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you are my hero!

作者: さだ 藤

*ある意味(いや、真っ当な?)ファン小説なので、これあうとー! と思いましたら、出来れば……! すみません、できれば優しくお知らせください。


 私は、いま、とても、人生、最大の、我慢を、自分に、かしている……!


 音が鳴りだしてしまいそうなほど、震える拳をとめるべく、自分のパンツをぐっと、握りしめ。


 我慢だ、ガマン……!


 がっと唇をかみ、ぎりぎりと思わず飛び出てしまいそうな言葉を抑え込む。


 いいか、真由美。

 今、私は、仕事中。立派な、社会人である真由美、お前は、分かっているはずだ。

 ここで、変なことは口走ってはならないのだ、と。


 大人になり、かしこくなったお前なら、分かっているはずだ。


 こんな言葉は、はいてはならないのだ……! と。

 十分、十重に、分かっているはずだ、真由美よ。


 お前はもう、子供ではないのだ、と。


 分かっているはずだろう真由美……!


 例え、自分の知っている、戦隊ものの登場シーンだとしても。

 一生懸命、爽やか後輩君が演じているのだから、ここで私が出て行く出番はないのだ、と。


 例え、近年の中で一番の押し戦隊であろうとも。

 例え、その中でも人気のレッドの変身シーンが間違って演じられていても。

 例え、それを披露されたお客様のお子様がそれに気付かず十分それで満足していても、

 例え、そのお子様の反応にてんぐになって鼻高々と胸を張っているイケメン後輩君を見てしまっても、


 お子様も満足されているし、ご両親も微笑ましそうに見守ってくれている。

 ここはひとつ、後輩君に華をもたせるかたちでいいではないか。それで、いいではないか。  


 それに私が今ここで出て行っては、立派で大人な先輩お姉さんな井坂さんではなくなってしまうだろう。


 二十うんさい。もはやとっくのとうにお肌の曲がり角を過ぎたこの身。

 あまり、でしゃばりはすまい。


 そんな事をすれば、いっぱんぴーぷるな、立派で、大人な、お姉さんで通っている、井坂真由美ではなくなってしまうだろう?


 ここはぐっと堪えて、耐えるんだ!


 大丈夫、立派で、大人な、賢くて優しいお姉さんな真由美さんなら、こんなこと、おちゃのこさいさいってものではないかっ!


 はははははっはははっははは。


 なんて、思っていた時が、私にもありました。

 けれど、気づいた時にはもう遅かったのです。


 ここまで色々と、


 皆が変身する時は、先にぱっちんしてから、とか

 赤の変身する時にキーとなる部分を逆に回している、とか

 違う、そうじゃない! そこはもっと! 力強く足をならしてっ!!

 おおっとぉ!! そっちの変身だったら、握りしめて捻るのは握る方だあぁっ!

 それにそれはグリーンの効果音! 言葉がちがう~!!

 おい、お前、今さりげにピンクとグリーンの番号間違っただろ!!

 違うんだ、違う……分かるよ、分かるけどね。ちょっと濁りたくなる気持ちも分かるんだけど、正しくは濁点いらないんだよ。とか

 おまっ! 黄色ちゃんが足上げるのは右足だ馬鹿野郎っ!! 黄色ちゃんをマネするなら、開脚できるようになってからにしろよおいっ!!

 お~、ピンクちゃんの名乗りの間違いここで再現かって、あ? ただ間違っただけ? おいおい……これはちょっと許しちゃわ。逆に。

 違っ、……そうそう。そうだよ。お子様の方がやっぱりよく分かってらっしゃる。増えるのもう一つの方。そうそう。こっちは合体の方。

 って、だーかーらぁっ!! 頭の模様だって全部違うしっ、イラスト書き起こすならそんくらいちゃんと覚えとけよ!! そんな中途半端なもんわたしてんじゃねえええぇぇぇ!!!

