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公園でしばらく話をしたあと、門限の時刻が近づいてきたので、バスの停留所へ向かった。停留所に着くまでのあいだ、彼は手を握っていてくれた。たくさんの人に見られて照れくさかったけれど、人前でもどうどうと手をつないでいられるのは、彼女の特権だ。すごくうれしい。
家に帰ってからいつでも、これから送る人生においても、今日という日をはっきりと思い出すことができますように。そんな願いを込めて、となりに立つ彼を見あげた。
彼の横顔は夕焼けの色に染まっていて、くりっとした大きな瞳も同じ色に輝いていた。鼻はすうっと筋が通っていて、少し高め。くちびるは薄く、きれいに形が整っている。女のわたしから見ても見惚れてしまうぐらい、くやしいほど滑々としたなめらかなお肌だ。男の子にしておくには、ちょっともったいないかも……。
と、そこまで考えたとき、わたしは密かに身悶えた。
あ~、いやだ! 何を考えてんの。彼が男の子じゃなかったら、恋人同士になれないじゃん。こんな変なこと、ちょっとでも思ったら駄目だよ。絶対、バツ!
妙な考えを追い出すために、ぷるぷると頭を横に振った。
彼が気づいて、こちらを向き、小首をかしげた。
「ん、どうしたん? さっきから視線を感じるけど。おれの顔になんかついてる?」
わたしは焦って片手をひらひら振った。
「ついてない、ついてない。そんなんじゃなくて!」挙動不審な所作を彼に見られてしまった。顔から火が出そうになるほど恥ずかしい。「えっと……」と言いながら、話題をさがした。「あのね、双子なのに、お姉さんと似てないなあって。そう思ってたの」
まさか、お肌のきれいさに感動していたとは言えない。以前、彼から見せてもらった写真を思い出し、早口で言った。
それは十年前の写真だった。小学生の男の子と女の子が並んで笑っている。そのうしろには大人の男の人が立っていて、彼ら二人の肩を抱き、にこにことうれしそうな顔をしていた。現在は別居中の彼のお父さんと、お姉さんなのだそうだ。
「ああ、姉貴のことか」彼は、ぽつりとつぶやいた。「男女の双子は二卵性だからな。ほら、普通のきょうだいでも似てるのと、ぜんぜん似てないのとあるだろう? それとおんなじことさ」
「ふうん、そうなんだ」
言われてみたら、あたりまえのことだった。わたしにもいっこ学年が下の妹がひとりいるが、あまり似ていない。わたしは父親似で、妹は母親似なのだ。彼と、彼のお姉さんも、そういうことなのだろう。
だけど、男の彼でも、こんなにきれいなのだ。きっと双子のお姉さんも美人だと思う。
「に、してもさ。なんで急に姉貴のこと訊くんだよ。なんか気になるよなあ」
「なんでもないよ。ちょっと思っただけ。深い意味はないし」
そう、本当に深い意味はないのだ。その場つなぎの質問だったなんて、今さら言えない。
「ああ、おなかすいたなあ。今晩のごはん、なんだろう。ハンバーグだったらいいなあ」
それを聞いて、彼は思いっきり吹き出した。
「やっぱ、えっこは色気より食い気なんだな。おれ、今ほど感心したことはなかったよ」
などと、意地悪なことを言うものだから、わたしは彼に向かって「ぶうー」と言ってやった。
そのあと、バスがやって来るまで、わたしたちは他愛のないおしゃべりを続けた。




