第4話 魔王の娘の派遣 ③
「つまり……?」
「つまり……?」
魔王の娘と情報屋は、賢者の次の言葉を声を揃えて催促した。
「つまり、 “ニート” だ」
「 ええっ! “ニート” !?!?」
「 はぁ~? “ニート” !?!?」
魔王の娘と情報屋は、拍子の抜けた声色で賢者の言葉を繰り返した。
「魔法村にはニートがいることは調査済みだ。ニートならきっと、臭気発生前と何も変わらずに暮らしているに違いない。彼を……ニートを頼るんだ」
“ニートを頼る” 。
何という間抜けな響きであろう。
しかし、この賢者の提案は今の状況において最も正しい判断なのである。
……とてもくだらない世界だ。
「……確かに、賢者君の言う通りね。村に着いたら、その……ニート君?を見つけて相方になって貰うように頼むってことね。どう?できそうかしら、魔法使いちゃん」
「うん!うん!それ、すっごく良いと思う!私、頑張ってくるね!……じゃあ行ってきまーすっ!!」
魔王の娘はキラキラした笑顔で言い残すと、駆け足で図書館から去って行った。
斯くして、魔王の娘の魔法村への出張は決まったのである。
「……ふふっ、嵐のような子ね」
微笑ましいものを見る笑顔で情報屋は呟いた。
「お前、いつも魔王の娘の味方をするな?」
賢者が不服そうな表情で情報屋を見ると、情報屋は表情を一変させて言い放った。
「そりゃ当然じゃない?魔王の娘が王立魔法教会で魔法使いをしているなんて面白いこと、情報屋の私が放っておけるわけないでしょう。……それに、貴方だって彼女のこと、信用はしていなくても心配はしているんじゃない?」
「そ、それは……」
言葉を詰まらせた賢者に追い討ちをかけるように情報屋は続けた。
「お互い様ってことよ。どっちも魔法使いちゃんが、だ~い好き。いいわね?」
言いたいことを言い終えた情報屋は「それじゃ、また~」と後ろ手を振りながら図書館から出て行った。
「……全く。上手くいくと良いのだが」
呆れと不安を含んだ賢者の溜息は、彼以外いなくなった広い室内に、静かに響いたのであった。