 

 とかとかとか、ですね。

 黙って、ぷるぷるしながらも黙って、聞いてたわけですよ。


 ですけどね、お子様相手に、後輩君であるイケメン加藤がこれ見よがしに間違った知識を、私の愛するキャラクターのお名前を教えるのは、さも自信満々に、間違った知識を、教えるのは、耐えられなかった。


「いやー、どぐらにまが凄くてさ! あっという間に倒しちゃったよね!」


 って、どぐらにまってなんだ! どぐらにまって!! 私の、愛する押しキャラへのこの仕打ち。


 これは、これはあぁっ!! 断じて見逃せるものではなくっ!


 この恨み、はらさでおくべきか……! 加藤っ!!


「ちっがーーーーーうっ!!」


 声を大にして、叫んでしまったそこからはもう、止まらなかった。

 名前を懇切丁寧に、由来まで語り、ついでとばかりにさっきが演じていた赤の変身シーンの間違っている部分を直し、覚えさせ、埒が明かないと自分で再現、ついでに黄色ちゃんの方も熱演しちゃったりなんかしたところ……。


 気が付けばお子様にはキラキラとした熱く眩しい目で見つめられ。

 加藤はどこか疲れ果てたように憔悴しており、お客様夫妻は驚いて目をまあるく、まぁるく、……見開いて、私を見ていらっしゃいました。


 あ、やば。


 なんて。

 我に返ってみれば時すでに遅し。あれよあれよの間に、お子様に


「お姉ちゃんすっげー!!」


 なんて、間近で純粋なる称賛をそれはもう加藤の時とは比べ物にもならない程の、熱く、輝く瞳で見つめられたら。


 ねぇ。

 これはちょっと……ねぇ?

 もはや、やってしまった後だしねぇ……。


「よっしゃ、見とけ友くん!! お姉ちゃん、もっとやっちゃうよっ!」


 もういっそ、毒を食らわば皿まで。

 カラ元気で、やけっぱちであろうとも……!

 潔く、一ファンとして、ここはボスまで再現して見せようともさっ!!


 あはっ、あはっ、あははははははははは!


 純粋なるお子様である友くんはよくても、大人であるご両親のあらあらと奥様が呟かれ、いっそ止めを刺してほしい程、優しい眼差しに、

 はっと、何かに気付いたかのようにいつの間にか正座して、なるほどと私の動きを見てメモに書き留めてお勉強しているイケメン加藤に。


 私は大事な何かを失ったかのような。


 そう。

 まるで、大切な兄や、婚約者。友達を失った彼らのように。


 いや、分かっています。こんなの比べ物にはならないことくらい。

 比べてしまってごめんなさいと謝りたいほど比べ物にはならないことくらいは、分かってはいるのだけれどおぉぉ……!!


 私もまた、大切な物を失ったのをひしひしと感じるのです。


 こんなはずでは……。


 半ば魂を半分飛ばした状態で、それでも友くんに向け熱演しながら私は、もう何もかも、なくしてしまった事を自覚する。


 立派な社会人であり、大人で、賢くて、頼れる存在だったはずの、先輩お姉さんである井坂さんではもうないのだと。

 後輩君を優しく、暖かな目で指導できるような私は、なくなってしまったのだと。


 もう、そこには何もないのだと。


 何も……ないんだと。


 ………………。

 

 心の中で項垂れ、涙を流し。

 それでも僅かに残った大人としての、ほんの少しの欠片と多大なるファン精神にのっとって、全てを演じきった時、私は気付いた。


 いや、あるじゃないか、と。

 そう。それは、私の目の前に。このきらきらとした、少年の眩い笑顔。

 

