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怪獣はヒーローが嫌い!  作者: SAKAHAKU
1/21

プロローグ(ファイターマン=有明光大)

……現時刻、午後一時半。土日でも無い平日にもかかわらず、今日も俺は家の中に居た。

昨日の就寝時間午前四時。今日の起床時間午後一時。つまり昼過ぎ。完全なるお気楽な生活を送っていた。

何か割の良い職は無いだろうか。

そんなことを考えながら、今日も俺様はコンビニで手にした求人雑誌をぺらぺらと捲る。

「はぁ~、良いとこねぇなぁ……」

小腹の減ってきた俺は一通り目を通した求人雑誌を机に放り投げ、自室からキッチンへと向かう。

カップラーメンを食おう。昨日は味噌だったから、今日は塩だな、塩。


ズル、ズルルルルッ。

「……ううむ、もうカップ麺は食い飽きたな。コンビニ弁当でも買いに行くか」

食事はいつもコンビニやスーパーに売っているインスタント食品で済ませていた。

料理が作れない訳ではないのだが、どうせ一人暮らしだし、いちいち作るのは面倒だからな。

ナルシストの男なら髪型を気にして、ワックスやらスプレーで髪をツンツンやふんわりにセットし、かっこつけてから出掛けるのだろうが、俺はそんなことを全く気にしない。

起きたばかりでヘアースタイルはぼさぼさの寝癖だらけだったが、どうでも良いと玄関から外へ飛び出した。

「今日も快晴。太陽が眩しいぜ」

家から歩いて十分の所にコンビニはある。

自転車やバイクにわざわざ乗る必要は無いだろう。何て言ったって俺には十分な時間があるからな。

……なぜならば、俺は「無職」だから。


歩くこと十分。

コンビニに着くと所持金千円札一枚で買えるだけの弁当を適当にカゴに放り込みレジへと運ぶ。

買い物を終えて外に出てみて、気になったことが一つだけあった。

それは「俺みたいな特殊な人間」だけが感じ取れる「ある生き物」の気配で、駐車場の隅っこに置いてある人間が一人くらいなら余裕で入れそうな大きなダンボールに自然と目が向いた。

近付いて中を覗いて見れば、そこには紫色の髪、頭に角のような物を生やした少女らしき姿。

気持ち良さそうに眠っていやがる。

歳は多分だが、十歳くらいか?

どうせすぐに帰っても暇だった俺は、その少女の頬をツンツンしてみた。

……すると、

「ふあ?」

少女はマヌケな声を出して、閉じていた瞳をゆっくりと開け、自分を見つめる俺の存在に気付いた。赤いルビーのように綺麗な瞳をこっちに向ける。

「だ、誰っ!?まっ、まさかっ!ギガノを捕らえようとしてるヒーローっ!?」

「……はあ、ヒーローねぇ。懐かしい響きだなぁ。まあ、一応俺はその「ヒーローだった」男なのだが……」

「ひっ、ひえぇええっ!ちっ、近付かないで下さいっ!ギガノを捕まえに来たんですねっ!これにて失礼しますっ!」

少女がダンボールからひょいっと出て逃げようとしたので、咄嗟に細くてか弱そうな腕を無理矢理に掴んだ。

「話を聞けよっ!「ヒーローだった」って言ったろ?お前「怪獣」だな。ヒーローに追われてんのか?一体何をした?人でも殺したのか?ああんっ?」

「怖いっ!怖いですっ!どうしてそんな怖い顔で睨むんですかっ!ギガノ何も悪いこと何てしていませんよっ!」

「うるせー!とにかく、一旦家に来いっ!得体の知れない危険な怪獣をこんな所に野放しにしておけるか!」

此処では他の客の迷惑になる。そう思った俺はへんてこな耳を生やした少女の腕を強引に引っ張って家へと連れて帰ることにした。

コイツが悪い怪獣だとしたら俺の住む街を破壊されるかもしれん。そんな面倒事を起こされても困る。

「ひえぇえええっ!痴漢っ!誘拐っ!変態ぃいいっ!おまわりさん助けてっ!ギガノ殺されちゃうっ!殺されちゃうよぉおおおっ!」

少女はじたばたと暴れ、ぎゃあぎゃあと叫び、何とか俺から逃げようと努力していた。

しかし……うるせぇ奴だ。

少しの間じっとしてろっ!

