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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

女神の世界のハルカちゃん

作者: 満月

ーー転生者ーー



誰もが一度は聞いたことがあると思うその単語。

それは物語であったり、どこかの宗教であったり、とりあえず、現実に存在すると言われて、誰もがすぐに信じられる者ではないし、全く信じられない人だっている、そんな不確かな存在だね。


なんで、急にそんな面倒で堅苦しそうな前提を置いたのかって?

そんなの、このわたし、溝口 遥が転生者で、画面の向こうからこちらを覗く君たちと初対面だから、の一言に尽きる。

て言うか、そうじゃなかったら、わたしだってこんな面倒なこと、いちいち語ったりしない。つまり、ここでざっと主人公であるわたしの説明と、今わたしがいる世界の説明を済ませちゃおうと思った訳だ。

復習も予習もないから、ちゃんと覚えること、OK?


ってな訳で、まずはわたしの説明から行こう。

名前はさっき言ったから良しとして、まずは転生者としての異常な部分のお話をしようか。


現世は、愛の女神によって管理された、イケメン男子が集う地球の、健全な女子校生なわたし。

されど、実は既に一万を越える世界を巡った、スーパー転生者、ハルカちゃんだったりする。

わたしの頭の中には、いっぱい引き出しみたいな部屋があって、各転生ごとに記憶が部屋に詰め込まれている。

最初の世界や特別な世界、特別な人は特に覚えてるけど、ちょっとうやむやな部分もあるんだよね。ま、人の記憶なんてすぐ消えちゃうもんだから、覚えるべきことを覚えてたら別に良いよね。


そうそう、わたしには転生仲間が五人ほどいてね、どういう運命なのか、必ず出会う羽目になるんだよ。

一人は別として、四人とは凄く仲が良くって、それぞれがわたしの萌で、出会ったら一緒にいるのが当たり前になってるし、一緒に世界や国を救ったり滅ぼしたりしたんだよね!

四人とも、凄く大好きなんだ!

え? 残りの一人。あれは無理。たまぁに、利害が一致した時くらいなら、組んでやったりしたけど、なんか苦手だし嫌い。何でも見透かした感じが嫌みったらしくて、出会うことさえ回避したいくらいだね。


あぁ、奴のことはどうでも良いとして、わたしの主な容姿を綴っていこうじゃないか!

ま、容姿って言っても、地味な方だ。平均的な体型に十人並みな顔。黒髪黒目でファッション的にもちょっとくらいしか気を使ってない。

いじめられはしないけど、特に人気者と言う訳でもない。どっちかって言うと、一人行動が多いけど、グループ分けで残ることはない。


別に、友達作るのが下手ではない。こう見えて、情報面に鋭いし、元は誰とでも仲良くなれる、人気者だったりもした。

でも、この世界じゃつい最近、両親を亡くして、今はバイトに追われているから、友達どころじゃないんだ。

いっそ、この世界の法律利用して、都合のいい金づる捕まえた方が楽かもね。


とにかく、わたしは常日頃、バイトに追われている地味な女子高生、って訳だ。


さて、お次は世界観について、さらっと説明していこうじゃないか。


この世界は科学が発展した、君たちが言う現代日本と似た様な世界。だけど、人口の七割が男性でその半分がイケメン。髪の色はカラフル。女神の力が強く簡易した世界になっている。

そして、一妻多夫制で異性同士のキスと言う行為を、とてつもなく重要視しているんだ。


なんで、と聞きたい人は多いよね? ちょっと説明が面倒だから、簡単なシチュエーションを想像しようかな。

これは、あくる学校の廊下で巻き起こった事故だよ。



「きゃっ?!」

「危ねッ!!」


日本のとある学園の踊り場。

進学校の成績発表とだけあって、順位が張り出されたばかりの踊り場の廊下じゃ、今は人がお団子を作ってる。

そんな中、一人の女子生徒が人にぶつかって、体勢を思いっきり崩してしまった。


それを、目の前で見た男子生徒が、咄嗟に抱き留めようとスライディング。

どんな悪戯が、女神の悪戯か……重ね合って倒れた二人の男女。偶然か必然か、その唇さえも綺麗に重なり合っていた。


『ハァイ!! カップル成立よぉ! お幸せにね!!』


天の声かのごとく降り注いだ声に、成績表の前で混雑していた誰もが振り返り、場は静まり返った。

誰もが一言も発せない中、その視線を一心に受けている二人は、唖然とした状態で起きあがり、男子は自らの左手、女子は自らの首もとを見つめ、いや正確には、その左手薬指にされたリングと、首もとに掛けられたリング付きのネックレスを見つめ、お次にお互いの真っ青になった顔を見つめ合い……



