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第13話 シグ3兄弟

 ◆三人称視点◆


 ジェロビンとグレイスにあっけなく捕まり、王都の外れに解放された男たちの様子を見てみよう。

 最初に目を覚ましたのは長男のシグである。

 拘束がとかれ解放されたことはわかったが、油断させておいて後をつけられるかもしれない。

 すぐに索敵スキルを使いつつ辺りを探ったが、人影も誰かが隠れていそうな反応もない。


 「まさか本当に解放されるとは……いったいどういうことだ」


 そうしているうちに後の2人も目を覚ました。

 次男のセグと末っ子のテグである。

 3人は兄弟で組んで諜報を行っているのだ。


 シグたちはマクナルの裏諜報組織に所属していた。

 長男のシグが指令役、次男のセグが先行し索敵を行い、末っ子のテグが後方警戒と伝令役である。

 息の合った連携をいかし慎重に調査を遂行する。


 ジェロビンが流した情報により諜報組織は解体されたが、脅しに関わっていないものは解放された。

 マクナルでは裏組織にいたことがばれてしまったので諜報活動はやりにくい。

 心機一転、もう一花咲かせようと王都までやってきた。


 だが土地勘のない場所で仕事を探すのは大変だ。

 諜報を駆使して情報を集め、話にのりそうな貴族や商人に話を持ち掛けてみたが上手くいかない。

 大きな不正が暴かれた直後であり、怪しい3人を雇おうというものがいなかったのだ。

 大きな不正とはエセルマー元侯爵の事件なので、間接的にはチェスリーやジェロビンのせいである。


 しかし、逆にエセルマーなら自分たちを雇ってくれるかもしれないと考えたようだ。

 エドモンダへの復讐を考えていたエセルマーはシグたちを雇い入れることにした。


 普段は王都でエドモンダ侯爵に関する情報や王都の出来事などを調べて報告する任務をこなしていた。

 それほど儲けはよくないが、安定した収入が得られることはありがたかった。

 そしてチェスリーの情報を聞いたエセルマーは、チェスリーの情報を探るよう指示をだしたのだ。

 いつもの調査と違い、成功すれば特別報酬が支払われることになっていた。

 久々の儲け話に張り切っていたが何もできず拘束されたばかりか、すんなり解放されてしまった。

 シグはやり切れない気分で、これからどうすべきか悩んでいた。


 「兄貴、俺たち解放されたのか?」


 「そのようだ。辺りを探ってみたが、監視されてる様子もねえ」


 「……これからどうするんだ。失敗しましたでおめおめ帰れないぜ」


 「別に情報を漏らしたわけじゃねえ。もう一度やってうまくいきゃあ帳消しだ」


 「もう一度!?どうやって気絶させられたのかさえわからない相手だぞ」


 「不意を突かれて後頭部に一撃食らっただけだろうが。次は三位一体で警戒していけばいい」


 「い、いや……一撃食らったかどうかもわからねえんだ。いつの間にか気絶してた」


 「後頭部に痛みが残ってただろ。俺はまだ痛みが残ってるぜ」


 「それが全くねえんだよ。意味が分からねえ」


 そこへ末っ子のテグも口をはさんだ。


 「シグ兄貴、俺も同じだ。痛みはないし、どうして気絶したのかわからない」


 「テグもか……若いのが一緒にいたな。あいつのスキルかもしれん」


 「三位一体でも通用するとは思えねえ。ここは一旦引こうぜ」


 「ばかやろう!エセルマーの旦那は甘くねえ。切られちまうかもしれねえぞ」


 「……また路頭に迷うのは嫌だ」


 「テグ、弱気になってる場合じゃねえ。やつらもすぐに俺らがくるとは思わねえだろう。さっさといくぞ」


 「待てよ兄貴。今度こそ始末されるかもしれねえんだ。何の策もなしに突っ込めねえよ」


