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彼氏からはじめてもらったプレゼントは、ちいさなクマのストラップだった。耳がまあるくて、瞳が黒くつぶらで、赤いスカーフを首に巻いている。
「ちょっと子供すぎたかな……」と言って、彼は照れ笑いをしたけれど、わたしはとってもうれしかった。時給が少ないといつも愚痴をこぼしているくせに、わずかなバイト料をやりくりして買ってくれたんだもの。彼女として大切にされているんだなあ、と実感がわいてくる。
それに、このクマは、わたしが「かわいい!」「欲しい!」と大騒ぎし、一緒にいた彼を困らせたものだった。先月の雑貨店でのことを覚えていてくれていたのだと思うと、なんだかこっちまで照れてしまう。
「ありがとう。うれしい。大切にする。毎日、持ってるね」
通学用のスポーツバッグから携帯を取り出し、今までつけていたデコスイーツのストラップと交換した。
そうしたら、彼は不服そうにつぶやいたのだった。
「それだけ? ありがとうで、お終い? もっと他にはないの?」
「えっ、もっと他に、って……」
「がんばってプレゼントしたのになあ。それ、有名なデザイナーズ・ブランドとのコラボで、レアものだったんだぞ」
これ見よがしに、わざとらしく声を大きくする彼。
けれども、わたしにはまったく見当がつかなかった。首をかしげて、「え~、なんだろう」と考え込む。
彼が意地の悪そうに眉をあげ、顔を寄せてきた。
「お礼のこと言ってるんだよ。プレゼントをあげたご褒美に、なんかくれないかなあと思ってさ」
「ななな、な、何?」
いきなり顔を寄せてきた彼の行動に驚かされてしまった。心臓がぴょこん、と跳ね、ばくばくと大きく音を立てはじめる。
「お礼なら、さっき言ったよ。ちゃんと、ありがとう、って」
やっと彼の言わんとすることを察して、言葉をつないだ。「だって、それに、人目があるし」
「人目? べつに今、誰もいないよ」
周囲をぐるりと見まわしながら、彼は言った。彼の言ったとおり、わたしたちの座る公園のベンチ付近は、人っ子ひとりいなかった。神様がわたしたちのためにわざわざ用意してくれたタイミングのように思える。
「そっ、そんなこと言われても」
心の準備ができていないし!
すると、彼は突然、困った顔をした。
「まいったなあ。そこまで拒否されると、逆に手え出せなくなるんだけど」
一瞬、言葉が詰まってしまった。なんと言って答えたらいいのかわからなかったからだ。彼が真顔で、わたしをじっと見ていて――。結局「ごめん……」と、わたしはうなだれる。
「まあ、いいけどね。そこがまた、逆にかわいいから」
気づいたら、わたしは彼の胸に手を置いて突っぱねていた。そういうつもりじゃなかったのに。言葉も態度も、彼を拒む姿勢をとっていたのだ。
「あっ、違うの、わたしったら――」
「いいって!」彼はわたしの言葉をさえぎった。「謝らなくていいよ。こういうことってさ、焦るもんじゃないしな」
素直に受け取っていいのだろうか。迷ってしまった。
迷った末に、彼の胸の上に置いた手をおろしかけた。彼が、ぎゅっとその手を握ってくる。
「ありがとうだけでも、うれしいよ」
「うん」
今度は素直にうなずくことができた。彼の手のあたたかさに背中を押されたようで。わたしもうれしい。
「おれの方こそ、ごめんな。変なこと言って」
「ううん」
彼は白い歯を見せて、ニッと笑った。胸がほわっとあったかくなる。今感じた気持ちをずっと、ずっと大切にしたい、と心の底から思った。