 それだけで、もう。

 それだけで十分じゃないの、まゆみ。


 ヒーロー達だって、子供たちのこんな笑顔のためだけに戦ってるじゃないの。


 そう気づいたら、全てがふっとんで。友くんと一緒に笑いあい、語り合っていた。


 それはもう、子供ならではのただただ純粋であり、まっすぐで力強い情熱と私はとても濃密な議論を交わしあったのだ。


「すっごい楽しかった、友くん!」

「俺も、俺も! 俺の周りの女の子たちって戦隊は見ないから! 姉ちゃんと一緒に語れてすっげー楽しかったっ!!」


 にっかにかの満面の笑みが、もう。お姉さんの心をくすぐって。


 あー、可愛い。


 甥っ子よ、早くおばちゃんにこんなかわいい子を見せておくれ。

 甥っ子くんがまだ結婚できる年齢ではない事はおいといて、いっそ私が自分でがんばれよ、なんて事もおいといて。

 二十うんさい。お肌の曲がり角をとっくに過ぎでいても女の子である独身彼氏なしの私は、そう思う。


 やっぱり子供って、かっわいいな!


 内心うっきうきで、にまにまで、幸せ気分に浸っている私はこの後、

イケメン加藤と共に帰社しなくちゃいけないという気が重い仕事をこなすために、ここぞとばかりに友くんに構ってもらい癒された。


 ばいばいと手を振り続けてくれている友くんに、私も角を曲がるまで手を振り続け。

 名残惜しくも、私たちは帰社の途に就くのであります。


 ***


「いやー凄いですよ、井坂さん!! 僕なんてほんと、まだまだでしたね。勉強し直してきます!」


 どこぞのグリーンのような、爽やかで素直な後輩、加藤くんの賛辞に、私はただ曖昧に笑い誤魔化そうとした。


 ですよねぇ。そうですよねぇ。

 もちろん、そっとはしといてくれませんよねぇ。加藤君よ。


 分かってはいたよ、分かっては。

 だからこそ、友くんとものっそい戯れたのもあるしね。

 分かってはいたのだよ、分かっては。


 それでも、ねぇ。

 触れられたくはない、話題もあるんだけどなぁ……。

 まぁでも、この流れはそうですよねぇ。

 でも、ね、加藤君。


「井坂さんは、何でファントムシーフを見るようになったんですか? 僕はもう高校生だってのに、まだ毎年戦隊見てる弟の勧めで見るようになったんですけど」

「う、うん。私も、そんなところ、かな? 甥っ子がね、見ててね。一緒に見てたらハマっちゃったのよ。いやぁ、最近の戦隊はすごいわよねぇ」


 気づくなよ、加藤。

 私のこの、せいいっぱいの硬い笑みに気付いてくれるなよ、加藤くん。いや、加藤さまさま。


 その甥っ子がすでに高校生で、君の弟君とは違ってもはや戦隊ものなんてこれっぽっちも見ていないなんて。

 そんな暇あったら日曜だろ? 惰眠むさぼるっつのとか、ほざいているなんともまぁ生意気になるほどでっかく成長している事なんて。


 いえない。


 むしろ、おい加藤よ。その弟を俺にくれ、とか思ってしまったなんて、言えない。

 確実に気が合うだろう、その弟君に会ってみたい思いが募るけれど、言えるわけがない。


 その他もろもろ、口が裂けても言えはしない事はまだまだ山積みだ。


 けれど、そうなったらもう、今度こそ、私はおしまいでありまして。


 せめて、まだライトなファンだという事で通したいわけでありまして。

 え? もう遅い? そんなばなな。気のせいですぜ、おやっさん。


 まぁ、なにはともあれ。なにとぞ、加藤くん。

 イケメン爽やか後輩加藤くん。お姉さんを助けると思ってここはひとつ、何もなかったことにしていただきたいのですが……。


 あ、やっぱりだめですか? あ、はい。


 ……え? 来週の土曜に街に行ってショーを見ないかって?


 ばっか野郎! お前はきっちり予習復習するのが先だろっ!!


 ……あ。


 え……? じゃあやめときますかって?


 何言ってんだっ! 喜んで行かせてもらいますっ!!


 …………あ。


 その後、なんやかんやと毎週土曜日に合うようになったり、弟君と仲良くなったり、それを気にした加藤君と私がどうなっていくかとかは、また別のお話。


 それではみなさん、オヴォワー!!


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