうなるな。実力は明らかに冒険者クランのほうが上だ」


 「状況を打開するための旦那招待でやすね。これは――」


 「目立つことは隠せないってやつだろ」


 「へっへっ1本とられやしたね。旦那も学習していなさる」


 招待の理由はほぼ推測通りだな。

 騎士の教育は別に嫌なことではないが、俺には他にやるべきことがある。

 王命に逆らうことは決定だ。


 「今は騎士の教育をしている余裕がない。要求は断ることになるぞ」


 「へい、そこで冒険者ではなく国の代表、つまり国王として交渉してもらいやす」


 「おう……そうなるのか」


 「なあに、スキルの練習と同じでやす。大事なのは実践で学習することでやす」


 「くうっ、上手いこと言いやがって。反論出来ねえ」


 一本とったつもりですぐ返される。

 やっぱりジェロビンに勝てる気がしないや。



 「あと1ついっておきやす。表の目標にはありやせんが、諜報機関を作りやすからね」


 「諜報は任せるよ。情報収集は重要だからな」


 「いえいえ、旦那の協力は必須ですぜ。構成員の教育よろしくたのみやす」


 「……了解した。人選するときはアメリアに確認してくれよ」


 「当然でやす。裏取りの手間が省けるのは大きいでやすからね」



 ともかくやるべきことはわかった。

 これで終わりかなと思っていたら、まだ決めたいことが残っていたようだ。



 「最後に最も大事なことを決めますわ」


 「ほう、何かな」


 「国の名前ですわ!」


 「あ、それ俺も気になってたんだ。誰かいい名前をつけてくれないかな」


 「チェスリーさん、やはり国王が決めるべきではないでしょうか」

 「わ、わたしもそう思うかもです」


 この発言はグレイスとアメリアだ。

 グレイスは【暗中飛躍】というレアスキル持ちで、ジェロビンと共に諜報をしている。

 【察知】という索敵スキルがあるが、気配を消したグレイスは察知することができない。

 この能力だけでも諜報に適しているが、他にもいろいろな能力が隠されているようだ。


 アメリアは【慧眼無双】というレアスキル持ちで、善悪を見抜く眼力が優れている。

 人選するときにアメリアに確認してもらうのは、このレアスキルがあるからだ。

 語り口調やちょっとした仕草などから悪意や真偽を見抜くという、ある意味恐ろしい能力だ。

 アメリアの前で迂闊に悪だくみはできないだろう。


 「あんたはアメリアじゃなくてもわかるけどね」


 「だから心を読むんじゃねえよ」


 「勝手に決めていいなら、スリーチェ王国でもいいのか?」


 「マックリン、その名前は俺のトラウマなので忘れていただきたい」


 俺はマックリンのレアスキルを修得する目的で『黄金の翼』に潜入した。

 目的は達成したが、その後も教育担当として引き留められ、なかなかやめることができなかった。

 そこでクラン資金の不正流用をでっちあげ、追放されるように仕向けたことがある。

 その架空の不正流用先としてスリーチェ商会という名前をつけたのだ。

 後から周りにはバレバレだったことがわかり、名前が安易過ぎだと散々笑われたものだ。


 「なら決めてくれ。国王としての初仕事だ」


 「わかったよ。そうだな……」


 名付けは得意じゃないんだよな。

 何か適当に思い当たる名前は……いや、あった。

 俺が国名にすべき名前はこれしかないじゃないか。


 「クヴァリッグ王国にしよう」


 「クヴァリッグ……チェスリーさんの故郷ですね」


 「ミリアン覚えていてくれたんだな。魔物に滅ぼされ既に使われていない名前だ」


 俺の原点はクヴァリッグだ。

 全てはクヴァリッグが魔物に滅ぼされたことから始まった。

 小さいかもしれないが、国名として復活させることで1つ取り戻せたような気がする。


 「異議なしよ。満場一致で国名はクヴァリッグに決定ね!これにて第1回の国会終わり!」


 「何でヴェロニアが締めてんだよ。ここは俺が締めるところだろ」


 「あ、つい癖で。次はちゃんと譲るから」


 「へいへい」


 何とも締まらない感じだが、国名をクヴァリッグにしたことで俺の覚悟はできた。

 故郷の名に恥じないよう、国づくりに全力を尽くすことを誓う。


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