「ふぅ……やっと我が家に着いたか」

「……はあ、はあ、はあ……」

暴れ過ぎて疲れたのか、少女は息を切らし、庭に転がっていた。

コイツ、地面で横になれるとはな。外でも平気で転がっていそうだ。

そんなことしてっと、そのうちホームレスに間違われんぞ。

「ほら、早く立ちな。中に入るぞ」

そう言って地面に転がる少女の体を、肩を乱暴に掴んで立ち上がらせる。

「……あ、貴方、ギ、ギガノをどうするつもりですか?」

「ああん?良いから中に入れって言ってんだろ」

「ひっ!す、すいませんでしたっ!言うこと聞きますのでギガノに痛いことしないで下さいっ!」

俺のドスの利いた声に少女は涙目になり怯え、ゆっくりと家の中へと歩いて行った。

さて、まず最初にやることは決まっている。

……そう。

「風呂」だ。

「ひぇええええっ!どうして服を脱がすんですかっ!?本当に変態行為がしたいが為にギガノを此処まで連れてきたんですねっ!酷いですっ!」

「ああんっ?うるせぇーっ!ちょっと黙ってろっ!おめぇから漂ってくる臭いが気に食わねぇんだよ!良いからじっとしてろ!」

次々と少女の汚れた服を脱がしていく。

上着から下着まで全てを脱がすと風呂場にあるイスに座らせてシャワーを浴びさせた。

「ひぃうっ!冷たいっ!これ水じゃないですかっ!せめてお湯で洗って下さいっ!」

「ちっ、いちいち注文が多いガキだな。ちょっと待ちな、時期にお湯に変わるからよ」

「ひゃっ!どこ触ってるんですかっ!ひぃっ、いやっ……ちょっとっ、いやぁあああっ!」

「すぐに終わる。ちぃとおとなしくしてな」

……そして、三十分後。

てきとーに俺(有明光大)が高校時代に使っていたワイシャツを一枚用意し、それを少女に着せた。

家には女用の服何て無いからな。仕方なくだ。

別に俺の趣味じゃない。

俺をそこら辺のマニアックな連中と一緒にされては困るぜ。

「ううっ、酷過ぎます……何の躊躇も無く全身洗いましたね……」

「安心しな。俺はロリコンじゃあ無い。てめぇの体に興味何てねぇよ」

「そういう問題じゃ無い気がしますが……貴方には何を言っても無駄そうなので、もう良いです」

「んだと、コラっ!お前、俺を馬鹿にしてんのか?」

「ひえっ、そっ、そんなことないですっ!本当ですっ!信じて下さいっ!」

少女は怯えて俺から遠ざかった。

コイツ、もしかしてかなりの怖がりなのか?

まあ良い。聞きたいことはいくつかあるが、まずは名前から聞いておこうか、他の話はそれからだ。

「お前、名前は?」

「ふ、二角怪獣ギガノザウルス三世……長いので「ギガノ」で構わないです」

「お前やっぱり怪獣だったんだな。そのヘンテコな耳からして人間じゃねぇとは思っていたが」

「これは耳じゃなくて角です。間違えないでください」

「ああん?てめぇ、俺に何か文句でもあんのか?」

「……い、いえ、何もありませんです……あ、貴方のお名前は、何と言うんですか?」

「俺は有明光大。と言っても、これは体を借りている地球人の名前でな。ファイターマンってのが俺の本当の名だ」

俺の本当の名を聞いてすぐ、ギガノの体がビクっと震え出した。

そして、

「……そ、そう、ですか……それでは、ギガノはそろそろ失礼します」

「待てよっ!」

「ひぃっ!?」

家から出て行こうとするギガノに声をかけ動きを止めた。

俺の話はまだ終わっちゃいねぇ。最後まで聞きやがれってんだ。

「ギガノ、ヒーローは嫌い何ですっ!近付かないで下さいっ!」

「さっき言ったかもしれんがな、俺はもうヒーローじゃねぇんだ。おめぇを捕獲したり、撃破するつもりはねぇよ。だから、そんなに怯えんな」

「そ、そう……何ですか?」

「あ、ああ……」

俺はそう返事した後、すぐにこう答えた。

「もう一度同じ質問をするぞ。お前、どうしてヒーローに狙われてんだ?俺は絶対お前に危害を加えたりしねぇ。だから安心して言ってみな」

「……危害ならもう加えられている気がするんですが」

「ああん?何か言ったか?」

「いっ、いえいえっ!?何も言っていませんですっ!ですからそんな怖い顔で睨み付けないで下さいっ!」

怯えたギガノは玄関の方から俺のいるリビングへ恐る恐る戻って来ると、近くにあるソファーゆっくりと腰掛ける。

そして、俺へ四つ折りの紙を差し出した。

「……これは?」

「ギガノの指名手配書です」

「そうか……」

手渡された紙を開いて見れば、それにはギガノの顔写真と、捕獲に協力すれば、謝礼として「五千万」の大金が手に入る。そんな感じのおいしい話が書いてあった。

(……ふっ、マジか)

