6
天ちゃんのクラスを覗いてみたけれど、彼の姿がなかった。放課後になったばかりなのに、どうしたんだろう。テスト期間だから部活は休みだし。もう家に帰ったのかなあ。
携帯で連絡をとりたくても、校内での使用は禁止だ。先生に見つかったら没収されてしまうから、これ以上どうしようもなかった。あとでメールするしかない。
くるっと回れ右をし引き返そうと思ったら、うしろから声をかけられた。
「あっれ~、お姉ちゃん。こんなところで何をしてるの?」
妹のあっこだった。わたしと同じく掃除当番だったらしく、モップの柄を手にしている。
「あっこ、天ちゃんは? もう帰ったの?」
焦っていたもんだから、思わず声が大きくなってしまった。周りからの視線を感じる。それでも構わずに、わたしはあっこに詰め寄った。
「早く教えてっ。わたし、天ちゃんに話があるの――」
「ちょ、ちょっと待ってよ。お姉ちゃん、何をそんなに慌てているの!」
ちょっとや、そっとじゃ、びくともしない性格の妹が、目を丸くした。
あ、しまった! ちゃんと説明をしないといけなかったんだ。
あっけにとられたように、目を見開いた妹の顔を見て、わたしは自分の中だけで盛り上がっていたことに気づいた。
冷静にならなければ。
大きく息を吸って吐いた。肺を新鮮な空気で満たしたら、頭が冴え渡ったような気がした。
あっこに上手く話ができなくて、天ちゃんにどうやって気持ちを打ち明け、伝えることができるのだろう。本当にバカだよなあ、わたし。
「あのね。昨日、あっこがわたしに言った意味が、やっとわかったんだよ。だから、今すぐ天ちゃんに謝らないと、いけないと思って……」
頭の中に浮かんだ言葉を整理しつつ、ゆっくり口に出した。
あっこは怪訝そうに耳を傾けていたけれど、何かを思い出したかのようにハッとした顔つきになった。
「謝るって、なんのこと? 昨日のことって――」あっこは間を置いたあとに小さく叫んだ。「あー、あれ! キス――」
誰かに聞かれたらヤバいと思ったので、あわてて妹の口をふさいだ。
目で「しゃべるなよ」と合図を送る。あっこは「うん、うん」とうなずきながら、わたしの手を引き剥がした。
「はー、ごめん。つい、びっくりしちゃったもんで」
あっこは気まずそうに苦笑いをした。
「本当、そうだよ。気をつけてよ。ここは学校なんだよ」
「って言うかさ、お姉ちゃんが変なこと言うからでしょ! あたしのせいにしないでよね」
と、同時に顔を見合わせた。
「そういえば、天ちゃん。五分ぐらい前に帰ったよ。でもさ……」
「え~、そうだったの? もう、早く言ってよね!」
というわけで、わたしは再び走り出した。廊下の後ろの方から、妹の声が飛んでくる。
「ちょっと、お姉ちゃん。天ちゃん、一人じゃなかったんだよ~! ねえっ、聞いてる~?」
天ちゃんが一人でいようが、誰かと一緒だろうが、かまわなかった。今すぐに、この気持ちを伝えたかったからだ。
けれど、このあとすぐ、わたしは自分の行動を後悔することになってしまった。




