第十一話(ブラザーズ隊長、ファイターゾフの正体)
「やあ、光大君。君にまた会えて嬉しいよ。無事だったんだね」
会社であるモンスターディフェンスに帰ってみれば、石化された俺を簡単に諦め見捨てた冷たい社長は図書館の受付で何事も無かったかの様に明るく笑顔で話かけて来た。
何だよ、コイツ。めっちゃ殴りてぇ~。
「てめぇ、さっきはよくも俺を置き去りにしてくれたな。一生恨むぜ」
「おお……怖い、怖い。それよりさ光大君、一つ質問があるんだけど良いかな?」
「それよりだと!?あんたそれでも会社の社長か?もっと社員を大切にしろよ!」
「ギガノちゃん、どうしてジャッチが此処に居るんだい?」
「えっとね、えっと……」
俺が答えないならギガノに聞くか。こっちの話はガン無視かよ。
社長は現在の月神に敵意が無いことを知らない。
敵である筈のブラザーズのメンバーが自分の本拠地に足を踏み入れているんだ。警戒しない方が可笑しいか。
「セブン聞いてくれ。ゾフを倒しブラザーズを救う為にはお前達の力が必要だ。俺様を一時的で構わない。モンスターディフェンスの仲間として迎え入れてくれないか?」
「信じられないなぁ。君の言うことは全部本当のことなのかい?僕達が心を許したところを内側から潰そうって考えているんじゃないのかな?」
「大丈夫だよ、社長。この人はね、困っていたギガノを助けてくれたんだよ。有明を元に戻す方法を教えてくれたんだー。だから悪い人じゃないと思うよ」
「セブン、俺様はそのことについてお前に確認しておきたいことがあるのだがな」
「そのことって?どのこと?」
「怪獣少女が言ったろ。俺様に有明光大の石化を解く方法を聞いたと。エースの能力解除法を貴様が知らない筈が無い」
「僕がそんなこと知っているとかあり得ないね。ジャッチ君、言い掛かりはよしてくれよ。それを知っていたら僕は光大君を見捨てたりしなかったさ」
「今のは嘘。男路は最初から知ってた」
俺達の話を聞いていたのだろう。てくてくと歩いて社長の隣へやって来たスカイがはっきりと真実を口にした。
「…………えーと、その」
社長が冷や汗をかき言葉を詰まらせる。コイツの反応を見るに、スカイの言ったことは正しいのだろう。
「ほう。知っていて俺を見捨てたんだな。それなりの理由を聞かせて貰おうか?」
「……そりゃあね、本当は知っていたさ」
「ああ?」
「嫌だったんだよ!僕の大好きなギガノちゃんが光大君何かとちゅーするのがっ!絶対に見たく無かったんだぁ~!!」
図書館の床に両手をついて悔し泣き叫ぶ。
え、何?これじゃまるで、俺が悪いみたいじゃん。
「そ、そうか……ギガノ大好きなあんたなら、それは何としても阻止したかっただろうな」
「男路、図書館では静かに」
スカイが社長に注意するも、彼が泣き止んだのはそれからしばらく経った後だった。
「悪かったね。僕としたことが取り乱してしまったようだよ」
「ああ、盛大にな」
会社の休憩室で疲れた体を休めていた俺達のところに、泣き叫んですっきりしたのか社長が顔を出しにやって来た。
「認めるよ、ジャッチ。君を一時的に僕達の仲間に引き入れよう」
月神の入社を認めた後、社長の視線はすぐさま俺の膝の上に嬉しそうに座っているギガノの方へ向いた。
「光大君、何故に君はギガノちゃんを膝に乗せて抱っこしているのかな?すぐに僕の天使を解放したまえ」
「別に構わねぇよ。嫌じゃねぇし」
「君が嫌じゃなくても僕が嫌何だ!」
「社長、どうして怒ってるの?」
「全然怒ってないよ~。怖がらせてごめんねぇ~」
