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天ちゃんを追いかけて学校の敷地を出た。彼の家は、学校の近所だ。地元の商店街を抜けたところにある。
「商店街の中をぶらぶら歩きながら帰るんだ」と、天ちゃんはいつも言っていたので、わたしも商店街へ向かった。
駅前の通りにあるファッションビルに到着した。この町では一番、規模の大きなビルだ。CD屋や本屋、マクドなんかが入っている。この間、天ちゃんにもらったクマのストラップも、このビルの中の雑貨屋で買ったものだ。
セール中のせいか、今日に限って人が多い。天ちゃんをつかまえることができるだろうか。置いてきぼり感が募っていく。急激に心細くなってきた。
も~う、天ちゃん。どこにいるんだよ。お願い、早く姿を見せて……。
あてもなく、ぐるりと見渡したとき、人込みの中に、ふと見慣れたうしろ姿が目に入った。すらりと背が高く、薄い茶髪。長い手足。あれは、天ちゃんだ!
「天ちゃん、天ちゃん!」
大きな声を出して、彼を呼び止めた。
「え? わ、えっこ?」
わたしの声に気づき、彼は振り向いた。突然のことで、びっくりしたのだろう。なんか、うろたえている感じがする。
「よかった~、追いついて。大切な用があって、探していたんだよ――」
そして、いつものように彼のところへ駆け寄ろうとしたのだけど。彼と同じようにこちらを振り向き、わたしを待つ人物が他にいたのだ。
……え?
わたしは、言葉を失ってしまった。彼のとなりに立ち、彼と同時にふり返って、わたしを見た人が、とてもきれいな女の子だったから……。
彼女は、雑誌のモデルみたいに華奢で、髪も長く、艶やかだった。潤んだような輝きを放つ大きな瞳。どう見たって、天ちゃんとお似合いのカップルに見える。実際に、ふたりの側を通る誰もが振り返り、「へえ~」とでも言いたげな様子でチラッと見ては立ち去って行くのだ。
「あ、え? えっと……」
彼女は、わたしを見ると、にっこりと笑った。
「こんにちは。天の友達?」
そういえば、あっこが「天ちゃんは一人じゃない」って言ってたっけ……。いつも学校でつるんでいる友達の誰かと一緒だと、すっかり思い込んでいた。こんなにきれいな女の子が一緒だなんて、わたしはちっとも思わなかったのだ。
いったい彼女は何者なんだろう。どうして、天ちゃんと一緒にいるの? あの場所は、天ちゃんのとなりは、わたしのものなのに。それに、彼の名前を呼び捨てにしたりして……。
黙って突っ立っていたら、天ちゃんの困ったような声が聞こえてきた。
「えっこ? どうして、えっこが、ここにいるんだ?」
わたしが天ちゃんを問いただす前に、質問をされてしまった。答えようがなくて、仕方なくうつむく。胃のあたりがジクジクと痛んできた。おそらく、この痛みは後悔だ。そうに違いない。
「今日、えっこと約束してたっけ? してなかったと思うけど……」
こんなことを彼に言わせている自分も、言われている自分も、両方とも嫌だった。今にもへたり込んでしまいそうだ。口を開くと、涙がこぼれてしまうかもしれない。これ以上、天ちゃんに迷惑をかけたくない。わたしは黙って頭を横に振った。
「やっぱ、そうだったんだ。おれ、約束をすっぽかしたのかと思って、ちょっとドキドキしちゃったよ」
彼は、浮気現場をおさえられたことを、ぜんぜん気にしていないようだった。冗談っぽく、そう言う。それを聞いて、わたしはますます悲しくなってきた。なんのために、彼を一生懸命追いかけて走って来たのだろう。
すると、思いもよらない展開が、目の前で起こった。天ちゃんが急に大きな声をあげたのだ。
「いって~!!」
その声にぎょっとして、顔をあげたら、あの綺麗な女の子が、天ちゃんの横っ面を殴っているところだった。
「こら、天晴! なんなんだよ、その言い方! 彼女がわざわざ会いに来たっていうのにさ、どの面さげて言う! 逆に光栄に思え、バカ弟よ」
すさまじい勢いだった。そのかわいらしい顔とは裏腹な、男らしい口ぶり。さっきまで潤んだ輝きを放っていた瞳が、ギラギラとした輝きへと異質なものに変貌を遂げている。
天ちゃんは、赤くなったほっぺを手にあててさすった。
「くっそ~、むかつく。言われなくったって、わかってるよっ。バカ姉貴!」
……は? なんですと?
わたしは、呆然と、目の前で繰り広げられている光景を見守るしかなかった。




