プロローグ
この作品は私の別作品「奴隷歌姫の異世界生活奮闘記」の派生作です。不定期更新ですが、見ていってくださると嬉しいです!
私は夢を見ているのではないだろうか。
手にした受験票を何度も確認した。──199番。掲示された番号を目を擦ってから見てみると、やっぱり199番。
「よっしゃああああああああああっ!!」
人目も気にせず、天高々と拳を振り上げた。きた、やた、やった、やったぁ!
料理家の誰しもが憧れる、あの超難関大学、薺場国立料理研究大学。その大学の入学許可を、今日見事に掴んだ。
ああ、勉強に実技に頑張ってきてよかった。食の神保食神様、ありがとうございます! 無事合格しました。こういう受験の時ばっかり信仰してすみません。でも、皆だってそうだもん、大目に見てください。
筋肉に力を入れても、ニヘラニヘラと緩む頬を押さえつつ、家路を急いだ。早く、早く家族にこの朗報を知らせたい。電話で報告したいところだけど、自分の口でどうしても言いたかった。うへへへ。合格のお祝いに名前入り包丁を買ってもらうんだ。どこのメーカーにしようか……悩みどころだなぁ!
合格通知を握りしめて、道路を駆けていった。──と、突如風が吹いた。すると、私の命よりも大切な紙が、手からするりと抜けて飛んでいってしまった。
「あぁっ!?」
無我夢中で追いかけた。──のが、良くなかった。夢中すぎて、今私がどこにいるのかが分かっていなかったのだ。
紙を取り返して、振り替えると。……見えたのは、黒い塊と眩しいライト。
「あ、やばい」って思ったときは既に遅し。ドンッと衝撃をうけた後、後方に吹っ飛ばされた。
動かない体と朦朧とする意識の中、視界の端に赤い液体が見えた。
──そういえば、昔血が出たときに「私の体からケチャップがでた!」って大騒ぎしたこともあったな、そんなことを考えながら、瞼を閉じた。
──っていうのが、私こと糸杉なずなの最後の記憶なんだけど。
死んじゃったかな?って思ったんだけど、多分、生きてる。体がうまく動かせないし、目の前も真っ暗だし、何も聞こえないけど、確かに背中に感じる感触はお布団だ。……固いけど。でも、危機一髪で私は助かったのか。
うわぁ、ゴキブリ並みの生命力万歳! よかったぁ。折角薺場大に受かったのに、通う前に死ぬとかツラい。しかも、卒業したら実家の料理店" Shepherd's purse "を継いで、チェーン店を開店させる予定なんだから! 死ぬわけにはいかん、死んでも死にきれん。
それにしても、なんで何も見えないし聞こえないの? 脳に障害でも残った? 参ったなぁ。
早く学校に行きたいなぁ。美味しいもの作って振る舞って笑顔で埋め尽くしてにやけたい。ああ、早く怪我よ治れ~。