と、学園中に響き渡った二つの悲鳴は放置しようか。

え? どう言うこともこういうことも、見たら分かる様に、十三才以上の男女が唇同士のキスをしたら、世界中を見守っている女神様の加護下の元、両者どちらが死去するまでは、絶対に解けない婚姻が結ばれてしまうんだ。

政府への届けやご両親、保護者への連絡は、女神の配下、天使達が行ってくれる、と言う抜かりの無さ。

たとえそれが、お互いの心が通じ合ったキスであれ、片方の一方的なキスであれ、今みたいな事故のキスであれ、唇同士のキスと分類されてしまえば、あの女神は容赦がない。


わたしが考察するに、女神はイケメン男に恨みでもある、または、イケメンだらけの逆ハーレムが好きなんだろう。

女の方はまだましだ。この世界は一妻多夫制。ネックレスなのは、指輪をいくつでも掛けられることからだ。

けれど、男は一度の一人としか婚姻を結べない。だから、女性一人ずつにデザインされた指輪を、一つしかない左手薬指に嵌めさせられるんだ。


しかも、婚姻を結ぶだけあって、生活も殆ど強制される。

婚姻を結んだ男女は、一週間以内に一つ屋根の下に住むことを義務付けられる。その家を主な生活の拠点として置かなければならなくなる。

女はこれだけで済むが、男はそうは行かない。

婚姻を結んだ相手以外の異性と、不純異性交遊を計ってはいけない。手を繋ぐことや友情としての交友は良いが、それ以上は絶対に許されない。

そして、婚姻相手に愛のない肉体的な暴力は禁止されている。相手が死ねば解放されるなんて、知恵を働かす輩もいるからね。


それは法律にまでなっていて、女神達に常に監視されているので隠れても無駄。そして、その罪の罰を下すのは女神であり、どんな内容かは知らないし、知る由もない。唯、地獄だとか、二度と浮気は出来ないとか、とにかく恐れられているんだ。


いやぁ、ここまで、自分が女で良かったと思ったことはない。

この世界に置いて、男は女に勝てない。常識がそうだし、考え方もそれが普通なんだ。

相手が姿なき女神でなかったら、反乱やら革命やらが起きても可笑しくない。実際、この状況が可笑しい、って騒いだ男達もいたみたいだけど、女神相手じゃどうしようもなかった。その男達は地獄を見た。

そんなことが歴史の本に載ってるのは、女神に刃向かう様なこの世界にとっての愚か者が出ない為、だろうね。


女神はどこまでも、男達に地獄を見せたくて溜まらないらしい。

これが一万年も続いた世界なんだから、よっぽど深い憎悪を持ってるんだろう。ま、そう言う類を引きずるのを止めたわたしには、絶対にわからない感情だ。


現在の男達の幸せの掴み方。それは、どうやって女から逃げるか、どんな女を選ぶか、だ。

女神の考えはどうであれ、この世界にはいろんな女がいる。女神に同意して、男を見下す女もいれば、男に同情して利用される女もいる。健全な恋愛をする女もいれば、恋愛に興味のない女もいる。

そんな女達の中から、自分の唇を守りながら、いち早く選び抜き、一生に一度の選択である婚姻を結ぶこと。それが、この男には生きるのが辛い世界で、彼等が選んだ道だった。




「と言う訳で、遥。大人しく利用されて貰えるか?」


そう言って、昼休みに入学最初のテストの成績表を見終わってから、生徒会室に呼び出されたわたしに、入った瞬間に壁ドンしているのは、初めましてであり、久しぶりでもある、この中高一貫の栄光学園の中等部生徒会長にして、この学園の学園長で世界五大財閥の一角、大道寺家の長男、大道寺 蓮様であった。

