夢
「・・・・・・ん」
あの巨大ロボットと目が合った時、朱鷺人の意識は遠のいた。
そして、彼の意識が戻ると、目の前の光景に驚愕した。
「なんだ・・・ここ、地上から20mくらいの、場所なのか?」
場所とは言い切れない不思議な感覚。
その感覚の理由は、正に自分が20m大の巨大な物に変身した様だからだ。
不意に隣のビルを覗くと、ビルのガラス窓には、さっき目撃したロボットと
同じような物があった。
「まさか、俺がロボットに・・・?」
そして、ビルに映る巨大なシルエットは1体だけでは無かった。
「さっきのロボット!」
「一体、何が起こっているんだ!」
「・・・・・・ハッ!」
気づくと、朱鷺人は病院のベットの上で寝ていた。
「あれ、夢だったのか?」
すると、ずっと横に居たであろう叔父が話掛けた。
「朱鷺人、やっと起きたか」
「叔父さん!?」
「ああ。昨日のロボットの件で俺も逃げていたんだがな・・・。
家に戻ると、電話が鳴っていて、出たらお前がここに運ばれていたって連絡が来てな」
「俺が家に行った時には、ロボットはもっと遠くへ行っていて良かったが・・・」
「どう、したんですか?」
朱鷺人の叔父は一拍置いて、口にした。
「2体に増えてたんだよ、ロボットが」
言葉が出なかった。朱鷺人には直感で伝わった。
"あれ"は、夢では無いと。
朱鷺人は唯の気絶で倒れていただけなので、すぐに退院出来た。
「迷惑かけました、叔父さん」
「気にするなって!」
「ところで・・・何で叔父さんは家に戻ったんです?」
「それはな、秘伝のタレだよ!」
(やっぱり・・・)
「今が8時か。では今から学校行ってきます」
「気を付けてな」
(とは言ったものの、正直あんな所行きたくない)
(しかし、昨日のロボット、確かに僕に手を振ったな)
(と言う事は、何かしら僕に関係のある人間って事だな)
(うちの親、それは無いな。だったら恐らく街を破壊しつくしてた)
(叔母さん、だったら叔父さんが心配に思う筈。除外だな)
(となると・・・、学校の中の誰かになるな。僕ってそんなに顔が広く無いし)
ロボットの事について、憶測を広げていく内に、学校に到着してしまった。
職員室で遅刻届を書かされ、教室の扉を開けた。
授業の合間の準備時間だったため、教師はいない。
そして、クラスメイトもいない。
「ああ、確か次の授業は家庭科か」
結局朱鷺人は一人で家庭科室へ向かった。
(寂しい、という訳じゃないが、なんか、なぁ)
(一人で廊下を歩くのは、寒い)
(何か・・・何かが僕を嘲笑うような・・・・・・)
(今だって、後ろから誰かが僕を見て笑ってるような・・・)
朱鷺人が不意に振り向くと、後ろに一人の女生徒がいた。
「うわっ!」
「え?天津君、私こっそりついて来てたのバレた?」
(偶然の産物、なのか?)
「君は、誰ですか?僕の事を知ってる様だけど、同じクラスの人かな?」
「あぁ、良いよ良いよ。猫なんて被らなくて」
「は・・・?」
彼女には、朱鷺人の"素顔"が見えている様だった。
彼女の不思議な笑みと、朱鷺人の心を透かしている様な瞳。
「えっと、あなたは・・・・・・」
「佐倉 天。君と同じクラスだよ」
(全然知らなかったな)
「窓の外ばっか見てたからねぇ」
その意味深な彼女の言葉に朱鷺人は絶句した。まるで、心を読まれてるような、
そんな感覚だった。
(この人、僕の心を読んでいる?)
「うん、読んでるよ。私昔からそういうの、あってさ」
彼女の表情は少し曇った。しかし、すぐに笑顔をして見せた。
彼女の行動に、朱鷺人は言った。
「佐倉さん、笑顔が僕みたいだ」
「え?」
「君は・・・・・・まさか!」