「ふふ、ふふふふふ……」

「あ、あの……どうし、たんですか?充分に恐い顔が更に恐ろしくなってますよ?」

「いや……何でも無い」

ギガノがちゃっかりと俺の悪口を言っていたが、俺はそっちを気にするよりこっちの懸賞金の方が気になっていた。

「この怪獣を発見したヒーロー関係者はファイター星までお送り下さい。懸賞金五千万をお渡しします……か」

……五千万。夢のような大金だ。

コイツをファイター星に差し出せば、俺はもう職を探す必要が無くなるんだ。

そして同時にひもじい生活ともおさらば出来る。

ふっ、そりゃ良い。すげぇ良いな。

「お前に五千万ねぇ……」

「ギガノはそんな大金が賭けられるような悪いこと何て一度もしたことありません。何者かによって罪を擦り付けられたんです。本当です」

「……へぇ~」

「何ですか……さては、信じていませんね」

「いいや、信じてるさ。俺はお前の嫌うヒーローの仲間じゃ無いんだからなぁ……お前のことファイター星に引き渡しても良い?」

「そっ、そんなのいっ、嫌でひゅっ!……いっ、痛ったぁあああ……」

……どうやら舌を噛んだらしい。

ギガノは痛みを堪えようと口を押さえた。

「だっ、駄目に……決まって、います……馬鹿なこと言わないで下さい。ギガノ何もしてないって言ったじゃないですか。噛みますよ」

噛みますよって……自分で自分を噛んでいた奴が言うセリフかよ。

今、俺には五千万を手に入れるチャンスが俺にはある。

コイツを差し出せば俺は大金持ちになれる。

カップ麺ばかりの食生活からの脱出。そして、職探しに出掛ける必要も無くなるんだ。

……でも、

(でも、本当に良いのか?有明光大)

今にも大泣きしてしまいそうな、何か悪いことをした訳でも無いのに多くのヒーロー達に追われる可哀想な怪獣少女をこのまま簡単にあの星へ差し出してしまっても……?

「もうひ ヒーローとは関係の無い貴方にお願いします……」

「…………」

「ギガノを、ギガノを守って下さい。ギガノは捕まればヒーロー達に処刑されてしまいます。死ぬのは嫌何です。お願い、します……」

ギガノは涙を零しながら、俺へ必死に訴えた。

死にたくないのは人間も怪獣も同じか。

(……仕方ねぇな)

これでも俺はヒーローだった男だ。

守ってとか、助けてとかいう声を聞いちまったら手を差し伸べない訳にはいかない。

自然と体が反応しちまうんだよ。悲しいことにな。

金に目がくらんでコイツを見捨てちまったら、俺は悪人のようになってしまうだろう。

そんなのはごめんだね。

……それに、ギガノを差し出して手にした金でこれから楽しい生活を満喫していく何て後味悪くて、嫌だしな。

チャンスを逃すことになって残念だが、職は自分の手で掴み取ることにしよう。

「はあ。わかったよ。今日から俺がお前をヒーロー達の手から守ってやる」

「本当……本当に本当ですか?」

「ああ。本当に本当だ。嘘何か言わねぇ」

「ありがとうございます!ギガノ、嬉しいです!」

「住む場所に困ってるなら此処で一緒に住んでも構わない。ただし、飯は期待するなよ。俺は今ニート何だ。昔ヒーロー時代に稼いだ金も後少しで底を突く。何とか俺が新しい職に就くまで持ちこたえろ。わかったな」

「はい。構いません。カップ麺でも我慢して食べます」

コイツは何を言っているのだろう?

カップ麺は今の俺にとっては高級料理と同じだぞ。

「……あ、あの、一つ質問良いですか?」

「ああ?」

「ひぇっ!?そんな恐い顔で睨まないで下さい」

「睨んでねぇよ。これは多分生まれつきって奴だ。で、質問とは?」

「ずっと気になっていたのですが、あれは何ですか?」

天井に吊るしてある「ファイターグローブ」俺のヒーロー時代の仕事道具についてギガノが聞いてきた。

「ヒーロー時代使っていたグローブだ。あれを両手にはめて怪獣や星人を殴って倒す。それが俺の戦闘スタイルだったんだよ」

「へぇ……そう、何ですか……あの、その……」

何か他にも言いたそうな感じにしているギガノだったが、中々それから先を口にしようとしない。こっちからわざわざ聞くのも面倒だし、どうでも良いが。

「何だよ?」

「い、いえ、やっぱり良いです。きっと勘違いです。ごめんなさい……」

「そ、そうか」

やっぱり良いって、やっぱ何か言おうとしてたのか。そう言われてしまうと何か気になってくるから不思議なもんだ。

「しかし、貴方がニートだったとは……うんうん。やっぱりって感じです。多分面接に中々受からないのはその恐い顔とちゃらちゃらした銀髪のせいでしょうね。誰だってこんな恐い容姿の男の人を雇いたい何て思いませんもん」

まさかコイツが言おうか迷っていたことってそれか?それなのか?やっぱり良いんじゃなかったのかよ。

このクソガキ、調子に乗りやがって。

この俺様が必死の頼み事をOKしてやったってのに、随分と失礼なことを言ってくれるじゃねぇか。

……少し、お仕置きが必要みてぇだなぁ。

「顔がヤクザとかチンピラみたいですよねぇ……って、あれ?どうしたんですか?ギガノの方に近付きながら指ぽきぽき鳴らして……ひっ、ひぃいいいいっ!止めてくださいっ!痛いのは嫌いですっ!」

すっかりと調子に乗った怪獣ギガノザウルス三世の頭に、げんこつを一発くらわした。

もちろんギガノは大泣きしたが、そんなこと俺の知ったことではない。


















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