お別れの話
短い文なのでどうか最後まで読んで下さい。宜しくお願いします。
長年、付き合っていたキミともお別れの時が来た。
キミとの出会いはとても衝撃的で、今でも忘れる事はない。その細い華奢な体に白い肌、そして、淡い香りに私は心を意図も簡単に盗まれてしまった。キミという存在は私にとって麻薬と同じでキミ無しでは最早いてもいられなくなってしまうのだ。
キミは、私の『生きがい』となっていたのである。
それから約10年間、お互いに同じ道を歩んだ。辛い時も楽しかった時も、常に私の支えになってくれたキミ。これからもずっと一緒にいられると思っていたのに、時の流れは私の心を変えてしまった。
何故だろう。何故、キミを諦めなければならないのか。悪いのは私の方でキミは悪くはない。私は申し訳のない気持ちで一杯になっていた。でもキミにどう伝えれば良いのかわからない。キミも既に私の気持ちを感づいている筈なのに、優しいキミはただ、ただ私を見つめて黙っている。
私の考えが変わってくれるのを待っているのだろう。キミの考えている事は全てわかってしまうのだ。長年と一緒にいたのだから。
キミは決して悪くは無い。悪いのは自分勝手な私の方なのだ。
「すまない。」
今の私にはこの言葉しか言えない。
それでもキミはただ黙って私を見つめる。キミの視線だけが私の胸に突き刺さる。その視線が痛いだけにキミを見る事すら出来なかった。
だが私の意志は既に硬く固まっていた。これからは辛い時も悲しい時も、己のみの力で乗り切っていく事に。
でも、でも最後だけ。最後だけキミに触れたい。もう一度だけ。 キミはそれを許してくれるのだろうか。私は本当に弱い愚かな人間だ。
私はキミに視線を送った。相変わらず華奢で細く白い出合った時のままの姿で私を見つめていた。キミは私の思いを悟ってか、
「最後に私に触れていいよ。」
言葉こそ発しはしなかったが私の最後のワガママを聞いてくれたキミ。長年連れ添ってきた二人には言葉なんて物が無くともお互いを理解できていたのだ。
私は右手でキミの白い華奢な体に触れる。今までと同じように。優しく。そして、私の唇にキミの唇が触れた。
正直、ホッとしてしまう私がいた。
『キミと離れたくは無い』
これが私の本音なのだ。でもそれは仕方の無い事もわかっていた。
それと同時に、私の欲情に拍車が懸かってしまう。もう、抑えられないこの気持ち。この高鳴った欲情を押さえ込む事が出来なかった。自然と私の左手は、いつものように慣れた手付きで動き出し、右手の指先がキミに触れる。
その瞬間、キミにも火がつく・・・。
キミの華奢な体も段々と火照ってくるのがわかる。キミの白い体から艶やかな香りがしてくるのもわかった。キミの口から漏れる微かな吐息も、今の私には愛しく切なささえも感じた。
「これが最後だから。」
そう呟きながら私はキミと一つになった。その行為は、いつもより優しく、いつもより大切にキミを愛していた。
最後のキミの姿は、いつもより小さく蹲り、寂しげに私を見つめていた・・・。
「ふぅ〜。」
私は深く息を吸い、鼻から勢い良く煙を出した。
「これが最後の一本!」
と、言いながらタバコを吹かし、ライターと残りのタバコが入っているタバコの箱をゴミ箱に捨てた。
「医者にタバコを止めろって言われたら仕方ないよね」
そう呟きながら約10年間吸い続けたタバコに別れを告げたのだ。
禁煙をする人の話でした。