俺とギガノとで態度が違うのは毎度のことで分かってはいたが、今回は態度の差が違い過ぎるな。気持ちの悪い奴だ。
「しかし、不思議だよな。どうしてギガノの口付けが俺の石化を解除する鍵となったんだ?ギガノは何か知っているか?」
「ううん、ギガノも分からない」
「ああ、それはだな……」
月神が口を開こうとすると、社長がまたしてもあたふたし始めた。
「ジャッチ、悪いが光大君に真実を話すのは止めてくれないか?僕の心が今度こそ完全に折れる」
「時期に話さねばならんことだろ。良いか、有明光大。エースの石化を解く方法は一つじゃない。実はもう一つあったんだ」
「もう、一つ?」
「一つは術者であるエースからの口付けをもう一度受けること。二つ目は」
「やめてくれぇええええええええ!!」
「石化された者を心から愛する者からの口付けを受けることだ」
「つまり、俺は……」
「お前はその怪獣少女にとって何よりも大切な、かけがえのない存在だってことだよ」
ジャッチの言葉を聞いたギガノはそれを否定することなく、俺の方へ振り返り、にっこりと笑顔を見せた。
何と可愛い奴だろう。ギガノってこんなにも可愛かったんだな。
「ぐぐ……ギガノちゃんが嫌う君のところになら、預けていても何も問題が無いと思っていたのに……」
残念そうに落ち込むこの男に俺は全くと言って興味が無かった。
「何か喉が渇いたな。ギガノ、自販機まで一緒に付いて来てくれ。ジュース買ってやるよ」
「え、ほんと?やったー」
「皆は何かリクエストあるか?」
「緑茶を頼む」
「サイダー」
スカイと月神は答えてくれてるのに、何でこの社長は何も言わねぇんだよ。
せっかく俺が奢ってやるって言ってるのに。
まだいじけてやがるのかよ。めんどくせーなー。
「社長、あんたは?」
「……青汁、スパークリング」
コイツ、随分と変わった飲み物が好き何だな。
……数分後、皆に頼まれた飲み物の缶を持ってギガノと休憩室に帰って来ると、
「おぇええええっ!!光大君!何だい、このクソ不味い飲み物は!僕に対する嫌がらせかい?飲めたもんじゃないよ!というかこんな物は飲む物じゃない。泥水と一緒だよ!」
「おめぇがそれ買って来いって言ったんじゃねぇか。我慢して飲み干せ」
「男路、せっかく買って貰った物を粗末にしちゃ駄目」
「嫌だぁ~!光大君、君は僕を殺す気だね。君は僕を殺してこの会社、モンスターディフェンスを乗っ取るつもり何だろうけどそうはさせないよ。僕は簡単には死なないからね。しかし、この飲み物は不味い。不味過ぎる。不味いよぉ~!」
「男路はたまに頭が可笑しくなる。だから気にしないで良い」
休憩室の床に転がって駄々をこね続ける。そんな頭の可笑しくなった社長を心配する一人の天使が舞い降りた。
「社長、大丈夫?もし良かったらギガノのオレンジジュースあげようか?飲みかけだけど」
自分の大好きなギガノに優しい声を掛けられた社長の表情は即効に明るくなって、差し出された缶ジュースを嬉しそうに手に取った。
「頂きます」
ギガノの飲みかけということは間接キスになるのかもしれないが、まあ、それで社長の気持ちが収まるなら良いか。
……つうか、何で俺はアイツの怒りを静めようとしているんだ。怒りたいのはむしろ俺の方だ。
「光大君、君に一つ残念なお知らせがあるんだ。聞いてくれるかな?」
「何だよ?」
すっかり元気を取り戻した社長が何か話があるようだが、またギガノのことで騒ぎ出されるのはすげぇめんどくせーし、迷惑だから止めて欲しい。そう思っていたのだが、これから俺はそんな予想を遥かに超える事実を告げられることになった。
