皆に出来ない 僕には出来る
「貴様ぁ!何晒しとるんじゃ!」
朱鷺人達の意識が戻ると、まず怒号が響いた。
「・・・・・・この世界、あなたはどう見ますか」
天、天野が冷や汗を垂らす。
そんな彼らに目も暮れずでうちゃんと朱鷺人は会話を続ける。
「この力が何の為に存在しているのか、ギフトの事を語るあなたには
分かるんですか?」
「それは、来たるべきー」
「そんな曖昧な言葉を聞きたい訳じゃない!」
「・・・ねぇ、分かりますか?あなた達が戦わなくちゃいけない人間が
目の前に居るんですよ」
「いずれ宛先は更に増える。その全員とコミュニティが取れる訳が無いだろう」
「やるなら、今だよ」
その場に居る全員の体が硬直していた。
誰1人として動かない。
深い沈黙が続いた。
「・・・失礼します」
朱鷺人は天野邸を後にした。
(第一あいつらは頭が悪すぎる)
(全世界に広がるであろう宛先と連携するだと?)
(必ずこの力によって破壊を招く輩が出てくるだろうに・・・)
(そもそも他力本願過ぎる・・・・・・)
自宅に着くと、家には炎が燃え盛っていた。
突き刺さった謎の棒に近所の住民が釘付けになっていた。
「何あれ?」「さぁ」
そんな声を聞かず、ただ朱鷺人は呆然としていた。
「本当に、家が燃えてる」
(これが、破壊の力・・・邪魔な奴らが消えた)
「でうちゃん、どこ行くの?」
一方、天野邸では一連の事について話し合っていた。
しかし話の途中、リビングからでうちゃんが出ていった。
天の声も届かず、玄関の戸を開ける音の後、何も聞こえ無かった。
「二人きり・・・ですね」
「そうだね」
少し天の顔が火照った。
「朱鷺人ー!」
向こうから朱鷺人の叔父の声が聞こえてきた。
「叔父さん、と誰ですか?」
「この方は自衛隊で巨大ロボットの案件を管理している窓辺陸佐だよ」
「こんばんは、天津君。ご家族の事、残念だったね」
「早速本題に入るけど、君の家に刺さっているあの棒は恐らく
例の巨大ロボットによる物だ」
「ここから察するに、君は狙われている。前に現れたロボットは君に手を振っていた
そうだが?」
「その通りです」
「そうか、とにかく避難しよう。自衛隊の最寄りの基地にて君の宿泊出来る場所が確保出来た」
「・・・はい」
その後、朱鷺人は軍用トラックの荷台に乗せられ、叔父、窓辺と共に基地へ向かった。
「そう言えば窓辺さん、私・・・例のロボットの正体、分かったかも
知れません」
「え!?聞かせて頂けますか?」
「勿論。恐らく、二番目に現れたロボットは・・・朱鷺人です」
「どうして?」
「昨日、朱鷺人が気絶したと同時に二番目のロボットが現れたんです」
「それに、二体目、翼のロボットが着けていた様な棒に見えたんです。私の兄弟の
家に刺さっていたのは。そして、それを見ていた朱鷺人の表情は尋常な
物ではありませんでした。まるで、予想通りと言う様な・・・・・・」
窓辺は彼の言葉は聞いたが、鵜呑みにした訳では無かった。
自分の唯一の甥である朱鷺人に対してそこまで言えるのは不自然だった。
「天津・・・さん?」
しかし、叔父ははっと何かを思い出して車を止めるよう頼んだ。
「朱鷺人が大好きなお菓子あるんですよ。あそこのコンビニなら売ってるかな。
ちょっと買ってきます」
そう言って車から降りると、足早にコンビニへ向かった。
その姿に窓辺は少し安心した。
(天津さんは彼の身を案じて言ったのだろう・・・)
しばらくして窓辺は朱鷺人の叔父が帰って来る頃合いだろうとアイドリングを
始めた時だった。
コンビニの中から人々の叫び声が聞こえてきた。
その断末魔の中、コンビニが爆発し、巨大なロボットと思われる
巨大な人の形をしたものが出現した。
「叔父さ・・・」
朱鷺人が叔父を呼ぶ声に返事をするように、ロボットの中から声がした。
その声の主は、叔父そのものだった。
「天津朱鷺人、貴様はここで抹殺する」
「叔父さん?叔父さんも宛先なのか?説明してよ!」
「宛先・・・意味が分からん。まさか、やはり朱鷺人君があの翼のロボット!?」
朱鷺人は窓辺の察した答えに頷くジェスチャーで返し、指示を送る。
「その通りです。だけど、今はアイツを止めないと!」
「どうすれば良い?」
「まずは、僕は眠らせて下さい。そうする事でギフト、ロボットになれます」
「分かった。そうすれば良いんだな。ちょっと待ってろ」
すると、窓辺は制服の内ポケットから睡眠導入剤の注射薬を取り出した。
「いざという時に持ってて良かった。行くぞ!」
朱鷺人の首元に注射すると、ものの数秒で眠ってしまった。
すると、彼らのいる道路を挟んで謎のロボットに向かい合う形で
デウスエクスマキナが出現した。
しかし、その出現による質量変化を調整する爆風に窓辺が巻き込まれた。
「窓辺さん!」
吹き飛ばされた窓辺の乗る車はロボットの前に突き出た。
一方ロボットは台風で飛んできたゴミを振り払う様に車を払いのけた。
「・・・!」
「こんなゴミ同様のもの、"我輩"にとって何でもない」
ロボットは叔父の声でケタケタと笑っていた。
「お前・・・・・・人の死を何だと思っているんだ!」