 「ジェロビンのやろう、久しぶりに会ったが随分丸くなってやがった。……最悪のときは謝りまくって見逃してもらう」


 「……かっこわる」


 「うるせえ!」


 結局セグとテグは帰るわけにもいかないので渋々シグの言うことに従った。

 王都の地理には詳しいので、王都の外れからでもすぐ侵入先である屋敷まで戻ってこれた。

 ……まではよかったのだが。


 「はっ!?」


 侵入する屋敷の目の前までたどり着いたところで意識がなくなり、目を覚ますとまた王都の外れにいた。

 シグたちはもう何が何だかわからなくなってしまった。


 「兄貴……俺たち諜報向いてないのかなあ」


 「何言ってる。俺たちが侵入できなかった……のは何回かあるが、俺たちの連携で何とかなってきたじゃねえか」


 「でもよう、一切何もできずにこれだぜ。もう2度死んでると思うと恐ろしくてよ」


 「……俺だって怖えよ」


 「シグ兄貴、セグ兄貴……」


 3人がしょんぽりしているところへ、突然声が響いた。


 「だいぶまいってるようでやすね」


 「「「!?」」」


 ジェロビンは気配遮断を解除し、3人の前に姿を現した。

 3人からすると、いきなり目の前にジェロビンが現れたかのように見えただろう。


 「隠れ家や依頼主のところに行かず、再び侵入にきた根性はほめてやるでやす。でももう無理なことはわかったでやしょ?」


 「……ああ、降参だ。好きにしてくれ」


 「じゃあ選択をしてもらいやしょう。寝返るつもりはないでやすか?」


 「は?雇い主を裏切れというのか」


 「そうでやす。お前さんたち誰の屋敷に侵入しようとしてるか知ってるでやすよね?」


 「チェスリーとかいう教育者の屋敷だろ。エドモンダのお抱えと聞いたぜ」


 「じゃあエセルマーが何をしてエドモンダ様を恨んでるかも知ってるでやすね?」


 「……ああ。あっ!?」


 「なるほど、やっぱり雇い主はエセルマーでやしたか」


 「く、くそっ。こんな単純な誘導に……」


 「そんだけまいってたってことでやす。情報を探って何をしようとしてるかも想像できるでやしょう」


 「復讐……だろうな。だが諜報は報酬分の仕事をするだけだ」


 「だとしても復讐に加担して金を得るのは後味が悪いもんでやす。落ち目のエセルマーに義理立ててもいいことありやせんぜ」


 「……だが裏切ればもう後がねえんだ。これからどうすればいいかもわからねえ」


 「あっしに雇われるのはどうでやすか」


 「え?冗談だろ」


 「本気でやす。あっしたちの仲間になるとお得でやすよ」


 「何だよ、お得って」


 「お前さんたちを捕まえた技術が使えるようになるでやす」


 「何だと!?いやそんなことできるわけが……」


 「ここから先は本気で仲間になる気があるかどうか確かめてからでやす」


 「う、うむう……」


 ジェロビンの言葉を聞いたシグとテグは黙っていられなくなった。

 長年修練してきた諜報の技術が全く通じないほど優れた技術。

 仲間になればその技術を使えるようになる。

 ぼろぼろに打ち砕かれた誇りが取り戻せるかもしれないのだ。


 「あ、兄貴!!俺は裏切るぜ!このままじゃ終われねえんだ!」


 「シグ兄貴、今のままではもう諜報はできない。他に選ぶ道なんてないんだ」


 「セグ……テグ……」


 「へっへっ、どうしやすか」


 「……わかった。話を聞かせてくれ」


 3人はジェロビンの誘いにのり、またクラン拠点に戻ることになった。

 2度の門前払いのあと、初めて敷地内に入れたことになる。


 「はあ……まさかこうして堂々と入ることになるとは」

 「あの苦労は何だったのか……いや、苦労する前に放り出されたのか」

 「俺少し感動してる……」



 ジェロビンは3人を屋敷内の小さな部屋に案内した。