「実はこの会社にはドリンクバーが設置されていてね、君が態々僕達に飲み物を買いに行く必要は無かったんだ。あは、ごめんね」
最近若者の間で流行しているてへっと舌を出す仕草を恥ずかしさもなしにやるコイツは、口では謝罪しているが、きっと本当に悪いとは感じてないんだろうなぁ。
そんな挑発にいちいち乗るのは負けた気がしてイラつくし、無視するが。
「やっぱりねぇ。君の話を聞いて確信したよ。最近のブラザーズが可笑しかった原因はファイターゾフが関係していたんだ」
さっきまでの頭の可笑しい社長は何処に行ったのか、いきなり真面目な表情を作って話を始めた。
「思えば奴は最初から得体が知れなかった。星人がヒーローの頂点に抜擢されるなど普通じゃ考えられん。例外過ぎる」
「おい、ちょっと待てよ。俺はそいつの姿を知らないからよく分からないんだが、ファイターゾフは元「星人」だったのか?」
「ああ。最近知ったこと何だがな。色々と納得出来る点も幾つかある。実体が無い特徴があの日の怪獣と重なって不気味に感じるくらいにな」
月神の言う「あの日の怪獣」は、ファイター星を滅びる寸前まで追い詰めた歴史に残る凶悪怪獣のことだろう。
確かに、奴にも「実体」が無かったことを俺の脳が記憶している。
「ファイター星にはブラザーズ以外にもヒーロー組織が存在していたことは光大君も知っているね」
「ああ」
「俺様の記憶が正解なら、全部で七組は存在していた筈だ。彼等はある怪獣に敗れて、ヒーローを束ねる組織はブラザーズ一組だけになっちまったが」
「その怪獣を倒したことでファイター星を救った光大君は英雄として初めて星の名を語ることを認めらたんだ。そうだったよね?ブラザーズの初代隊長さん」
「ふ。あんまり褒め過ぎるなよ。調子に乗っちまうかもしれないぜ」
「それは面倒臭そうだねぇ」
「面倒臭かったのは少し前のあんただ」
俺以外のヒーロー達は、実体の無い怪獣にダメージを与えられずに苦戦し、命を散らされた。
あの怪獣を裏で操っていたのが星人の頃の
ゾフだったんじゃないかと月神は言うが、その予想は間違っていないような気がする。
奴は社長の仲間だったカード怪獣を殺した仇で、エース達を操り人間殺しまで命じている。考えられない話じゃない。
「月神、質問良いか」
「知っていることなら、何でも答えよう」
これから聞こうとしていることはギガノのことだ。今の月神は信用出来るし、きっと包み隠さず話してくれる。
「ブラザーズのメンバーであるお前なら知っているだろうから聞くが、ギガノを指名手配犯にし、懸賞金を懸けた野郎は誰何だ?」
「そんなことが出来るのは今話題にしていたファイターゾフだけだ。奴にはヒーローらしからぬ思考があってな。悪い怪獣を好み、優しい怪獣を嫌う。人を襲わない怪獣や星人限定で指名手配をかけるんだ。ありもしない大罪を捏造してな」
「……そうか。それを聞いて、これからヒーローとして果たすべき使命が決まったよ。俺がファイターゾフを倒す。ギガノを救う方法はそれしかない」
「有明、大丈夫?そのファイターゾフって幽霊みたいに実体が無いんでしょ?死んじゃったりしない?」
「心配してくれて嬉しいよ。でも大丈夫だ。助けて貰ったお礼をさせてくれ。何時になるかは分からないけど、何も気にすることなく自由に街を歩けるようにしてやるからな」
ギガノの容疑を晴らす為だったら現在のヒーローの頂点でも構わず倒す。
ヒーローってのは不思議なもので、誰かに応援されると絶対に敵わないと決め付けた敵にも努力と根性を駆使して勝利してしまう。頼りにしてくれるのなら俺もギガノの気持ちに応えよう。




