「こんばんは、私......どうやら最弱霊らしいのです」
奇跡的に今回文字数が普通ですよ、いや、ほんと。
......いやはや............
恋愛ってものは実に大変ですよねぇ......最近大変思わされます......
......はい、こんばんは。
私......皆さん大好き、幽崎霊司で御座います。
「......っ......って痛い痛い痛いっ!」
......相変わらず無表情での厳しいツッコミですねぇ、死神様は............
......ちょっと......本当ちょーっとでも調子乗ると、すーぐ抓るんですから............
もう最近ですと......
私............
......この痛みに快感を覚え初めて来ちゃいましたよ!
あぁ......なんとも言えないこの痛み............
容赦なく爪を立て............
肉を剥ぎ取るかのように私の横っ腹を抉りに抉る細い指先............
抓った後に僅かに残る、じーんと来るあの熱きパトス............
......最近の私の掛け替えのないご褒美ですっ! ありがとうございますっ! 死神様っ!!
「......えっ......いやっ......あんっ......それ以上はっ......あ......っ......あぁーーー..................」
◇
ーー大変お見苦しい姿をお見せしてしまいましたね......失礼致しました。
さて、幽霊ライフを始めて、早四日となりました。
四日も経過しているというのに......
私......あまりにも進展無さ過ぎじゃありません?
これ......特に何するわけもなく......あっと言う間に一カ月終わっちゃいそうなんですけど!?
いやぁ......、それもこれも全て行動を起こすのが遅過ぎる私が悪いのは認めるには認めるんですけどね............
如何せん......私の行動出来る時間が少なすぎるというのが問題なんですよね......いや、ほんと。
実は......幽霊さん達には、私も含め......皆さんそれぞれ霊力というものが存在するらしいのです。
で......どうやらこれは、生前の未練の強さによって変わるらしいんですよ。
その強さにより、行動出来る時間、行動出来る範囲、そして......霊力を使った超常現象を起こせるらしいのです。
まぁ、例えばですね......
念を込めて無理矢理カメラのフィルム越しや鏡越しに実態を写す......
念を込めて電気信号を弄って声を届かせる......
また、強い霊力になってくると念を送って物を直接触ったり動かしたり......
まぁ生前に幾度となくテレビとかでも周知されていた心霊現象を起こせるわけなんですがね......
どうやら私......
そんな素敵な能力......
悲しいかな......微塵もないらしいんですよね......いや、ほんと......。
いや......私だって死神様に言われた時には「そんな馬鹿な」と鼻で笑ってあげましたよ。
まぁ、当然死神様にはご褒美を頂きましたけどね......はぁはぁ............
......ではなくて、私だって念力みたいなものの一つや二つ......幽霊になれたのだからと諦めずに信じていましたよ......
何度か念を送りました......
必死に送り続けました............
上がれぇ......上がれぇ......捲れよぉーー............って............
しかし......私のそんな熱い想いは............届きませんでした............。
いくら強い念を込めたところで......
ひらひらと揺れる......あの......綺麗な太股を揺らめいては隠す......なんともエロティカルなあの布切れを............私には......出来ませんでした......。
そこに眠る神秘を......私は遂に知ることは......ありませんでした............。
今思い出すだけでも......本当......哀しい限りです......いや、ほんと......。
まぁ......その変わりといってはなんですが。
私......どうやら他の幽霊さん達と違って......はっきりと生身の方達に見えるそうなんです。
霊能力をお持ちの方も、お持ちでない方も、皆さん全て等しく、私の姿が見えるらしいのです。
なんたる幸う......んじゃないんですよね......これが............
私生前思っておりました。
もし死んで幽霊になったとしたら......どんなことをしようなと......
......私が思った事は、唯一つ!
それは......
『必ずや女風呂に住み着いてやる!』......と。
そんな男なら誰もが憧れる夢を抱いていたのです......が............
せっかく幽霊となれたというのに......
姿が見える......そのせいで......
私の夢は儚く散ってしまわれたのです............ノーーー!!
な・の・で!
私はヤケクソに綺麗なお姉さん方にお声を掛けていたというわけなんですよ......はい。
閑話休題。
霊力によって行動時間も行動範囲も限られるわけで......
どうやら私......その霊力が最低値らしいのです......。
そのため......この場所から半径百メートルの範囲しか行動出来ないのです......
更に行動出来る時間は......なんと深夜零時から二時までのたったの二時間しかないのです............
こんなこと......ありえますか? ありえませんよね?
なんですかこの拷問は? これでどうやって私は彼女を作れと言うのですか?
教えて下さいよ? 死神様ー!?
いや......でも......まだ......、まだ......いいですよ......、行動時間は............。
だが......しかし............
......行動範囲は酷すぎます!
なんでそんなの決められないといけないのですか!? 自由にさせて下さいよ!!
私の生前夢だった女湯覗きはもちろん出来ません......
そして......黒美様の下に行けないじゃないですか!?
いや......まぁ......死神様の仰りたいことはわかるのです。
昨日、私があまりにも恍惚とした表情で黒美様を見過ぎてしまったためか、どうやらもの凄く警戒されて......
しっかりきっちり範囲百メートル以上の場所に移動されてしまわれたのです......。
これでは......どうやったら黒美様の冷たい眼差しを味わえるというのですか!?
......ではなくて............
どうやったら私と黒美様との恋を育めというのですか!?
あぁ......あなたが遠いです............
あぁ......あなたが恋しいです............
これが......
この気持ちが............
......恋なんですね。
逢いたいです......
逢って......その美しいお顔が見たいです。
逢いたいです......
逢って......その涼やかなお声が聴きたいです。
今は唯......
私は......そう想うだけです............
......いやいやいや、死神様。
何ぼーっと火の玉を眺めてるんですか?
私の切ない切なーい想い......聞いてましたよね? 聞いていらっしゃいましたよね?
だ・と・し・た・ら! 普通は、
『あぁ......しょうがない。その想いにやられたよ。今回だけ特別だぞ? 私が白川さんに話を通してあげよう』
......とか、なりません? なりませんか!? それくらい協力的になって下さってもいいじゃないですか!?
......えっ? ......何? ......そんな面倒臭い事誰がするか? お前馬鹿じゃねぇのか? いや......お前は途方もない馬鹿だったな、ごめん。忘れてた。とりあえず私はその件に何も手を出すつもりはないし、関わりたくもない。だからこっちにその気持ち悪い顔を向けるな......ですって......?
......いやぁ......あのぉ......死神様......? 私......何か......しましたか......? ......今日の死神様......ちょっと......私の鉄のハートを持ってしても......心傷中の身としましては......かな~り、落ち込みますけど............
そんな私を強い眼光で(仮面してるからわかりませんが、たぶんそんな感じだと思います)、再び私の横っ腹を抓って......どうやら行動時間の限界が来たようです......意識が霞......黒美様とお話せずまま......今日一日が終わります............
一日何もなく......唯一つ、死神様のよくわからない挙動があるだけで......私の余命(?)残り二十六日。
霊司さんの恋愛物語はいつ始まるのでしょうか......?
それに死神様は突然いきなりどうされたのでしょうね? 女の子特有の日ですかね? ......いやいや、死神にそんなものないだろ? ......ってか女だったのか?
謎は深まるばかりです......いや、ほんと。