第1話 初国会(前編)
国王編始めました。
あらすじと本編に前作の補足はありますが、前作を先にお読みいただくことをお奨めいたします。
前作
お人よし冒険者、特級クランから追放される ~実は計画通り……と思っているのが本人だけで周りにはバレバレだった!?~
俺の名はチェスリー。
元冒険者で現在は国王である。
といっても昨日国王になったばかりだ。
あれ?あたりまえだけど国王って国の王だよな。
俺ってどこの国の王様なんだろ。
「おーい、ヴェロニア。俺ってどこの国の王様になるの?」
「え?……そういえば名前もまだ決めてないわね」
「えぇ……」
俺の質問に答えたヴェロニアとは長年の付き合いだ。
薬草採取の依頼で知り合いになり、その後は俺が専属で薬草を届けるようになった。
金銭に無頓着で微妙な魔道具を作ってはお金に困るという危なっかしいところがある。
しかしヴェロニアの助言や魔道具のおかげで、自分のレアスキル【百錬自得】の使い方をがわかった。
相棒であり恩人でもある大切な人だ。
口に出してはなかなか言えないけどね。
「昨日決めたばかりなんだからこれから決めればいいの。提案者の意見も聞かないとね」
「そうだな。それじゃ記念すべき第1回の国会でもやろうか」
「そうね。あ、そうそう明日アルパスカ国王の招待を受けることになってるから」
「は?」
「だから明日――」
「はええよ!まだ国名すら決まってないんだぞ」
「しょうがないのよ。あんたが放置してたせいで、さらにあんたを捜した人への報奨金が吊り上がっちゃってね。早くバカ騒ぎを終わらせないとダンジョン管理にまで影響がでそうなのよ」
「いや、何でそんなことで影響でるんだ?」
「ダンジョンそっちのけであんたの捜索に人員が割かれてるってこと。下手すると魔物があふれちゃうわ」
「おいおい、洒落になってないじゃないか」
「でしょ?だから早く終わらせるために明日なのよ」
「はあ……やれやれ。国王になった実感もまだないのに」
アルパスカ国王が俺を招待した理由は、恐らく俺の教育者としての力を求めているからだ。
『黄金の翼』という冒険者クランで教育を担当していたことがある。
教育内容は武術、魔法、特殊スキルと多岐にわたり、全てで高い成果をあげた。
その評判を耳にしたアルパスカ国王が、なかなか名乗り出ない俺に報奨金を出してまで招待したがっている。
もう招待というより強制されてるようなものだが。
『黄金の翼』では魔道具を使い老齢化した姿に変装し、同一人物だとわからないようにしていた。
おまけに身元の情報を操作し、架空の商会にしか辿りつかないようにしておいたのだ。
捜索できなければすぐに諦めると思ったが、そう上手くはいかなかったようだな。
俺が国王になったのは、招待対策のためでもある。
一介の冒険者が国王の命に逆らうのは難しい。
冒険者として国王と会えば、俺の意思に反する教育を強要されるかもしれない。
王命に逆らえば監禁される恐れもある。
監禁されても逃げる自信はあるが、もう王都を気軽に歩くことはできなくなるだろう。
そこで国王の権力に対抗するため、こちらも相応の権力をもつことにした。
同じ国王という立場であれば、不当な命令を跳ね返すこともできるだろう。
……実際小国では大国に逆らえなかったりするし、どうなのよと思う案ではある。
ま、まあ少なくとも命令を拒否する理由ぐらいにはなるし、それだけが目的で国づくりをするわけじゃないし。
「では第1回の国会を始めよう」
「よっ国王様。待ってました」
「あのな、見世物じゃないんだから合いの手はいらない」
「はいよ、お堅いことで」
今声をかけてきたのはマックリンだ。
マックリンは冒険者クラン『黄金の翼』の元リーダーで【一騎当千】というレアスキルを持っている。
俺が『黄金の翼』に加入したときに知り合い、共に大規模ダンジョンの攻略を行った。
俺と同じ目標をもつことがわかり、クラン『黄金の翼』を辞めクラン『百錬自得』に加入した。
クラン『百錬自得』とは、俺の目標を達成するために結成したクランだ。
表向きの目標はスキルの情報収集と研究、真の目標は全ての魔物とダンジョンを殲滅することだった。
ダンジョンが作られる原因を調査した結果、判明した事実により真の目標はやめることになったけどな。
そういえばマックリンの目標は真の目標と一致していたよな……。
「マックリン議題に入る前に聞いておきたいことがある」
「何だ?あらたまって」
「俺は全ての魔物とダンジョンの殲滅するという目標をやめると宣言したが、マックリンはそれでいいのか?」
「ああ、そんなことか」
「そんなことって、一番大事なことなんじゃないのか?」
「俺は破壊狂ってわけじゃないぞ。別の方法で魔物の被害がなくせるなら、殲滅にこだわるつもりはない。つまりお前と同じ考えってことだ」
「……わかった。ありがとな」
「礼を言われるほどじゃないぜ。俺だって俺の都合で動いてるからな」
「よし、みんな中断してすまない。今日の議題は国づくりについてだ。はっきり言うが俺は国づくりの知識は皆無だ。提案者から説明してほしい」
「それでは私から説明いたしますわ」
彼女の名はマーガレット。
以前に重度の魔班病という病気を患っており、俺が治療したことで知り合いになった。
プリエルサ公爵様の娘で、現在はクラン『百錬自得』のメンバーだ。
病床のときに本を大量に読んでいたので、いろいろと物知りなのだ。
国づくり提案者の1人で【以心伝心】というレアスキルを持っている。