切れ長のルビーの瞳に、さらさらな漆黒の黒髪。どこぞの王子様を思わせる彼は、状況にも容姿にも似合わず、とても切羽詰まった表情をしていた。


「いつから蓮くんってば、新入生の女子生徒を襲う様な人になっちゃったのかなぁ? せっかくのイケメンさんなのに、ハルカ、すっごく残念!」


いつもの調子でにっこり笑顔を返せば、彼は、いや、彼等はどこか頭を抱えた様子。


「僕達もやりたくてやってる訳じゃないです。唯、蓮の結婚が間近に迫っていて、後がないんですよ」

「女子の攻めが強すぎてやべぇんだ。自室と生徒会室でしか気がぬけねぇって、どんな戦時中だっての」

「わたし達、遥しか宛がないの。お願い。助けて」


いやぁ、確かに男には同情したさ。ついでに、彼等の正体に関しては、昨日の入学式で見抜いてた。彼等の言い分も分かるし、仕方ないとも言える。唯さぁ……


「ハルカ、トラブルには極力、巻き込まれたくないんだよねぇ」


どう見ても、女子競争率の高いであろう、我が転生仲間達。

わたしは平和主義者。虐められるのも妬まれるのも避けたいところだ。


「どの口が言うんですかね? 自分から首突っ込んでトラブルに巻き込まれに行った挙げ句、確実に人のことさえも巻き込んで行こうとする、トラブルメーカーさん」


そんなわたしの返答に、副会長 佐伯 静香様は、それはもう冷たい笑顔を浮かべてくれた。

銀髪にブルーの瞳。眼鏡が良く似合ったお方だ。線が細くて中性的。綺麗、と言う言葉が表現に合ってるかな。


「えぇ? いつのことかなぁ。ハルカ、分かんなーー」

「戯れ言は良いんで、大人しく唇奪われたらいいんですよ。蓮、さっさとやれ」


うわぁ、これメッチャキレてる。背後で絶対零度を纏ってるよ。


「し、静香! さすがに、無理矢理はいけない! 遥の意思の尊重をーー」

「ついこの間、うっかりあの中二病我が儘女に唇奪われそうになった馬鹿も、黙って従ったらいいんですよ。僕がいなければ、十三才の誕生日早々に、人権失いそうになったバ会長が」

「ヒッ!!」


わたしを解放して、いざ副会長様改め、ドSな女王様に突撃するも、逆に壁ドンされて脅かされた挙げ句、半泣き状態で座り込んだバ会長を見て、わたしは情けない、と内心で笑う。

いやま、蓮の警戒の無さは今に始まったことじゃないし、同じく静香のドSぶりも昔からだ。


「それに、僕の気持ち、少しは考えて貰えます? 何が嫌で、この僕があの我が儘女が好きだなんて、周りに勘違いされなきゃいけないんですか。貴方がはっきり断ってーー」

「……え?」

「?」


完全なお説教モードなドS女王に、バ会長は大きく目を見開き、その反動で涙は零れた。

驚いているのが丸分かりな表情に、女王様は怪訝そうに眉を顰め、


「“勘違い”、だったんだ……」


その酷くホッとして呟いてみせる、バ会長を前に、生徒会室はシィンとそれはもう、静まり返ってしまった。

いやぁ、ここまで救いようがないか。まぁ、このバ会長の鈍感っぷりと、自己評価へのネガティブ度もいつものことだけども。


「そうですか、そう言うことですか。ええ、ええ、分かりました。分かりましたよ、貴方がどんな風に、この世界で僕を見てたのかが」

「えっ?! あ、い、いや、私はやっぱり、静香が好きで……静香がいない未来など、考えられないけれど、静香は麗華みたいな女が良いのかとーー」

「そうですか。じゃあ、返答は別室で、その体に叩き込んであげますよ、蓮」

「……ふぇ?」

「遥、今日のところは見逃してあげます。出来るだけすぐ帰ってきますんで、会議室はくれぐれも、覗かないで下さいね」

「お、おい、静香?!」

「ごゆっくりぃ」


わたしはこれから確実に、欲求不満で苛立ってるのもある女王様、もとい副会長様の餌食(自業自得だし、いつものことなので)になる、 救いようのない自己犠牲心溢れたバ会長を、 にっこり笑顔で見送ったのだった。

