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第18話 神の力を見せつけろ

 ◆三人称視点◆


 チェスリーから襲撃者たちの後始末を申し出たジェロビン。

 チェスリーには単に野盗と伝えたが、実態はオリビス公爵が元締めの1組織である。

 グレイスはふと疑問に思い聞いてみることにした。


 「ジェロビンさん、チェスリーさんにオリビス公爵のことを伝えなかったのはなぜですか?」


 「後で伝えやすよ。理由は2つでやすね。襲撃の対処に集中してほしかったのと驚きの贈り物をしたかったってところでやす」


 「1つめはわかりますが、贈り物とは?」


 「へっへっ、アルパスカ国王の悩み事を1つ減らしてあげるんでやす」


 「……なるほど。エセルマーに続いて王国の膿をしぼりだそうと」


 「そうでやす。オリビスを潰せば王国はより平和になるでやしょう」


 「でもどうするんですか?オリビス公爵と襲撃者の繋がりはごまかされたらお終いです。明確な証拠なんてないですよ」


 「なあに神の力ってやつを借りようと思ってやす」


 「え~、チェスリーさん失敗してたじゃないですか。魔力封じがばれて結局8人しか合格しなかったし」


 「へっへっ、ばれようがばれまいが一緒でやす。素直にすぐ改心するやつが野盗なんて続けてると思いやすかい?」


 「……思わないです」


 「それにアメリア嬢ちゃんの判定が厳しすぎでやした。嘘を見抜くスキルは大したもんでやすが、あの場で全て本心からというのは難しいでやしょう。あっしの見立てだと半分ぐらい合格でやした」