マーガレットのスキルを使うと、頭で思ったことを会話のように伝えることができる。
遠く離れた場所や複数人同時も可能という便利なスキルだ。
スキルを利用して眼や耳に障害のある人でも意思疎通ができる環境を作ることが目標で、より多くの人を援助できるよう国づくりを提案したとのことだ。
「国に必要なのは主権・領土・国民ですわ。これらが揃って初めて国と言えますわ」
「ほ~。そうなんだ」
マーガレットの説明によると、主権とは国を維持するための仕組みを作り、他国からの干渉受けないようにすることだ。
経済や安全対策がしっかりしていないと、安心して生活できないからね。
領土は国の主権が及ぶ土地の範囲のことだ。
現在、国として大陸に存在するのはアルパスカ王国、シペル帝国の2つだけだ。
クラン『百錬自得』でスキルの研究や実験を行うため、誰も管理していなかった土地をスキルラボと名付け、いくつかの建物と農場を作った。
ひとまず領土はスキルラボ周辺になるだろうな。
国民は国に属する人々のことだ。
簡単に言えば、国は国民のための政治を行い、国民は税金などの義務をもつというところか。
クラン『百錬自得』のメンバーが国民になるとして10人ほどか……少なすぎだな。
下手すると貴族様の使用人の数より少ない。
「うーむ、最初に国民を集める必要があるのか?」
「いいえ、先に主権のことを考えるべきですわ」
「あの~お城や農場を見せるだけではダメなのでしょうか?」
いま質問してきたのがアリステラだ。
マーガレットと同じく重度の魔班病で瀕死の状態を何とか治療が成功して助けることができた。
ブラハード子爵様の娘で、クラン『百錬自得』のメンバーだ。
国づくり提案者の1人で【能工巧匠】というレアスキルを持っている。
アリステラのスキルは腕のいい職人という意味だがその通り、いや、それを超えた力を発揮する。
様々な素材を自在に成形することができ、デフォルメされたかわいい人形をよく作っていた。
最近は巨大な建造物に凝っているようで、城もアリステラが建造したものだ。
もっと巨大な建物をつくりたいので、国をつくって広大な土地を使わせてほしいそうだ。
「お城と農場は領土に含まれるものですわね。必要なものではありますが、主権がなければ誰かに奪われてしまいますわ」
「へええ。さすがマーガレットですわ」
「べ、別に褒められるほどのことではございませんわ」
マーガレットは公爵様、アリステラは子爵様の娘なので、最初のころは身分の高いマーガレットにアリステラは恐縮していたものだ。
今ではすっかり自然に仲良くなっているね。
「国を守るための、軍事力が必要ということでしょうか?」
この質問はミリアンだ。
ミリアンも同じく重度の魔班病を患い、俺が治療したことで知り合いになった。
マーガレット、アリステラ、ミリアンに加え、スーザンとアメリアという女性が魔班病治療の縁で加入している。
魔班病が重度になる人は保有する魔力量が大きいという特徴があった。
ちょっと嫌な言い方をすると、病気を治して恩を売り、優秀な人材を勧誘したのだ。
ミリアンは大容量の【収納魔法】スキルを持っており、元は商会で運搬の仕事をしていた。
【収納魔法】はレアスキルではないが、ミリアンほど大容量が収納できる人は他にいないだろう。
十分レアスキル相当の能力と言える。
「そうですわね。魔物や盗賊から国を守れないようではお話しになりませんわ」
「それならマックリンさんとレフレオンさんがいれば大丈夫ですね」
「お強いのは認めますが、2人だけで国は守り切れませんわ。チェスリーさんはお強いですが国王ですし……メアリさんは女性ですから対外的には侮られそうですし……」
「女性でも実力があるとわかれば問題ないのでは?」
「……ミリアンが正しいですわ。このさいチェスリーさんも加えて4人なら、今は十分ですわね」
「おい、あと3人加えて7人だぜ。しかも桁外れ揃いだ。例えアルパスカ王国が相手でも勝つ自信があるぜ」
この物騒な物言いはレフレオンだ。
俺が冒険者ギルドに登録に行ったときに声をかけられ、その後冒険者のいろはを教わった。
レフレオンは【斧術】スキル持ちだが、今は格闘のほうが得意である。
武術はスキルがなくても努力次第で実力を伸ばすことができる。
魔法はなかなか難しいけどね。
現在はマクナルという町で冒険者を続ける傍ら、クラン『百錬自得』の探索や調査の助っ人をしてもらっている。
「あと3人?えーと、レフレオンさんとマックリンさんとメアリとチェスリーさんで4人ですわね。他に桁外れと言われても――」
「とぼけるんじゃねえ。お前らだ」
レフレオンはマーガレット、アリステラ、ミリアンの3人を順に指差した。
「わ、私がですの!?チェスリーさんに魔物退治を教わりましたが、ほとんど戦闘の経験はありませんわよ」
「そ~ですよ。私も教育の1回だけですわ」
「私はチェスリーさんのお傍にいますので、多少魔法は扱えますが……」
いや、その1回がまさに鮮烈だった。
元より魔力量の多い3人に、俺が魔法を教えたことで教育効果が上乗せされたのだ。
その結果、放たれる魔法の威力が桁違いだった。
ドラゴンを倒したことのある俺やマックリンでさえ恐怖を感じたほどだ。
「よし、軍事力は十分だとわかった。他に何かあれば意見を出してくれ」
3人は不満そうな顔をしているが、レフレオンの言う通りなのでここは流しておく。
アルパスカ国王に謁見するのに、あと何を決めればいいのかな……。
こんな状態で招待を受けても大丈夫なんだろうか。