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第12話 クラン拠点への侵入者

 ◆三人称視点◆


 アルパスカ王都にあるクラン『百錬自得』の拠点は、プリエルサ公爵様から提供された屋敷である。

 娘のマーガレットがクランに加入したときに提供されたが、さすが公爵様は贈り物の規模が違うとクランメンバーは驚いたものだ。


 そしてマーガレット専属のメイドであるケイトさんも屋敷に来ることになりメイド長を務めている。

 家事全般が得意でおいしい料理を作り、屋敷内は常に清潔で整理整頓されている。


 チェスリーは遠くへ出かけることがあっても、なるべくクラン拠点に戻ってくる。

 転移魔法が使えるから可能なことだが、ケイトさんのおもてなしを受けたいからという理由が大きいだろう。


 そんなケイトさんはチェスリーたちに伝えていない屋敷の秘密を知っている。

 この屋敷には部屋と壁の間を上手く利用した隠し通路や部屋が存在するのだ。

 その隠し通路や部屋を利用しているのが、ジェロビンとグレイスである。


 チェスリーたちには他の場所に住んでいると偽っているが、屋敷の隠し部屋にちゃっかり住んでいる。

 ケイトさんはこっそりジェロビンたちに食事や必要なものを受け渡す役割もこなしていた。

 今日もケイトさんが食事を用意し、倉庫内の隠し部屋に声をかけたところだ。


 「ジェロビンさん、グレイスさん、いらっしゃいますか」


 「いるでやす。いつもすいやせんね」


 「いえいえ、本来なら給仕もするところですが、お届けだけなので手間ではありません」


 「へい、ありがたくいただきやす」


 「う~~ん、いい匂い。ケイトさんの料理のおかげで元気満点です!」


 「ふふふ、ありがとうございます」


 「グレイス、食べ過ぎは厳禁でやすよ。動けるようほどほどにしておくでやす」


 「は、はい」


 「ケイトさんには頭が下がりやすね。いざってときに日持ちするものまで用意してくださる」


 「いつもお二人がいらっしゃるとは限りませんからね。食物を無駄にしない工夫です」


 「へっへっ、チェスリーの旦那がこまめに帰ってくる理由がわかるってもんでやす」


 「ふふ、恐縮です。では私は失礼いたしますね」


 「ちょいとお待ちを。旦那たちには気づかれないようやるつもりでやすが、今夜あたり招かれざる客がくるかもしれやせん」


 「招かれざる……侵入者ですか?」


 「この屋敷を遠巻きに探ってるやつらがいるようでやす。侵入してくるとしたらそろそろでやしょう」


 「まあ、それは大変です。チェスリーさんにお知らせしなくてよいのですか?」


 「あっしとグレイスがいりゃあ十分でやす」


 「承知しました。対処のほうよろしくお願いします」


 「へっへっ、お願いされるってのもいいもんでやすね。お任せでやす」



 ケイトさんが去った後、ジェロビンとグレイスはさっと食事を済ませた。

 そして侵入者に対処するため行動を開始した。


 「いくでやすよ」


 「了解!」


 グレイスはレアスキル【暗中飛躍】を発動し気配遮断を行う。

 ジェロビンは【暗中飛躍】には及ばないものの、チェスリーの教育によりレアスキルに近い気配遮断を身につけている。

 隠し通路を抜け中庭の木の陰にある隠し扉から外へ出た。

 索敵は常に行っているので、既に敵の数と位置はわかっている。


 「……屋敷近くに2人、後方待機が1人、どうしますか」


 「そうでやすね。後方のはあっしが、近いのは任せるでやす」


 「はい」


ジェロビンがグレイスと2人で十分と言ったのは、対処可能な実力があるのはもちろんだが、チェスリーに余計な負担をさせないためでもある。

 クラン拠点の屋敷に侵入者が現れたのはこれが初めてではない。

 もしチェスリーが知れば、大切な仲間を守るため屋敷の防備を固めようとするだろう。

 チェスリーがどんな防備をするかまではわからないが、チェスリーの戦術と仲間たちのスキルを駆使した大げさなものになると想像される。

 しかし、それはジェロビンの望むところではない。


 守りを固めれば固めるほど敵は警戒する。

 何か大きな秘密があるのではないかと勘繰られやすいし、現れる敵も手強くなる。

 強固な警備で諦める場合もあるだろうが、やりすぎはよくない場合が多いのだ。


 チェスリーは他にやるべきことが山積みである。

 クラン拠点の防備などという必須でないことに時間を費やさせるわけにはいかない。


 そしてもう1つ理由がある。

 隙があったほうがジェロビンの諜報組織づくりが捗るからだ。




 ジェロビンは気配遮断しつつ音をたてずに高速で移動する。

 一気に敵の後ろに回り込み、短剣の柄で後頭部を殴打する。

 やられた相手は一瞬で意識を刈り取られ気絶した。

 念のため魔力封じのロープで縛りあげておく。

 この魔力封じのロープはヴェロニアから提供されたものだ。

 


