通常食、始めました
一歳半が過ぎましたよ!
今日の私はテンションが高め。理由はこれ、これです!
「ティノ! 今日から、私たちと同じご飯、食べるんだよ!」
私と4歳差のお姉ちゃん、モナがニコニコと笑いかけた。その笑みに応えるように、私は最近できるようになった得意の歩きでクルクルと回った。
そう、今日は待ちに待ちくたびれた離乳食卒業デーなのです! ああ、私がどれだけこの日を待ちわびていたか。ようやく、半液体ドロドロ症候群じゃないものが食べられるようになったんです!
ううう、感動で涙が溢れそうだ。「ティノったら、私たちの食事を見ていっつもヨダレ垂らしてるわね。明日辺りから、離乳食も終わりにしようかしら?」っていう、昨夜のお母さんの言葉は本物だったのか。ああ、あからさまに食べたそうに、家族が食事している時に回りをうろちょろしている甲斐があったもんだ。さらば、半液体物流 こんにちは、固形物!
「さー、ティノ。ご飯ですよ~」
コトリと置かれた、野菜スープ。いつもはドロッドロの味なしスープだけど、今日のは違う。ちゃんと味がついた、みじん切り野菜が入ったスープだ。
ワクワクと胸を高鳴らせ、スプーンを握った。
いざ!
「どう? ティノ」
……………………。
「ティノ、美味しい? 今日は、お母さんと私が作ったんだよ!」
……………………ま……
じぃいいぃぃぃぃぃ!!
レロレロォと口から出そうとしたけど、モナお姉ちゃんの「どう? 美味しい?」という可愛らしい笑顔に負け、グッとこらえて飲み込んだ。
なんだこれ、ほんとに野菜スープ? だって、微かな塩の味しかしないよ? 野菜スープだったらさ、もっと出汁が出てて美味しいはずじゃん! それにしても、なんでこんなに薄味なんだ。ありえんっ……素材の味を殺しまくっている。
でも、皆美味しそうに食べてたし。うちの家族、味音痴なの? ……と思ったけど、違うことに気づく。どうやらこの家は小さな町の食堂らしく、毎日「いらっしゃいませーっ」と威勢の良いお母さんの声が聞こえてくる。ってことは、多分、味音痴ってわけではなさそうだ。
参ったなぁ、離乳食からようやく脱出できたかと思ったら、思わぬところで障害があったもんだ。なんでこんなに不味いのか……。でも、しばらくはこのままで過ごさなきゃいけないのか。うぅぅ……。
やっとのこさ、二歳になりました! そろそろペラペラしゃべっても怪しまれない歳だ。うん、そろそろ料理の不味さの原因でも調べましょうか。まずは調味料かな、無難に。
っていうか、まずここはどこの国なんだろう……それによっても色々と調味料が変わると思うんだけど、言語から考えるに、少なくとも日本ではないし、私の知ってる国でもなさそう。世界各国のあいさつぐらいは聞いたことあったけど、そんな言葉は聞かないし。主食は多分、お米っぽい穀物。ってことは、アジアのどっかかな。あ、でも外に遊びにいった時の町並みは、アジアっぽくはなかったな。町の外は危険だからって言われて、まだ出たことがないから、分からないけど。
うん、それはまあ今度聞くとして、取り合えず料理の要、調味料から探っていこう。
「ねぇねぇ、おかあさ~ん」
「ん? なあに、ティノ。貴女の大好きなご飯はまだですよ~」
「んーとね、今日はね……おかあさんのおりょうりしてるとこが見たくて」
「あらあら、嬉しいお言葉だこと! じゃあ、そこの離れたところで見ててね。お台所は危ないから」
はぁい! と元気よく返事をして、側にあった椅子に腰かけた。お母さんは「ティノも見てるし、張り切って作っちゃおう!」と言うと、私に背を向けた。
ふんふん、塩らしき白い粉はとりあえずあるみたい。えーと、それをスープの中に入れて? 野菜入れて? ──鍋の蓋をした。え、コンソメとかそういうのはないの? それで終わり? まっさかぁ……。
「おかあさん、スープはそれでおしまい?」
「そうよ、お手軽でしょう?」
やっぱり。ってことは、コンソメみたいな味付けはないってことか。塩だけで香辛料もないなら、確かに薄味にもなるよなぁ。
コンソメか。前世のうちの店では、全部最初から手作りしてたし、材料さえあればできそう。まずはブイヨンがないと話にならないよなぁ。せめて、香味野菜と、香辛料と、あとはお肉が手にはいればなんとか……。野菜は頑張れば入手できそうだけど、問題は香辛料とお肉だな。お肉は見たことはあるけど、それでも数回だけだし。香辛料なんか見たことないしなぁ。香辛料ってそんなに出回ってないのかな、それだとしたらもっとハードル高い。全く、私はどんな国に生まれ変わったんだか……。なんでも良いから、とにかく美味しいものが食べたい~!
ティノちゃんはまだ異世界に転生したことには気づいていません。ブクマありがとうございます!