「こんばんは、私......現実を見せられてしまいました」
一際大きく聳える柳の木の下......そこで私とあの人は運命の出逢いをしました。
始めの出逢いは最悪......しかし、次第にあれ? なんで? どうして? 私......いつの間にか......好きに......
そうして二人は結ばれる......大道の恋愛物ですが......
いいですねぇ~。私もそんな恋がしたい。そう、思っていたのですがね......
そんなもの実際には有り得ない! そう私は断言します! はい! いや、ほんと。
先日......いや昨日の話になりますかね。
恋い焦がれ、出逢いを求めていた私の下に、突如として現れた、一輪の華。
白い着物を着て、黒くてサラサラの綺麗な髪。眦が吊り上がった狐眼。その眼から伸びる、黒くてカールした長い睫毛。鼻筋がすーっと通った白くて綺麗な横顔。
そんな美しきお方こそ白川黒美さんでした。
当初、私は勘違いしておりました。
いえ、それ以前に完全に恐怖しておりましたね。
だって......幽霊ですよ? 恐怖しない方がどうかしていますよね?
......えっ? だからお前もその一人だということをいい加減理解しろ......ですって......?
いえいえ......、こう見えても私、そこはしっかりと理解しておりますよ?
いえ、だって......私がお声を掛けたお嬢様方はみーんな等しく......私の姿を見たら脱兎の如く逃げ出すのです......
その姿を幾度なく見せられ続けられた私は......
器の大きさには定評があった私ですが......
そんな私の鉄のハートは......
完全にぎったぎたに傷付けられてしまいました。
......それはお前が手当たり次第に声を掛けてることが悪い......ですって?
いや......確かに......私も......そうは思いましたよ......
けれど......
それでも私だって必死なんです!
だってそうでしょう?
私が消滅してしまうまで猶予はたったの一カ月しかないんですよ!?
それまでに彼女を作りたいじゃないんですか!?
彼女とキスしたいじゃないですか!?
彼女と......あんなことやこんなことだって......
......って......え? それも幽霊と生身の人間じゃ無理じゃん......ですって!?
なぁーにを夢のない話をしてるんですかこの人は!?
......ん? 人ではなかったですね、失礼。
......じゃなくてですね!
もーしかしたら触れ合うことだって出来るかもしれないじゃないですかー!?
『そこに、愛があれば何でもできる!』
誰かがそんなこと言っていたと私の記憶がそう仰ってますよ!
だから私は諦めないのです!
絶対にちょめちょめするのです!
死神さんが一々突っ込むからだいぶ話が脱線してしまいま......はい、私が悪いです......本当に、本当に申し訳御座いません。
いや......この身体になってからつい熱くなってしまうのですよ?
昔は常に冷静沈着なクールビューティーが売りだった私でしたのに......でしたのに......でしたのですよ......? ......きっと............
それでですね。
とにかく、幽霊なんて得体の知れない存在......怖いのです!
絶対に無理なんです!
ゴキブリ平気な方なんて居ませんよね? それと同じなんですよ!
考えてもみて下さい。
突如としてゴキブリになってしまったとします......
さて......ゴキブリになったのだから......ゴキブリと愛を育もうではないか......
――
――――
......無理でしょう!!
それと一緒なんです!
それくらい怖いことなんですよ!?
そんな得体の知れない幽霊さんと仲良くおしゃべり......考えられませんね! 悪寒が走ってしまいますよ!
ましてや......恋人?
そんなのあれですよ......きっと恐怖で死んでしまいますよ、いや、ほんと。
それに幽霊は幽霊であり、生身の人間のような美しさなんてものが存在するわけがないじゃないですか?
みーんな貞○さんみたいな感じでしょう?
そう......。私は近付いてくる彼女を見ながら恐怖し......そう思っておりました。
しかし......
「なん......です......とっ......!?」
私はあまりの衝撃により、ついつい言葉が漏れ出していました。
彼女は......何もかもが根本的に違ったのです。
今まで私がお声を掛けてきた、どんな綺麗だと思われる生身の女性達......そんな方達が霞んでしまう程、何処か妖しげて艶やかさが薫る美しさ。いや......そんな言葉だけでは到底説明出来ない程の美しさが彼女にはありました......いや、ほんと。
私はつい先程まで抱いていた恐怖は何処へ行ってしまったのやら......?
ついつい私は彼女に見惚れてしまっていました......
そして......気がついたら彼女へとお声を掛けていました。
まるで、いつも綺麗なお嬢さん方に声を掛ける、普段の乗りで......
しかし、私は既に決めていました。
”この方と絶対お付き合いしてみせる”
そう心に抱いて......
私は最悪な出逢い......いえ、ここは最悪な印象と表現をした方がいいですかね......?
そんな最悪な印象を抱いていた相手に恋に落ちる......
いや~いいじゃないですかぁ~いいですよそれ~!
私は見事この恋を成就してみせますよー!!
しかし、現実というのはそんな甘くなかったのですよ......いや、ほんと......
回想してるだけで私の余命(?)残り二十八日。
あらあらまあまあ、黒美さんとの恋愛模様を描く前に終わってしまいました......残念......いや、ほんと。