 グレイスも同じく音をたてない高速移動を使い敵の後ろに回り込む。

 グレイスは【暗中飛躍】スキルで新たに身につけた技を使う。

 【暗中飛躍】の気配遮断は限りなく体表に流れる魔力を薄くすることで見えているのに存在を認識させなくする技だ。

 その技を応用し、相手の後頭部に流れる魔力に干渉し魔力を薄くすることで一時的だが気絶状態にできることがわかった。

 ただし相手が全く意識していないのが条件で、気配遮断と合わせて初めて成功する。


 グレイスは敵の1人めに後ろから、そっと後頭部に手を触れ魔力に干渉する。

 続けて2人めの後ろに回り込み、同様に後頭部に手を触れる。

 2人とも気絶したのを確認し、魔力封じのロープで縛りあげる。


 「グレイス、離れに運ぶでやす」


 「了解です」


 クラン拠点には屋敷とは別に運動ができるぐらいの広さの建物がある。

 元は雨の日でも体を動かせるように作られたものだが、アリステラに頼んで地下室を増設した。

 ジェロビンとグレイスは捕えた敵をその地下室へ運び監禁した。

 

 「今回はどこからの依頼でしょうね」


 「どこでやしょうねえ。それよりこの3人あっしの知った顔でやす」


 「ええ!?そうなんですか」


 「あっしが元裏の諜報組織にいたことは知ってるでやすね」


 「はい、諜報の技術もそこで学んだとか」


 「その組織にいたやつらでやす。マクナルにいられなくなったんで王都に来てたんでやすねえ」


 「確かジェロビンさんが組織を潰したんですよね?」


 「直接は手を出してないでやす。あの頃はそんな力はなかったでやすしね。あっしは情報を流しただけでやす」


 「そうでしたか。その時に取り逃したということでしょうか?」


 「情報を脅しに使ってたやつは全員始末されやした。こいつらは直接関わってないから見逃されたんでやすね」


 「へえ。酷い目にあってたはずなのに温情ありますね」


 「指揮がエドモンダ様でやしたから。あのお方はチェスリーの旦那と似たところがありやす」


 「はは、チェスリーさんなら脅してたやつらも始末しなさそうですよね」


 「旦那は始末するのが重い罰とは考えてないようでやすからね。あっしは始末したほうが後腐れがない場合が多いと思うんでやすが」


 「人それぞれ考え方は違いますから……でも俺はチェスリーさんの考え方が好きです」


 「へっへっ、グレイスは相当旦那にお熱のようでやす」


 「そ、そんなことないですよ!」


 「いやいや、否定することはないでやす。あっしも旦那にほれ込んでやす」


 「……え?」


 「へっへっへっ。変な意味じゃないでやすよ。今一番恐れてるのは旦那に愛想つかされることでやすからね」


 「そんな!チェスリーさんはジェロビンさんを凄く頼りにしてますよね。愛想をつかされるなんて……」


 「旦那はお人よしでやすが、しっかり自分の線引きをもってやす。あっしが裏で許せないことをやってると知られたら、もう仲間とは認めてくれないでやしょう」


 「……俺も気をつけます」


 「グレイスは大丈夫でやすよ。あっしは裏の汚さを知りすぎてやすから、染まらないようにする必要があるでやす」


 「お、俺がジェロビンさんと一緒に行動してますから!そんなことはさせません!」


 「へっへっ、頼もしくなったでやすね。頼んますぜ相棒」


 「相棒!?……はい!お任せください」


 グレイスはジェロビンに相棒と言われ、かなり嬉しかったようだ。

 ジェロビンは既にグレイスのほうが技術が優れていることを認識していた。

 まだ経験は足りないが、経験さえ積めば近い将来自分を超えるだろうと。

 しかし、ジェロビンもただそれを傍観しているわけではない。

 己の技術を鍛え更なる高みを目指している。

 相棒と認めたのは、好敵手と認めた宣言でもあるのだ。



 「さて、もうとっくに目は冷めてるでやしょ。いつもの軽い尋問といきやすか」


 「ええ」


 捕えた侵入者を監禁した牢屋に戻り、様子を伺うと既に全員目覚めているようだ。

 小声で何やら話をしている。


 「へっへっ、お久しぶりでやすね」


 「てってめえジェロビン!?何だってこんなとこにいやがる!!」


 「それはこっちの言うことでやす。侵入しようとしたのはそっちでやすからね」


 「けっ、俺らも諜報のはしくれだ。情報は死んでもしゃべらねえぞ」


 「死んでもねえ。それじゃ一応聞きやすが、雇い主は誰でやすか?」


 「……」


 「目的は何でやすか?」


 「……」


 「どこから来たでやすか?」


 「……」


 「へっへっ、尋問終わりでやす。眠ってもらうでやすよ」


 「は?拷問するとかしねえのかよ」


 「そんな無駄なことしないでやすよ。気が変わったら最後の質問は答えた方がいいでやす。来たところがわからなければ適当に放り出すしかないでやすし」


 「お、おいおい。開放する気か?」


 「へえ。ここでずっとただ飯食わすわけにもいかないんで、お帰りいただきやす」


 「は!?どういうことだ」


 「言葉通りでやすよ」


 ジェロビンは3人に睡眠薬を嗅がせて眠らせていった。

 眠らせたところで、2人の協力者を呼びに行く。

 呼んだのはマーガレットとメアリである。


 「今日はこの3人ですのね」


 「へい。いつものやつお願いします」


 「解放先はどちらでしょう」


 「不明なんでいつもの王都の端っこのほうでいいでやす」


 マーガレットは3人の魔力を【以心伝心】で記憶し、いつでも追跡できるようにしておく。

 メアリは3人を【転移魔法】で王都の外れに移動させる。

 男たちを縛り上げていた魔力封じのロープを回収したのち、屋敷に戻ってくる。


 これで本日の侵入者対処は終わりである。

 後日、追跡調査を行い隠れ家や雇い主を暴き出すのだ。


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