「こんばんは、私......出逢っちゃいました」
さてさて、そういえば先程から私、妙に誰かと喋っているような気がしませんか?
気になりますか~?
気になりますよねぇ~?
「......って、あぁー痛い痛い痛い。止めて下さいよ、そうやって直ぐ抓るの? 赤くなってはいないですが意外と痛いんですよ?」
はぁ、やれやれ......もう......困ったものですねぇ......
それでですね。
こうやって私を先程から無表情で抓ってくる存在、彼なのか彼女なのかも仮面を付けててわからない存在がいるんですが、この方......何も喋らないのです。
ずっと終始無言で私の傍に張り付いて、一行に離れてくれないのです。
あぁ怖い怖い......
「......っていたたたたっ! ほんと止めて下さい。もう馬鹿な事は言いませんので。どうか、どうか、お許しを......」
いやいや、話が進みませんねぇ......
......えっ? 私が悪い? いやいや、それはちがうで......はい......全面的に私が悪いです。間違い有りません。
はぁ、それでですね、この方......終始無言なんですが......テレパシーって言うんですか? 直接脳に言葉を伝達してくるんですよ。いや、ほんと。
そもそも私には既に脳はないのですがね、おほほほほほ~。
さてさて、それでですね。
こうやって先程から繰り広げている私の脳内での構想にこの方、勝手に割り込んで来てはテレパシーを送ってこられるのですよ。
本当に恐ろしい存在......いえいえ、素晴らしいお方でございます。はい、誠を持って本当に。
そして、この方のテレパシーによりますと......どうやら私の余命は後一月らしいのですよ......
......って、そもそも死んでるのに余命ってどうゆうこと?
それに、そんなことを告げるあなたはいったい全体何者......!?
......って感じわけですがね。
まぁこの方曰わく、族に言う死神って奴らしいですよ......いや、ほんと。
それで、上からの命令で私の残り一カ月の幽霊ライフを見守る役を担ったらしいのです......
いや~......縦社会って大変ですねぇ~......
......と、まぁ......一月で存在自体が消えるというわけですがね......残念ながら......
しかし......その後私はいったい......どうなるのでしょう......?
......そんなこと考えると恐怖で震えてきてしまいます......
......これでも私......一応幽霊やってるんですがね......?
......まぁ......ですので、とりあえず私はこの一カ月。
せっかく与えられたのです。有効活用しようと思っているのです!
それが先程も述べた、彼女を作るということなのです!
私は諦めませんよぉ~。
絶対に素敵な彼女を作ってみせるのです!
そのためには行動あるのみ!
手当たり次第に声を掛けまくるのです!
まぁ......その結果......先程のように怖がられてしまって逃げられてしまうのですがね......はぁ......
......えっ? そもそもがおかしい......ですって? 何がおかしいと言うんですか?
何々......幽霊である私が、生きている女性と恋愛出来る訳がない......ですってぇー!?
なぁーにを仰るんですかあなたは!?
生きている女性以外誰と恋愛しろって言うんですか!?
......もしかして......
......もしかしなくても............
......幽霊と......恋愛しろと......言うんですか?
......うん......ってあなた......
何真顔で言ってるんですかぁ!?
いや......仮面を付けてるので実際の表情はわかりませんがね......
......それでもその仕草、所作で私にはずばっと丸分かりなのですよ! いや、ほんと。
そもそもな話ですねぇ、あなたは私が幽霊と恋愛出来るとでも言うんですか?
有り得ない有り得ない。
例え死んでもそんなこと有り得ません......
って既に私、死んでしまっているのですがね?
それでもですねぇ、私にも得意不得意があるのです!
私は大の怖い物苦手なんです!
幽霊って何ですか!? ホラーって何ですか!?
そうゆうの本当無理なんです。勘弁して下さい......
......ほらほらほらほらぁ............
こ~んな怖いことばっか考えてるからですよぉ............
そうゆうの考えていると見えてしまう......って言うじゃないですかぁ............
......ほら......今......あの木の陰からそーっと......こちらを覗く、如何にも幽霊って方がいるじゃないですかぁ......!?
どうしてくれるんですか?
私......恐怖で固まってしまって......動けなくなってしまいましたよ............
......ほら......そうこうしている内に......
......ゆら~......ゆら~っと......
......白い着物を着た長い黒髪の方が......
......その髪で顔を隠しながら......
......こちらに来ちゃったじゃないですかぁーー!?
◇
「こ、こんばんは~。私、幽崎霊司でございます」
「あっ......はい、こんばんは。私、白川黒美です」
......はい、私にもそんな時期がありました。
幽霊と恋愛なんて馬鹿馬鹿しいと......
しかし、今......
私......
どうやら黒美さんに......
恋に落ちてしまったようです。
こうして私と白川黒美さんとの恋物語がはじまるのです。
......ですよね?
私の余命(?)残り二十九日。
さぁ、霊司さんの物語が開始しました。