 しばらくそこで待っていると、どこからともなくいい匂いが漂ってきた。


 「あ、兄貴。すっげえいい匂いがしねえか」

 「お、おお。よだれがとまんねえ」

 「俺こんな美味そうな匂い嗅いだことない」


 扉が開くとさらに濃厚な匂いが充満した。

 ケイトさんが次々に料理を並べ、シグたちが見たこともない豪華な料理が並べられた。

 シグたちは思わず喉を鳴らして唾液を飲み込んだ。


 「遠慮せずに食べるでやす。落ち着いたところで面接しやしょう」


 「ど、毒なんて入ってねえよな」

 「お、俺毒が入っててもかまわねえ。もう我慢できん」

 「俺もう食べてる」


 シグたちは一心不乱に料理をむさぼり、あっという間に料理が消えていった。

 食べ終えるといかにも満足した顔で腹をなでていた。


 「さあ、はじめやしょ。まずは――」


 ジェロビンはシグたちが本心から従う気になっているか質問することで確かめていく。

 その様子は隣の部屋からこっそりアメリアが覗いている。

 アメリアの【慧眼無双】で会話や仕草から嘘をついているかどうかを見極めるためだ。

 もし嘘をついている場合は、マーガレットを経由して【以心伝心】でジェロビンに伝えられる。


 ……


 「こんなところでやすね。合格でやす」


 「これで諜報の技を教えてくれるのか!」


 「そうでやす。国王直々に教育してくれるでやす」


 「こ、こ、国王!!??」


 「へっへっ、当人は気にしないと思いやすが、敬った方がいいでやすよ」


 「当然だ!一生仕えられるよう頑張るぜ!」


 2度も侵入に失敗し、精神的にどん底だった状態から希望を与えられ、さらにケイトさんの料理で天にも昇る気分にまで押し上げられた。

 既にエセルマーのことなど頭になく、これからの希望で埋め尽くされているだろう。

 シグたち3兄弟をメンバーに加え、ジェロビンの諜報組織づくりは一歩前進した。



 面接を終えた後、グレイスはジェロビンを呼び止めた。

 相談したいことがあるというので、屋敷内にある隠し部屋で話すことにしたようだ。


 「ジェロビンさん、いきなりチェスリーさんに教育を頼むなんて大丈夫なんでしょうか?」


 「大丈夫でやしょ。アメリア嬢ちゃんの確認も済んだし裏切る心配はないでやす」


 「今は大丈夫かもしれませんが、人の心は変わるものです。今回はエセルマーを裏切ったわけですしね。今後も裏切らないとは限りませんよ」


 「へっへっ、心配はわかるでやす。でも過剰に心配しすぎては何もできやせんぜ」


 「……そうかもしれませんが、チェスリーさんの教育で気配遮断を修得するだけでも裏切られたら脅威です」


 「へっへっ、そんなこと心配していたでやすか」


 「そりゃそうですよ!索敵に全くかからない気配遮断は敵に回すと厄介すぎます」


 「グレイスは気配遮断が見破れないと思ってるでやすね?」


 「ええ、現にチェスリーさんですら全く気付かないじゃないですか」


 「どんな凄いスキルだろうと、絶対なんてこたあないでやす。それにチェスリーの旦那なら既に見破る方法を見つけてるでやす」


 「え!?本当ですか」


 「あっしが何のために散々旦那をからかってたと思うでやす」


 「……チェスリーさんを驚かして楽しむため」


 「へっへっへっ。確かにそれもありやすが、気配遮断を破る方法を考えてもらうためでやす」


 「そ、そうだったんだ……ってほんとですか?」


 「……ほんとでやすよ」


 本当はどうだったのか、ジェロビンの本音は本人しかわからない。

 しかし、チェスリーのレアスキル【百錬自得】は様々なことに対処できる可能性を秘めている。

 ジェロビンの言ったことはあながち嘘ではないのだろう。


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