扉が閉まった次の瞬間、中で物凄い物音がしたし、誰かの悲鳴が聞こえたけど、まぁ、いつものSMだからいいね。


あぁでも、覗けないのはちょっと勿体ないかなぁ。とはいえ、下手に関われば確実に唇奪われるだろうし、危険物に果てを出しちゃいけないよね!


それはさておき……


「ほらっ、由紀、あぁん」

「あ、あぁん……」

「どうだ?」

「おいしいよ、輝。……ね、ねぇ、わたしも、していい、かな……」

「ん?」

「え、えっと、い、今、輝がしてくれた……こと。わ、わたしも、輝に、してあげたい、の……」

「ッ?! えっ、あ、い、いやーー」

「あ、あぁ、ご、ごめんね! 嫌、だよね……」

「そんなことねぇよっ! 寧ろ、ッ!! そのっ!!」


甘い。相変わらず、このバカップルの甘々さには、少し憧れを抱く。あんだけ転生しといて、未だにキス以上、進められてない初カップル。さすが、聖女と騎士だ。隣にあんなR18カップルがいながら、どこぞの少年少女マンガ並な純潔を貫き通してる。

しかも、見た目が赤毛の強面ヤンキーと金髪ふわふわ小動物だから、違和感だらけだ。まぁ、お互い真っ赤でギクシャクしながら、周りの空気総無視で一つの弁当を囲んでる姿は、どこをどう見ても初カップルだけど。