 「あ、それ俺も厳しすぎると思いました」


 「実際に旦那の教育を受ければ裏切るどころか信仰するまでありやすからねえ。まあ今からの働き次第でやす」


 「働き……彼らに何かさせるのですか?」


 「取引でやす。首輪を外す代わりにオリビスに神の使いにやられたと報告させるでやすよ」


 「え、首輪外しちゃうんですか。それに神の使いは嘘と思われてますよね……」


 「へっへっ、神の力を思い知るのはここからでやす」


 「は、はあ」



 ジェロビンは気絶させていた襲撃者たちを全員叩き起こした。

 そして魔力封じの首輪を外す代わりに2つ報告することを命じた。

 襲撃は神の使いのせいで失敗したこと。

 オリビス公爵が悪事を国王に自白しなければ関係者全員のスキルを封印すること。


 それで首輪が外されるならと襲撃者たちは了承した。

 転移使いのスキルは封印しなかったので、自分たちで王都へ戻っていくだろう。



 「ジェロビンさん、あいつらちゃんと従いますかね」


 「へっへっ、従うようにもう一仕事でやす。嬢ちゃんたち準備はできてやすか?」


 「「「はい!」」」


 返事をしたのはメアリとアリステラ、マーガレットの3人だ。

 チェスリーに内緒でジェロビンが手伝いを依頼していたようだ。


 「あの~俺は何するか聞いてないんですけど」


 「グレイスはまだ顔にでやすいので秘密にしてやした」


 「……チェスリーさんの気持ちが少しわかったような」


 「へっへっ、修行あるのみ。グレイスは見学でやすよ」


 「は、はい」


 「マーガレット嬢ちゃん、やつらはどうしてやすか?」


 「あと1回転移すれば全員王都に戻りますわ。王都の南東あたりに集まってるようですわね」


 「それじゃあっしたちも行きやすぜ」


 メアリの転移魔法で一度王都のクラン拠点に戻る。

 そこから飛行魔法で上昇し、マーガレットが指し示す場所に視認転移で移動する。


 そこには大きめの建物があり、中の様子を覗き見ると襲撃者たちが首輪をなんとかしようと奮闘しているところだった。


 「あ~ああ、危ないなあ。剣で首輪を切ろうしてますよ。下手すると首切っちゃいます」


 「スキルが使えないから道具に頼るしかないでやしょう。さあ、メアリちゃん、アリステラちゃんよろしくでやす」


 「了解です」


 2人は気配遮断のローブに魔力を通したのち、メアリの視認転移で転移使いの背後に移動した。

 瞬く間にメアリが魔力封じの首輪を巻き付けアリステラが接合する。

 再び視認転移で戻って完了だ。


 {みなさん、無駄なことはおやめなさいな。首輪を切断することはできませんわ}


 マーガレットが【以心伝心】で襲撃者たちに話しかける。

 王都の自分たちの拠点に戻ってきたのに、再び頭に響く声に襲撃者たちは動揺を隠せない。


 「うわああ!またあの声があああ!」

 「ま、マジかよ。転移で移動したんだぞ……」

 「か、神の使いって本当なのか!?」


 {お静かになさい。転移を使われていた方のスキルも封じさせていただきました。封印を解除したければ伝えた通り行動することをお勧めしますわ」


 「あ?ええええ!?いつの間にか首輪が……す、スキルが使えない!?」


 転移使いが叫ぶと襲撃者たちは一様に顔が青ざめていった。

 もしかすると神の使いは本当のことではないかと思い始めたのだ。


 彼らも元冒険者である。

 レアスキルに様々な効果があると知っており、自分たちが捕らえられたのもそのせいだと想定していた。

 気配さえ感じず捕えられたことや頭に響く声に驚きはしたが屈服することはなかった。


 しかし、今は自分たちの拠点に転移で移動してきたばかりだ。

 相手も転移を使えば追いつけるかもしれないが、転移には転移陣が必要なはずだ。

 転移先が知られていたのか、自分たちのいる場所がわかるのか。

 どちらにしても転移ですら逃げられなければ、逃げる術はないということだ。

 そして転移使いの首に巻き付けられた首輪。

 またも気配すら感じることもできず起こった出来事である。


 レアスキルは滅多にいないからレアなのである。

 しかもレアスキルは効果がわからなければ使えないため神の試練とも呼ばれている。

 そのようなレアスキルを使いこなすものが少なくとも複数人いるのだ。

 これはスキル神メタトロン様の使いと言っても過言ではないのではと。



 「わ、わかった。言うとおりにするから許してくれ」


 {よろしいですわ。それでは報告のほうよろしくお願いしますね}


 「「「「「は、はい!」」」」」


 襲撃者たちは一斉に行動をはじめ、言われた通り報告を行った。

 実はジェロビンから教えてもらうまで自分たちの元締めがオリビス公爵であるとは知らなかったのだ。

 報告に行った先もオリビス公爵ではなく、依頼を仲介している貴族のところだ。

 報告を聞いた貴族は襲撃失敗を叱咤し、オリビス公爵の名が出たことに驚き、さらに神の使いなどという馬鹿げた報告に呆れた。

 しかし報告しないわけにもいかず、貴族は別の貴族の元に報告にいった。

 オリビス公爵に直接伝わるまでに、この伝言のようなやり取りは3回繰り返されることになる。

 このようにオリビス公爵が元締めとわからないようにしていたのだがジェロビンのせいで台無しである。



 そして報告を聞いたオリビス公爵は……。


 「くだらん。どうせ失敗の言い訳でも無い頭で考えたのだろう」


 「は、はい。私めもそう思いますが……いかがいたしましょう」


 「わしの名が知られては例の連絡経路も使えん。まとめて始末しろ」


 「え、いえ。その貴族の方々はなかなかそうはいかず……」


 「そこを何とかするのが貴様の仕事だろう!さっさと手配しろ!」


 「は、はいい」



 執事が退出したのち、オリビス公爵は机に拳をドンッと叩きつけた。


 「まったく……栽培場所まで全滅とは酷い損害だ。しかも王へ自白しろなど誰にものを言っとるんだ!!腹立たしい!」


 {腹立たしいのはこちらですわ。襲撃を指示したことを自白するまでスキルを封印させていただきます}


 メアリの視認転移とアリステラの加工スキルで瞬時にオリビス公爵の首に魔力封じの首輪が取り付けられた。


 「な、何事だ!?」


 {自白すれば封印は解除して差し上げますわ。ではごめんあそばせ}


 「お、おい!!貴様は何者だ」


 その声に答えるものはなく、オリビス公爵のスキルは封印されてしまった。

 オリビス公爵のスキルは【直感】である。

 【直感】を使い相手の嘘を見破ることで商売や交渉を成功させてきた。

 身の回りにいるものすら信用せず、常に【直感】スキルに頼っていたオリビス公爵はたちまち追い詰められてしまう。

 ストレスに耐えられずアルパスカ国王へ自白にいったのは2日後だった。


 オリビス公爵の自白を聞いたアルパスカ国王は頭を抱えた。

 よりによって襲撃をしかけた相手が国として認めようしようとしていたクヴァリッグ王国だ。

 公爵は貴族の中でも最高の地位であり、アルパスカ王国の責任は免れない。

 チェスリーたちの力を知るアルパスカ国王は、何とか穏便にすむよう考えなければならなくなった。

 オリビス公爵及び関連者の処遇もあり王城内は大騒ぎである。

 この騒ぎでアルパスカ国王は2日ほど徹夜する羽目になったそうだ……。

 これがチェスリーへの返答が遅れ、何故か付け加えられた賠償金などの理由である。




 時は少し戻り、報告を済ませた襲撃者たちが拠点に戻ったところである。


 {報告ご苦労様でした。約束どおりスキルの封印は解除しますわ}


 頭に声が響いても襲撃者たちは驚かない。

 もう自分たちの行動は見透かされているとあきらめたようだ。

 だが今回はジェロビンとアリステラが気配遮断を使わず姿を見せた。

 これには驚かざるをえなかった。


 「あ、あんたたちが神の使いってのは本当なのか?」


 「へっへっ、信じるかどうかは自由でやす。さ、嬢ちゃん外してやるでやすよ」


 「は~い」


 自分たちでは外せなかった首輪が、かわいい女性が触れるだけで簡単に外れていく。

 どうやっても敵わないと思い知らされる光景である。


 「な、なあ。今からでもまじめに生きると誓えばあんたたちの国に連れて行ってくれるのか?」


 「へっへっ、後日クヴァリッグ王国の国民募集があるでやす。そこで合格すればいけるでやすよ」


 「そ、そうか……俺らは恐らくいけねえだろうな」


 「ああ、始末される心配はないでやすよ」


 「え!?どうこうこと――」


 「へっへっ、ご想像にお任せしやす。お達者で」


 そう言い残すとジェロビンとアリステラは気配遮断を発動し、たちまち襲撃者たちの前から消えた。


 クヴァリッグ王国の募集に彼らが来るかどうかはわからない。

 来たとしても合格するには本心からまじめに生きると誓う必要がある。

 次は彼らにとってよりよい選択ができると期待したい。


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