第十七話(レンタルの使い道)
あいつはギガノを救う方法は無いと言い切った。
でも、それでも何かしら方法はある筈だと信じて試行錯誤している俺がいる。
簡単に諦めて溜まるかよ。
「あ……、有明……」
「ギガノ?」
確かに寝言で俺の名を呼んだ。少しでも意識がある今なら夢の世界からこっちに呼び戻すことが可能かもしれない。
「おいギガノ!起きろ!俺は此処にいる!ずっとお前の傍にいるぞ!」
眠っている体を抱き起こして大声で叫んだ。揺すってギガノを起こそうとするも、少しも瞳を開く様子はない。やっぱり駄目なのか。
「くそ……、何か手は無いのかよ」
そう呟いた瞬間、慣れ親しんだ声が俺に語りかける。そいつはいつも外の犬小屋で番犬としての役を担っている俺のヒーロー時代の相棒だ。
「随分とお困りのようね。あたしが一つ、力を貸してあげましょうか」
「……何だ。誰かと思ったらベリアルか」
「何だとは失礼ね」
「しかし、お前の人間体を見るのは懐かしいな。久しぶりに見た気がするわ」
宇宙狼であるベリアルはギガノやスカイのように人間に化けることが出来る。獣耳を生やした烈火色のショートヘアの少女が腕を組んで立っていた。
俺がその姿を見たのはヒーロー時代の頃でも数少ない。
「そう?光大が言うならそうなのかもね」
「……そうだ。お前の能力なら!」
有明光大が名案を思いついて、ベリアルの肩を半ば乱暴気味に掴んで引き寄せたまさにこの時、夢の中のギガノは有明宅にて彼の姿を探していた。
「あれ?どうして有明居ないの?」
ギガノが目を覚まして部屋の中を見回してみれば光大の姿はなく、キッチンや茶の間、洗面所。何処を探してもみつからなかった。
「有明……、ギガノが起きなかったから先に図書館に行っちゃったのかな?」
自宅の何処にもいない光大を探しに、ギガノはモンスターディフェンスへ行ってみることにした。
「お前の「侵入」の能力なら夢の中にだって行けるんじゃないのかっ!」
興奮気味に問いただすとベリアルは呆れたように一息ついて言葉を返した。
「さっき言ったじゃない。あたしが力を貸してあげるって。だからそろそろ肩から手を放してくれる?痛いんだけど」
「済まない。希望が見えてちょっと取り乱しちまった」
他者の思い出や記憶。あの世。空想世界。テレポーテーションなどでは移動不可能な特殊な場所へと侵入可能なベリアルの所有する能力の一つ。
昔はこの能力のおかげで人の記憶の中に逃走した星人を撃破することに成功した。
「俺に力を貸してくれるってことは、お前の侵入能力で夢の中まで行くことは可能何だな」
「可能よ。でなきゃ態々力を貸す何て口にする気はないもの。光大は酷い男ね。元とはいえ、相棒の所有する能力くらい憶えておきなさい」
「いや、だってお前、その能力ほとんど使ったこと無かっただろ。ベリアルの所有能力ってあほみたいに多いし」
「元相棒だった光大が言うんだからそう何だろうけど、そんなに言う程多いかしら?」
「お前くらいだよ。能力を十個以上所有している怪獣は。そういうエリートなお前に惚れたんだけどな」
「あら、光大あたしに惚れていたのね。知らなかったわ」
「惚れてたって言っても、お前の強さにだからな。俺が苦戦したのは今まででお前くらいのもんだ」
「ふん。あたし以外に苦戦する何て絶対に許さないからね。ほら、早くあたしの「侵入」の能力を持ってこの子を助けに行きなさい。元相棒の好みで特別にレンタルさせてあげるわ」
「済まない。遠慮なく借りて行くよ」
「死ぬんじゃないわよ、光大。絶対に生きてその能力あたしに返しに来なさい」
「死なねぇよ。俺はお前以外の怪獣に苦戦したら駄目。何だろ」
馬鹿だな、あいつ。
自分こそ相棒だった俺の能力のこと、完全には憶えてないんじゃねぇか。
レンタルの能力発動時間は経ったの三分だ。
例え俺が死んだとしても、その時間が経過すれば自動的にベリアルへ能力は返却される。何も心配は要らねぇよ。