「ハルカにもお弁当、ちょうだいッ!」


ってことで、そんな甘々カップル、生徒会会計の立花 輝と、書記の松山 由紀の間に割り込み、わたしはにっこり笑った。


「あ、遥?! え、えっと、い、いいーーl

「待った! 唯で貰えると思うなよ、遥」

「えぇ……」


由紀が差しだそうとしたのを、この弁当を作った本人、輝がストップを掛ける。


「大体な、お前、手ぇ洗ってないだろ。この世界のルール上、挨拶せず摘み食いしようとするのも、立ったまま食べようとするのも行儀悪い!」

「うんうん、相変わらず、お母さん並の注意どうも! どうせ、食べさせてくれないんでしょ?」

「お前が俺らと結婚してくれんなら、毎日朝昼晩作ってやるよ!」


くぅ、さすが、わたし達の生活費を管理してきた主婦様だ。唯も無駄遣いも受け入れちゃくれない。とはいえ、


「ハルカ、今月は食費削ってて……お昼ご飯……」

「そ、そんなに大変なの?! 輝……」

「えっ……い、いや、けどよーー」

「結婚のことも大事。だけど、お腹空いてる人を放って置くなんて……」

「うっ……」


このお母さん、騎士なだけあって、ご主人様に激弱なんだ。

そして、そのご主人様は聖女様。困ってる人を放っては置けない根っからの善人。

つまり、聖女様さえ味方に付ければ、このお母さんもとい、騎士様は墜ちる。


証拠に、騎士様は涙目な上目遣いでお願い姿勢な、とんでもなく加護感を誘う聖女様を前に、物凄く怯んでいる。このまま押し切れば、お昼ご飯をタダで貰えーー


「あれ? 懐かしいのがいるね」


後ろで開いた扉。その聞き覚えのない声だけど、発言から予想できる相手に、お腹が空いて溜まらない演技を披露していたわたしは、思わずゲッと声を上げてしまった。


「やぁ、遥。再会頭に、その反応は相変わらず、元気にやってるみたいだね」

「そっちこそ、相変わらず腹立つ顔してるねぇ、わたるくん。出来れば、二度と会いたくなかったなぁ」


すぐさま切り替え、にっこり笑顔を向ければ、奴は爽やかさを身に纏った様な笑顔で迎え撃っていた。

相変わらず、何を考えているのか分かんない目をしてる。見た目は藍色の髪にペリドットの瞳と、普通ならため息が出るくらい良いのに、ホントこいつは苦手だ。


「オレだって、再会したくて来た訳じゃないよ。仕事で用があっただけ」

「風紀委員長様なんだっけねぇ。すっごく似合わない」

「そうかい? まぁ、生徒会と同じくらい、目立つ仕事だからね。裏の仕事に慣れたオレには、ちょっと表舞台に出過ぎかな」


笑顔を崩さない奴、風紀委員長、園田 わたる。わたしにとって、最大の天敵であり、大ッ嫌いな奴だ。


「そうそう、静香は……お取り込み中みたいだね。じゃあ、待たせて貰うよ、輝、由紀」

「どうせ、来月の新入生歓迎パーティの件だろ? 用件言ってくれりゃ、俺らが言っとくぜ」

「いや、丁度、良かったんだ。すぐ戻ってくるだろうから」


笑みを崩さず歩み寄った奴は、平然と輝のお弁当から卵焼きを抜き取り、流れる様に口に入れ、ってあぁッ!!


「ズルいッ! ハルカも食べ、ンウッ?!」


完全に気を抜いていた。わたしはバカだ。そう、バカだった。そして、


「目立つといろいろ、周りが煩わしいんだよね。ってことで、存分に隠れ蓑として利用させて貰うよ、遥」


人の口の中に、口移しで無理矢理押し込み食べさせた挙げ句、平然と微笑みかけてくる奴は、マジで最低野郎である。


『あらあら、これはまた、面白いカップルねぇ。まぁいいわッ! カップル成立よ!』


頭上から落ちてくる声。首もとに覚えた違和感。それが何なのかなんて、見るまでもない。

わたしは左手薬指を眺めている奴を、思いっきり睨み付けた。


「ホンット最低ッ!! 大ッキライ!!」

「知ってるよ。ずぅっと昔から、ね」


分かっている。こいつにはこれじゃまるでダメージがない。

だから、もっと腹が立つ。ホントに腹が立って仕方がないんだ。


「……そう言うことですか」


開いた会議室の扉。顔を出した静香は、少し着崩した制服を直しながら、現状を見て呆れた声を漏らす。

さっきの天の声は当然、隣にも響いたんだろう。その背後に、見るからに激しい遊びの後の会長がいるけど、今は無視で良い。


「あ、静香、この資料、しっかり届けたからね」

「分かりました。けど、うちのトラブルメーカーを煽らないで下さい。暴走が激しいんですから」

「クスッ、大丈夫だよ。お前達がいるし、オレもそっちの方が楽しいからね。んじゃ、詳しい今後はまた今度、ね」


目の前でそんな会話を交わした後、奴はわたしを横目に部屋を出て行った。

引き留めなかったのは、現状の腹が立った自分では、奴を楽しませるしか出来ないと分かり切っているからだ。ホント、大嫌い。


「遥、大丈夫?」

「大丈夫だけど大丈夫じゃないよぉ。あいつ、いつか絶対、ハルカで利用したことを後悔させてやるんだから!!」

「ハァ……遥、落ち着けよ。弁当やるから」

「食べ物で気が収まるなら、こんなに腹立ってないよぉ、だっ! まぁ、あんなの今に始まったことじゃないし、大事な昼食を逃すことはしないけどねぇ」

「もう吹っ切れたと思いますし、貴方達を二人だけで暮らさせる訳にも行かないんで、後で僕達とも婚姻を結んで貰いますからね、遥」

「りょうかぁい。元々、拒否る気なかったしねぇ。それより、蓮は大丈夫ぅ?」

「な、何とか……だが、今は寝かせてくれ」

「……腰きつそうだねぇ。あれじゃ、午後の授業はダメそう」


ぐったりして会議室の床に寝転がっている蓮。

あの短時間で何Rしたんだか。静香も容赦ないね。


わたしはもう行儀など気にせず、お弁当を摘み食いしようとしながら、さすがR18カップルだと感心する。と、お母さんから尽かさず手をペチンと叩かれた!


「遥、食べて良いけど、ちゃんと手ぇ洗って座ってからだ。蓮、お前の分ちゃんと残しとくから、後でちゃんと食べろよ。飯は三食、しっかり食べなきゃいけねぇんだから」

「あ、ああ、助かる……」

「別に、一食くらいなら抜いても良さそうですけどね」


静香は奴が机の上に置いていった資料を眺めながら、ぽつりと呟く。聞き流しても可笑しくない声に、鋭く反応したにはやっぱり、お母さんだ。


「静香、お前は特に抜くなよな。放っとくと、軽食しか取らねぇんだから、この仕事人間が」

「はいはい。分かってますよ。とりあえず、午後の授業の間にはちゃんと取りますから、僕の分も残しといて下さい。あれを置いてく訳にも行きませんから」

「なら、手加減してやれよな。それと、“はい”は一回だ。一応、ノートも借りてきてやっから、ちゃんと復習しろよな。転生してるからって、授業がまるっきり同じって訳じゃねぇんだから」

「貴方のその世話焼き好きは、いつまで経っても気に入らないです。どこのお母さんですか、貴方は」

「やりたくてやってるんじゃねぇっての! お前のその狂いまくった体内時計が直りゃ、俺だってとやかくは言わねぇよ」

「心外です。仕事の予定は故意に狂わせたことはないですよ。貴方の方が狂いっぱなしです。プライベートばっかり、規律正しくて本当に迷惑ったらありゃしない」

「お前みてぇに、仕事詰めまくって倒れちゃ、本末転倒じゃねぇか! 少しはしっかり休むことを覚えろ」


お互いに一歩も退かない言葉の応酬。相変わらず、この二人は平行線を歩み続けている。

一回始まったら止まらない。まぁ、いつものことだ。お互い、絶対にあわないことも分かり切った上で、ストレス発散がてら言い合ってるに過ぎない。


「相変わらず、あの二人は仲が良いな」

「クスッ、そうだね。あ、蓮。床に寝転がってちゃ、そんなに休めないと思うから、仮眠室に行こ? 立てる? 手を貸すから」

「ああ。助かる」


喧嘩や争いを好まない二人がスルーしているのは、それが分かり切ってるからだ。

わざわざ、止めに入ったりして、あの二人のストレス発散に巻き込まれるなんて御免である。静香は仕事上、輝はプライベート上、個人的に頼られることが多い上、引き受けたら最後までやり抜くから、ストレスが溜まるんだ。

そのストレスをぶつけ合えるのが、お互いだけ。他に向けられると、いろいろと後がヤバいからね。


静香と輝が言い合いに夢中になり、蓮と由紀が別室に移動する中、わたしはお弁当をここぞとばかりに摘んで行く。

結婚したらいろいろと面倒なことになるだろう。大道寺家の問題はもちろん、女子たちも黙っちゃいない。けどま、その程度なら別に問題ない。寧ろ、大好きな四人が幸せにならない方が大問題だ。

人生は楽しく、幸せになる為にあるもの。やりたいことやって、楽しければそれでいいんだ。


この先、どんな運命が待ちかねていようと、楽しくやっていこう。四人が幸せなら、わたしも幸せになれるから。


何より、これで生活費が浮いて、家事に食事をやんなくて済むし、自由時間が増えてホントラッキーだ。

これからが楽しみ!



さて、これで説明終了ッ!

この世界や状況は、もう伝わったよね? 伝わってない人は一から読み直してくるといいよ。


まぁ、この物語はこんなわたしが、いろんな男性に出会い、キスするまでの波瀾万丈でハッピーエンドな人生を描いた、後に世界中に広がる悪女伝説の序章に過ぎない。あぁ、勘違いしないで!

わたしにアプローチする人はいたり、わたしの萌と癒しは求め続けるけど、わたしが一人と恋愛するなんてことはあり得ないし、あくまでわたしは利用されるだけだから!

処女だって失う気ないし、子どもなんて気が向いたら、作ろうかな程度。まぁ、相手が望むなら産んであげなくもないけどね!


え? 続きを君たちに語るのかって?

うぅん、まぁ気が向いたら方ってあげるよ。

それじゃあ、バイバイッ! 一応、またねッ!!

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